作中で提示される、月まで投射物を到達させるために必要な初速や、その際の飛行所要時間など、天体力学的な理論面にはおおむね不備がない。着陸時にロケットを逆噴射する構想などにも先見性が見られる。
しかし270m程度の距離内で第二宇宙速度近くまで加速を行う場合、砲弾にかかる加速度の平均値は約2万Gとなり、人体は絶対に耐えられない。作中で言及がある「対ショック姿勢」や緩衝材も、これほどの大加速度には無意味である。ただし前述の通り、この箇所についてはミスではなく意図的な考証無視である。
また砲身内の空気が一瞬では砲口から排出されないため砲弾は前方の空気と後方の火薬ガスに挟まれて潰れてしまうという問題がある。それが解決されたとしても、大気圏を抜け出る前に砲弾は空力加熱で融けてしまう(→宇宙機の空力加熱については大気圏再突入に詳しい)。
無重力状態が月=地球の重力均衡点(ラグランジュ点参照)でしか実現されないという描写も正しくない。推進力を発揮せずに宇宙飛行する(自由落下する)砲弾の内部は、常に無重力となる。
主要な日本語訳が望まれています。
1883年(明治16年)、黒岩涙香が『月世界旅行』の邦題で翻案。以来、ジュール・ヴェルヌの他の作品同様、数多く翻訳(もしくは翻案)されている。ただし前編と後編が揃って完訳されることはまれである。また後編の翻訳が(児童向けも含めて)比較的、多くの種類があり継続的に刊行されたのに対し、前編の翻訳は種類が少なく入手不能な時期が長かった。邦題は各社で一定していない。 古くは1902年にジョルジュ・メリエスが本作を基にした映画を作っている(月世界旅行 (映画)を参照)。またポーランドのイェジイ・ジュワフスキは1903年のNa Srebrnym Globie(銀球で)において(ヴェルヌにも言及しつつ)砲弾式の宇宙船による月探検を描いている[8]。現代の作品としては、イギリスのSF作家スティーヴン・バクスターによる短編小説『コロンビヤード』(1996年)や、2008年の日本製アニメーション『Rocket! ぼくらを月につれてって 新・月世界旅行』がある。前者は本二部作の続編的な作品で、火星への飛行が描かれる。後者は本二部作および『八十日間世界一周』をモチーフとした児童向けの作品であり、サイエンスチャンネルで放映された。また、大砲クラブ会長のインピー・バービケーンを吸血鬼として登場させた作品として、『オトメイト』作品の『コードリアライズ』がある。2022年には本二部作を原作とした朗読劇が鈴木勝秀の演出で『Sound Fantasy朗読劇「月世界旅行」』として上演された[9]。
『九十七時二十分間月世界旅行』井上勤・黒瀬勉二訳、(1880-81年)
前編"De la terre a la lune"
『月世界旅行』鈴木力衛訳、ジュール・ヴェルヌ全集9巻、集英社コンパクトブックス(1968年)
『詳注版 月世界旅行』ウォルター・J・ミラー編注、高山宏訳、東京図書(1981年)→ちくま文庫(1993年)
後編"Autour de la lune"
『月世界探検』高木進訳、ジュール・ヴェルヌ全集15巻、集英社コンパクトブックス(1968年)
『月世界へ行く』江口清訳、創元SF文庫(1964年初版)
合本版
『月世界旅行』江口清訳、東京創元社、世界大ロマン全集(1958年)
ただし前編の部分は抄訳である。[7]
前編・後編
『地球から月へ 月を回って 上も下もなく』石橋正孝訳、ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションU、インスクリプト(2017年)
前編・後編ともに完訳である。
派生作品
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