月世界旅行
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『詳注版 月世界旅行』の注釈者ウォルター・J・ミラー[6]によるとヴェルヌは無数の政治的なメッセージを本作に盛り込んでいる。例えば大砲クラブ員(アメリカ人)たちの描写には中華思想とも表現できる思想、好戦性が顕著である。月を目指すためのガジェットとして、科学性(後述)をある程度は犠牲にしてまで「大砲」が選ばれたのも、大砲が当時としては「兵器」の代表であり象徴であったことを風刺に活かすためだと分析されている。
科学考証

作中で提示される、月まで投射物を到達させるために必要な初速や、その際の飛行所要時間など、天体力学的な理論面にはおおむね不備がない。着陸時にロケットを逆噴射する構想などにも先見性が見られる。

しかし270m程度の距離内で第二宇宙速度近くまで加速を行う場合、砲弾にかかる加速度の平均値は約2万Gとなり、人体は絶対に耐えられない。作中で言及がある「対ショック姿勢」や緩衝材も、これほどの大加速度には無意味である。ただし前述の通り、この箇所についてはミスではなく意図的な考証無視である。

また砲身内の空気が一瞬では砲口から排出されないため砲弾は前方の空気と後方の火薬ガスに挟まれて潰れてしまうという問題がある。それが解決されたとしても、大気圏を抜け出る前に砲弾は空力加熱で融けてしまう(→宇宙機の空力加熱については大気圏再突入に詳しい)。

無重力状態が月=地球の重力均衡点(ラグランジュ点参照)でしか実現されないという描写も正しくない。推進力を発揮せずに宇宙飛行する(自由落下する)砲弾の内部は、常に無重力となる。
主要な日本語訳

この節の加筆が望まれています。

1883年(明治16年)、黒岩涙香が『月世界旅行』の邦題で翻案。以来、ジュール・ヴェルヌの他の作品同様、数多く翻訳(もしくは翻案)されている。ただし前編と後編が揃って完訳されることはまれである。また後編の翻訳が(児童向けも含めて)比較的、多くの種類があり継続的に刊行されたのに対し、前編の翻訳は種類が少なく入手不能な時期が長かった。邦題は各社で一定していない。

『九十七時二十分間月世界旅行』井上勤・黒瀬勉二訳、(1880-81年)

前編"De la terre a la lune"

『月世界旅行』鈴木力衛訳、ジュール・ヴェルヌ全集9巻、集英社コンパクトブックス(1968年)

『詳注版 月世界旅行』ウォルター・J・ミラー編注、高山宏訳、東京図書(1981年)→ちくま文庫(1993年)


後編"Autour de la lune"

『月世界探検』高木進訳、ジュール・ヴェルヌ全集15巻、集英社コンパクトブックス(1968年)

『月世界へ行く』江口清訳、創元SF文庫(1964年初版)


合本版

『月世界旅行』江口清訳、東京創元社世界大ロマン全集(1958年)

ただし前編の部分は抄訳である。[7]



前編・後編

『地球から月へ 月を回って 上も下もなく』石橋正孝訳、ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションU、インスクリプト(2017年)

前編・後編ともに完訳である。



派生作品

古くは1902年にジョルジュ・メリエスが本作を基にした映画を作っている(月世界旅行 (映画)を参照)。またポーランドのイェジイ・ジュワフスキは1903年のNa Srebrnym Globie(銀球で)において(ヴェルヌにも言及しつつ)砲弾式の宇宙船による月探検を描いている[8]。現代の作品としては、イギリスのSF作家スティーヴン・バクスターによる短編小説『コロンビヤード』(1996年)や、2008年の日本製アニメーション『Rocket! ぼくらを月につれてって 新・月世界旅行』がある。前者は本二部作の続編的な作品で、火星への飛行が描かれる。後者は本二部作および『八十日間世界一周』をモチーフとした児童向けの作品であり、サイエンスチャンネルで放映された。また、大砲クラブ会長のインピー・バービケーンを吸血鬼として登場させた作品として、『オトメイト』作品の『コードリアライズ』がある。2022年には本二部作を原作とした朗読劇が鈴木勝秀の演出で『Sound Fantasy朗読劇「月世界旅行」』として上演された[9]



出典・脚注^ a b c アンリ・ド・モントーによる挿絵
^ McDermot, Murtagh, https://www.daviddarling.info/encyclopedia/M/McDermot.html 
^ (PDF) ⇒A Trip to the Moon, ⇒http://www.authorama.com/full/pdf/A-trip-to-the-moon--Murtagh-McDermot.pdf 
^ この二部作の軸となるガジェットである大砲は、ふつうコロンビヤード砲と呼ばれている。ただし作中でも指摘されているように、この超巨大砲は厳密にはコロンビヤード砲ではなく、幾種類かの砲の特徴を併せ持っている。
^ エミール・バヤールによる挿絵
^ ウォルター・M・ミラー・ジュニアとは別人
^ 創元版『地軸変更計画』の、牧眞司による巻末解説
^ 長谷見一雄「ジュワフスキとポーランドSF」 - 『週刊朝日百科(通巻1248号) 世界の文学(19) ヨーロッパ III』(1999年)
^塚田僚一A.B.C-Z)主演 Sound Fantasy朗読劇『月世界旅行』開幕”. SPICE(スパイス) (2022年2月19日). 2022年2月25日閲覧。

参考資料

創元SF文庫版『月世界へ行く』(2002年28版)

榊原晃三訳『地軸変更計画』(創元SF文庫、2005年初版)の、牧眞司による巻末解説

ヴェルヌ著、W・J・ミラー編注『詳注版 月世界旅行』ちくま文庫、1999年

関連項目.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、月世界旅行に関連するカテゴリがあります。フランス語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります。地球から月へフランス語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります。月世界へ行く

マスドライバー作中で提唱されている方法はかなり乱暴(→#科学考証)だが、このアイデアはマスドライバーへと継承されている。ただしこちらは主に貨物輸送用途である。

HARP計画(en)アメリカとカナダが共同で行った大口径砲を用いた人工衛星打ち上げ計画。弾道学の権威であるジェラルド・ブル博士などが参加し、実験では実際に砲弾を宇宙空間にまで到達させたが、資金面などの問題から中止された。

コンスタンチン・ツィオルコフスキー

ロバート・ゴダード

ヘルマン・オーベルトロケット工学の開拓者とされる上記3人は、いずれもヴェルヌのこの小説に少なからず影響を受けたと言われている。

アポロ11号歴史上初めて人類を月面に到達させた宇宙船。打ち上げ箇所がフロリダ半島であり、地球帰還の着水箇所が北太平洋だったことから、本作との類似性が指摘された。ただし、本作のような月を周回した後の地球帰還は、既にアポロ8号で実現している。

ジュール・ヴェルヌ (ATV)当作の著者を冠した宇宙間補給船の名称。当作の直筆原稿も一緒に運送した。
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