主に江戸時代を舞台とした推理小説[注 1]。江戸市中で起きる様々な事件を解決していくもので、江戸町奉行所に勤めている与力や同心、また彼らから十手を預かる岡っ引(御用聞き)が主人公である場合が多い。時代小説の主流ジャンルの一つ。
岡本綺堂の『半七捕物帳』を嚆矢とし、佐々木味津三の『右門捕物帖』、野村胡堂の『銭形平次捕物控』、陣出達朗の『伝七捕物帳』、『新五捕物帳』、城昌幸の『若さま侍捕物手帖』など。『人形佐七捕物帳』の横溝正史は、作品に本格ミステリを配した点に特徴がある。シャーロック・ホームズを原書で読み構想したという岡本、クラシック音楽評論の草分けでもあった野村についても作品によっては本格趣味濃厚なものがあり、初期の捕物帳は江戸文化とともに欧米文化にも通暁した人々(岡本、横溝、城には翻訳の業績もある)によって拓かれてきた。これらのうち『半七――』『右門――』『銭形平次』を“三大捕物帳”、“三大”に『人形佐七――』『若さま侍――』を加えて“五大捕物帳”という[1]。戦後は池波正太郎『鬼平犯科帳』が代表的だが、近年は女性作家の活躍が目覚しい。
1949年(昭和24年)、野村胡堂が中心となり「捕物作家クラブ」が結成。のちに、日本作家クラブ、日本文芸家クラブとなった。
『半七捕物帳』はシャーロック・ホームズを意識して書かれたものであるが、その後に追随した作品の多くでは、推理小説的な要素よりも人情話やユーモア小説、伝記小説などとしての側面が強調された[2]。こうした点から、1950年ごろには推理小説のファンから格下に見られていたという[3]。ただし、久生十蘭『顎十郎捕物帳』や都筑道夫『なめくじ長屋捕物さわぎ』など、本格推理小説的な側面の強い作品も書かれている[2]。 中国の伝奇小説に範を取り、時代背景や実在の人物を借りながら、架空の人物を登場させ現実離れした活躍を描くもの。白井喬二、国枝史郎や初期の吉川英治など。 山田風太郎は、歴史を題材にする以上史実の改変は許されないとして、資料の欠陥部を補う想像力で多数の優れた作品を発表した。SFとの融合を果たした伝奇ロマンと呼ばれる分野は半村良が開拓。このほかSF作家の高橋克彦、夢枕獏らが独自の世界を築いた。 また戦前の立川文庫の路線は「忍者小説」と呼ばれ、風太郎が発表した「忍法帖」で知られる。 剣豪を主人公とした小説。いわゆるチャンバラシーンを骨格にして、宮本武蔵や柳生十兵衛のほかに、架空の剣士を活躍させる。実在の人物を題材にしたものには、吉川英治『宮本武蔵』、村上元三『佐々木小次郎』、五味康祐『柳生武芸帳』など。架空の人物を題材にしたものでは、中里介山の『大菩薩峠』、柴田錬三郎の『眠狂四郎無頼控』などが代表的。 武士や公卿やアウトローではなく、都市に住む平民、すなわち職人や商人、あるいはその日暮らしの下層の人々を主人公とした作品。庶民の人情を描いたものが多く、山本周五郎、伊藤桂一、藤沢周平らが代表作家。
伝奇小説
剣豪小説
市井小説
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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