有害図書
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2011年7月1日以降は、漫画アニメ [注 2]などで「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように描写し、又は表現する」ものも不健全図書指定の対象となる(第8条1項2号)。

2010年代後半以降は不健全指定図書の大半がボーイズラブ作品となっており[5]参議院議員山田太郎は、こうした青少年健全育成を理由としたBLの規制に危惧を表明している[6]。具体的には、2017年を機に男性向け漫画と女性向けBL漫画の不健全指定の比率が逆転してBLの方が多くなっているが、これは男性向けの過激な作品が初めから成人向けマークを付けて販売される一方で、BLは女性向けという性質上、概ね男性向けのみが占める18禁コーナーには置きづらいことが一因とされる[7]。漫画家の森川ジョージによれば、東京都の不健全図書指定により100人以上のBL漫画作家が収入を断たれたとされる[8]

実写系書籍、雑誌もかつては不健全指定されていたものの、2023年7月時点で最後に不健全指定された実写系雑誌は高齢者向けのセックスハウツー本であった『わたしの健康DX2』(主婦の友社、2015年指定)である[7]

2022年12月には元都議会議員の栗下善行が、「不健全図書」という名称は成人にとっても有害であるかのような誤解を招くとして変更を求める陳情を都議会に提出し、漫画家のちばてつや森川ジョージ諌山創らの賛同も得た[9][10]。陳情自体は不採択に終わったものの、陳情審査においては「改称について検討すべき」との前向きな意見も出された[9]

漫画評論家の永山薫は、東京都の不健全指定が2023年1月から5月までの間にBL漫画1冊しかされていない現状から、「そもそも今の青少年が紙の本を読んで非行に至るとは考えられず、条例の大義名分が形骸化する中で、東京都も慎重にならざるをえないのではないか」と解説している[11]

有害図書の指定に当たっては、出版物本体にあたる印刷物だけでなく付録として添付されるCD-ROMなどの中身も審査の対象となるため、一時は本誌には性的な内容が全く含まれないパソコン雑誌が「付録CD-ROMの中に性的な画像が記録されている」という理由で有害図書指定される例も相次いだ。このため出版社によっては、成人向け雑誌部門を別会社として切り離したり、有害図書指定取り消しを求める訴訟に発展するケースも見られた(後述)。

一部の都道府県ではコンピュータゲームソフトも有害図書制度の対象とされており、神奈川県では『グランド・セフト・オートIII』が有害図書に指定されている(その後、大阪府などいくつかの都府県でも指定された)。
流通業界の対応

有害図書に指定された書籍(『完全自殺マニュアル』(鶴見済)など)は、一部の書店で陳列販売されていない。小さな書店では、区分陳列のスペース確保と年齢認証の煩雑さなどから取り扱わず、顧客の注文で出版取次から取り寄せるケースとなる。

Amazon.co.jpでは成人向けマーク付きの商品は販売しているが、東京都によって不健全指定された書籍の取り扱いは規約で禁止しており[12]、該当する書籍はAmazonのウェブページから削除される[13]。また、鳥取県の条例では県外の事業者も規制対象としており、鳥取県で有害指定された書籍がAmazon.co.jpで販売停止となった事例がある[14]

その一方、不健全指定や有害指定自体は販売を全面禁止するものではなく、あくまでも青少年への販売を規制するものに過ぎないため、Amazon以外のECサイトでは「成人向け商品」として販売が継続されているケースが多い。なお、東京都により不健全指定された書籍のタイトルは東京都のウェブサイト上の不健全指定図書類一覧で確認できる。

出版業界の主要4団体が1963年昭和38年)に設立した出版倫理協議会では、1965年(昭和40年)に自主規制ルールとして「東京都の不健全図書(有害図書)として連続3回、もしくは1年間に5回以上指定された雑誌は、特別な注文等がない限り取次業者では扱わない」というルールを定めており[15]、そのためこのルールに該当した出版物は事実上書店での販売が困難となる。その場合出版社は成人向けに限定した形でアダルトグッズショップや直接販売などの通販・チャンネルで販売を継続するか、もしくは廃刊・絶版するかの選択を余儀なくされることがある。

また、大手コンビニチェーンや書店の中には「前記の取次停止ルールに該当する出版物を発行している出版社の出版物は、有害図書指定されていない他の出版物も含めて一切取り扱わない」という方針を示しているところもあり、そのためコンビニ販売が主力となる雑誌類を抱えている出版社の中には、万が一の事態に備えて成人向け雑誌・書籍部門を別会社として本体から切り離す動きも見られる(例:毎日コミュニケーションズMCプレス)。

フリーマーケットサイトのメルカリでは、有害図書・不健全図書を含め、成人向け作品全般の出品を禁止しているが[16]、有害図書・不健全図書には成人向けマークが付いていないため、出品者が事前に気づくことが難しいという問題がある。
最高裁における合憲判断

青少年保護育成条例における有害図書指定制度は、青少年の健全な育成を目的に、性や暴力に関して露骨な描写を含んだ書籍などを「有害図書」などに指定することで、青少年への販売を禁止するものである。これは明らかに青少年の「知る権利」を制限するものであるから、日本国憲法第21条との関係でその合憲性が問われることになる。

これが実際に問題となったのが「岐阜県青少年保護育成条例事件」(最高裁判所平成1年9月19日第三小法判決 刑集43巻8号785頁)である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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