木本
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しかし、現実にはほとんどの維管束植物で道管や仮導管の細胞壁は二次壁により肥大するため(つまり程度もの)、なにをもって「非常に厚い細胞壁」とするかは完全に恣意となり、厳密に適用すればほぼ全てが木に分類されてしまう。

上田弘一郎(京都大学名誉教授、「世界の竹博士」)は「竹は木のようで木でなく、草のようで草でなく、竹は竹だ!」と力説していた[5]。つまり、この発言も示すように専門家でも維管束植物を木か草に2分類するような定義は策定・同意しかねるものである。
進化的意味

木は陸上植物のみに見られる植物の形である。水中の植物のうち、海藻に分類されるコンブのように大きくなるものはあるが、それらは柔軟で細長い構造をしており、幹のような構造を持たない。これは、水中では体を支える必要がないこと、逆に陸上ではそれを支える仕組みなしには生存できないことによる。陸上生活を行うために、植物は空気中で広げられる葉や、それを支える茎、それに体を固定し保持し、水を吸い上げる根を発達させた。そのことで体を空中に突き出すことができるようになったことが、今度は他者より高い位置に出てその上に葉を広げる競争を生み出したのであろう。そしてこれを大規模に行うための適応が、木質化や肥大成長であり、それを支える根もさらに発達し、そのような構造を獲得することで植物は地上でもっとも背の高い生物となり得た。また、胞子による繁殖から種子の形成に至る生殖方法の進化は、自由な水に依存しない生殖を確保する方向の進化といわれるが、同時にそのような構造が地表をはるかに離れた枝先に形成されるようになったことの影響も考えられる。
生態学的意味

樹木は、それが可能な条件下では、ほとんどの陸上環境において、その地で最も大きくなる植物である。樹木が生育すれば、それによって地面は覆われ、その下はそれがない場合とははるかに異なった環境となる。これによって形成される相観、あるいはそこに見られる生物群集森林という。したがって、樹木の生育は、ある面でその地域の生物環境の重要な特徴を形成する。気候生態系をそこに成立する森林の型で分けるのはそのためである。

また、樹木は、その体を支持するために太くて固い幹を持つ。この部分はその群集、あるいは生態系における生物量の大きな部分を占める。つまり、木は生産物を多量に蓄え、保持するという点で、極めて特異な生産者である。その資源の大部分はセルロースリグニンという、いずれも分解の困難な物質であり、しかも頑丈で緻密な構造を作るため、これをこなせる生物は少ない。菌糸をのばし、その表面で消化吸収を行なうという生活の型をもつ菌類は、この資源を利用して進化してきたという面がある。それを含めて、この資源を巡っては、分解者と呼ばれるような、独特の生物の関わりが見られる。そこに生息する動物にも、シロアリキクイムシなど、菌類や原生生物との共生関係を持つものがある。樹木を下から見た様子

他方、太くて高く伸びる茎や、細かく分かれた枝葉は、他の生物にとっては複雑で多様な構造を提供するものであり、生物多様性の維持に大きな意味をもつ。また、森林において、生産層は樹木の上部に集中する。しかし、それらは地上から離れて存在する幹から伸びたものである。したがって、ここを生息の場とする場合、場所を変えようとすれば、飛ばない限りは、一旦地上におりなければならない。これは大変なエネルギーロスである。動物の飛行滑空の能力の発達は、ここにかかわる場合も多いと考えられる。
分類学的意味

樹木になる植物は、シダ植物種子植物のみである。コケ植物には樹木はない。

シダ植物には、古生代にはリンボクなど多数の樹木が存在したが、それらの子孫はごく小型の草本として生活している。現在のシダ類で大型になるのは、ヘゴなど、いわゆる木生シダである。ただし、その茎は肥大成長を行うことがなく[6]、下部は表面を覆う根に支えられている。

裸子植物の祖先とされるシダ種子植物も大型で、裸子植物のほとんどが木本である。中生代の地上を覆ったのは、裸子植物の森林であった。それ以降は、その後に出現した被子植物に多くの場所で取って代わられ、裸子植物は寒冷地などにその勢力の多くを保持している。

子植物は木本のものも草本のものもあるが、どうやら草本の性質は木本から二次的に出現したと考えられている。特に双子葉植物に木本のものが多い。非常に多くの群があるが、森林の形成から見ると、ブナ科植物が重要である。

単子葉植物は大部分が草本である。樹木的外見を持つものはあるが、多くは普通の意味での木本はなく、いずれも特殊な構造をしている。バナナは茎ではなく偽茎で、葉鞘が重なり合ったものである。イネ科タケは草本のままであるが、木質化が強く、木本・草どちらとも取れる[7]ヤシ科タコノキ科などはより木本であるが、二次成長のための構造がないため、茎は太っていかない。センネンボクなどは特殊な維管束形成層を発達させ、肥大成長をするため、木本といっていい。
種類

樹木はその性質によって様々に分類される。葉の形状によっても、樹木は葉の細い針葉樹と葉の広い大きく広葉樹とに大きく二分される[8]。広葉樹は温暖な熱帯から温帯にかけて広がり、夏緑樹林硬葉樹林照葉樹林などの樹林を形成する。針葉樹は寒冷な地域に適応した樹種であり、温帯北部から冷帯にかけて広大な針葉樹林を形成する。

落葉の有無については、葉を一年中つけている常緑樹と、季節により葉を全て落とす落葉樹とに大別される。落葉樹は一年ごとに全て葉を落とすが、常緑樹の葉も生えかわらないわけではなく、おおよそ3年から5年で古い葉を落とす[9]。常緑樹はさらに、広い葉を持つ常緑広葉樹(ツバキタブノキクスノキなど。常緑広葉樹林を造る)と、細い葉を持つ常緑針葉樹(耐寒性があり温帯北部から冷帯に分布する。モミトウヒなど)に分かれる。落葉樹も同様に、温帯に分布する落葉広葉樹(ブナミズナラなど)と冷帯北部に分布する落葉針葉樹(カラマツメタセコイアなど)に大別される。

樹木の常緑と落葉は、その地域の気候条件によって左右される。植物の生育に特に不利な期間がない場合、葉を落とす必要がないため常緑となる。熱帯雨林が常緑樹によって構成されるのはこのためである[10]。温帯のうちでもそれほど強い乾燥や寒気にさらされない場合は、乾燥に適応した硬葉樹や寒気に適応した照葉樹などのように、ある程度抵抗力を備えた常緑の葉を茂らせている場合が多い[11]。しかし温帯のうちでも強い乾季や寒冷な冬など、葉をつけたままでは不利になる期間の多い地域においては落葉樹が優勢となる。しかし冷帯に入ると、1年で葉を落として再び茂らせるだけの余裕がなく光合成ができるようになった場合にはすぐにそれを開始しなければならないため、樹木は再び常緑となる。しかし冷帯でも寒帯にほど近い地域になると、冬の寒気があまりにも厳しすぎるため葉を落とさざるを得なくなり、落葉針葉樹が生育するようになる[12]
構造イチイの幹の断面。外側の色が薄い部分が「辺材」、内側の色が濃い部分が「心材」である。

木の基本的な構造は、草とそれほど変わるものではない(上述)。すなわち光合成を行いを生産すると、地中深くに伸びて養分と水を吸収する、そしてその二つをつなぎ養分や水を送る構造を持つ硬いをもち、そこから幾本ものを伸ばす。幹は木質化し、次第に太く成長する。幹の最も外側には外樹皮があり、これが木の表面を覆っている。そのすぐ内側にある内樹皮は師部とも呼ばれ、葉で生産された養分を根や木全体へと運んでいる。その内側には形成層が存在し、ここで行われる細胞分裂によって木は年々太くなっていく。形成層の内側は木部となり、基本的には死んだ細胞によって構成されるが一部生きた細胞も存在する[13]。木部は外側の辺材と内側の心材とに大別され、辺材部分において根から吸収された水分を木全体へと輸送している。ただしこの輸送は辺材全体で行われるのではなく、そのほとんどがもっとも外側の辺材(最新の年輪)の部分によって行われる[14]。また、年輪において色の薄く幅広い部分は早材と呼ばれ夏季に成長した部分、色が濃く狭い部分は晩材と呼ばれ冬季に成長した部分である。早材の部分は主に水を通し、晩材の部分は通水よりも木全体の強度の増進に役だっている[15]。辺材はやがて内側から徐々に心材へと変化していく。心材部分において通水は行われず、木全体を支える役割を果たすことになる。

枝の先にはを付け、を咲かせ、主に種子をもって繁殖する。

土壌では、樹木に限らず多くの植物の根が真菌菌糸と接続している。木は真菌からリンなどのミネラルを獲得し、一方、真菌は木から光合成炭水化物生成物を得る。菌糸は異なる樹木を結ぶことができ、ネットワークが形成され、ある場所から別の場所へ栄養素およびシグナルを伝達する[16]
木と文化詳細は「en:Sacred grove」および「en:Trees in mythology」を参照

木は古代から豊穣なイメージを提供している主題であり、現代でもそうあり続けている。特に大きな樹木を神聖視して、神木として祭り崇めることを巨木信仰という。世界樹のように天に届く木や、世界を支える木に関する神話伝説が世界各地にみられる(北欧神話ユグドラシルなど)。


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