未回収のイタリア
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大戦後、1919年1月に始まったパリ講和会議では、さきのロンドン密約で保証されていたイタリアの植民地拡大はほとんど認められず、フィウーメ(現在のクロアチアのリエカ)の併合問題も保留とされたため、イタリアは「講和での敗戦国」と呼ばれるほどであり、講和会議に参加していた首相ヴィットーリオ・エマヌエーレ・オルランドは、この内容を不服として会議の席をけって退出するほどであった[3]。結局、オルランド代表は講和会議をボイコットして帰国、フィウーメ獲得失敗を理由に1919年6月、首相を辞職した[3]。後継のフランチェスコ・サヴェリオ・ニッティが同月ヴェルサイユ条約に調印したが、イタリア国民の多くは講和内容に不満をもち、「損なわれた勝利」という感情がひろまった[3][4]

こうしたなか、耽美主義的な文学者ガブリエーレ・ダンヌンツィオは、1919年9月に決起して真紅のフィアット501(イタリア語版)で連合国軍共同管理下にあったフィウーメに向かった[5]。この決起には、ダンヌンツィオの行く先々で大戦の復員兵などが義勇兵として加わり、彼を司令官とするフィウーメ独立政府(カルナーロ=イタリア執政府)が成立した[3][5]。ダンヌンツィオのもとには、サンディカリスト、アナーキスト、のちにファシズムにつながる人びとなど多種多様な人びとが集まった[5]

1920年11月のラパッロ条約などによって、ようやく南ティロル地方やトレンティーノ地方、トリエステを含むイストリア地方、ダルマチア地方に属する一部の島がイタリア領となった。しかし、フィウーメについては新しく建国されたユーゴスラヴィア(現スロベニアクロアチア)の領土となることが決まった。一方、フィウーメ市民は当初、ダンヌンツィオを熱狂的に支持し、協力を惜しまなかった。しかし、やがて食糧配給もままならない状態となってダンヌンツィオに対する不満が高まり、さらにダンヌンツィオはラパッロ条約の撤回を求めたためイタリア国軍と交戦状態となったため、フィウーメ市民からの支持を完全に失った[3][5]。この年の12月、ダンヌンツィオは降伏し、約15か月間つづいた占領状態は終わった[3][5]

現在、イタリア共和国ボルツァーノ自治県となっている南ティロルについては、すでに当時からドイツ系住民が長年にわたり居住してティロル州の一部として定着していたために、逆にオーストリア世論が「固有の領土を不当に奪われた」と反発してその奪回を求めた。このため、イタリアはあらたにオーストリアやユーゴスラヴィアとの新たな国境紛争をかかえることとなった。
問題の解決

その後、1943年第二次世界大戦においてイタリアは敗北し、1946年には南ティロル地方のドイツ系住民に自治権が認められ、1975年オージモ条約によってトリエステ自由地域をイタリア・ユーゴスラビア両国で分割することを相互に承認してトリエステ問題も解決した。
広義の「未回収地域」

「未回収のイタリア」を広義にとらえ、「イタリア語の発音が聞こえる全ての地域」すなわちイタリア系の言語・文化・民族が支配的な地域をすべてイタリア領として主張する動きもあった。これによれば、イタリア統一の過程でフランスに割譲したサヴォイア(サヴォワ)とニッツァ(ニース)をはじめ、スイスティチーノ州グラウビュンデン州の一部、当時イギリス領であったマルタ島、フランス領のコルシカ島、さらに本土から地中海を挟んで対岸にあたるアフリカチュニス(当時フランス保護領)などの地域までも含んだ。そのためファシスト政権下のイタリアではこれらの「回復」が目指されたが、1943年のイタリア降伏によって、すべて放棄させられた。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ チュニジアにはイタリア南部出身の入植者も居住しており、両者の経済的な結びつきも強く、国内外でイタリア勢力圏とみなされていた。北原(2008)pp.440-441

出典^ a b c d e f g h イタリア・イレデンタ(コトバンク)
^ a b c d e f g h i j k 北原(2008)pp.440-442
^ a b c d e f g 山内(1975)pp.342-345
^ a b c d 北原(2008)pp.473-474
^ a b c d e 鶴岡(2012)pp.228-239

参考文献

北原敦 著「第10章 国家の建設と国民の形成」、北原敦 編『イタリア史』山川出版社〈新版 世界各国史〉、2008年8月。


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