日本語
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母音体系基本5母音の調音位置
左側を向いた人の口の中を模式的に示したもの。左へ行くほど舌が前に出、上へ行くほど口が狭まることを表す。なお、[o] のときは唇の丸めを伴う。

母音は、「」の文字で表される。音韻論上は、日本語の母音はこの文字で表される5個であり、音素記号では以下のように記される。

/a/, /i/, /u/, /e/, /o/

一方、音声学上は、基本の5母音は、それぞれ

[a]、[i?]、[u?]または[??]、[e?]または[??]、[o??]または[???]

に近い発音と捉えられる。? は中舌寄り、? は後寄り、? は弱めの円唇、? は強めの円唇、? は下寄り、? は上寄りを示す補助記号である。

日本語の「あ」は、国際音声記号 (IPA) では前舌母音 [a] と後舌母音 [?] の中間音 [a] に当たる。「い」は少し後寄りであり [i?] が近い。「え」は半狭母音 [e] と半広母音 [?] の中間音であり、「お」は半狭母音 [o] と半広母音 [?] の中間音である。

日本語の「う」は、東京方言では、英語などの [u] のような円唇後舌母音より、少し中舌よりで、それに伴い円唇性が弱まり、中舌母音のような張唇でも円唇でもないニュートラルな唇か、それよりほんの僅かに前に突き出した唇で発音される、半後舌微円唇狭母音である[52]。これは舌と唇の動きの連関で、前舌母音は張唇、中舌母音は平唇・ニュートラル(ただしニュートラルは、現行のIPA表記では非円唇として、張唇と同じカテゴリーに入れられている)、後舌母音は円唇となるのが自然であるという法則に適っている[53]。しかし「う」は母音融合などで見られるように、音韻上は未だに円唇後舌狭母音として機能する[54]。また、[??] という表記も行われる[要出典]。

円唇性の弱さを強調するために、[?] を使うこともあるが[55]、これは本来朝鮮語に見られる、iのような完全な張唇でありながら、u のように後舌の狭母音を表す記号であり、円唇性が減衰しつつも残存し、かつ後舌よりやや前よりである日本語の母音「う」の音声とは違いを有する。またこの種の母音は、唇と舌の連関から外れるため、母音数5以上の言語でない限り、発生するのは稀である。「う」は唇音の後ではより完全な円唇母音に近づく(発音の詳細はそれぞれの文字の項目を参照)。一方、西日本方言では「う」は東京方言よりも奥舌で、唇も丸めて発音し、[u] に近い。

音韻論上、「コーヒー」「ひいひい」など、「ー」や「あ行」の仮名で表す長音という単位が存在する(音素記号では /R/)。これは、「直前の母音を1モーラ分引く」という方法で発音される独立した特殊モーラである[56]。「鳥」(トリ)と「通り」(トーリ)のように、長音の有無により意味を弁別することも多い。ただし、音声としては「長音」という特定の音があるわけではなく、長母音 [a?] [i??] [u???] [e??] [o???] の後半部分に相当するものである。

「えい」「おう」と書かれる文字は、発音上は「ええ」「おお」と同じく長母音 [e??] [o???] として発音されることが一般的である(「けい」「こう」など、頭子音が付いた場合も同様)。すなわち、「衛星」「応答」「政党」は「エーセー」「オートー」「セートー」のように発音される。ただし、九州や四国南部・西部、紀伊半島南部などでは「えい」を [e?i] と発音する[57]。「思う」[omo??]、「問う」[to??]などの単語は必ず二重母音となり、また軟骨魚のエイなど、語彙によって二重母音になる場合もあるが、これには個人差がある。1文字1文字丁寧に発話する場合には「えい」を [e?i] と発音する話者も多い。

単語末や無声子音の間に挟まれた位置において、「イ」や「ウ」などの狭母音はしばしば無声化する。たとえば、「です」「ます」は [de?su???] [masu???] のように発音されるし、「菊」「力」「深い」「放つ」「秋」などはそれぞれ [k?i??ku??] [?i??ka?a] [?u???kai?] [hana?u???] [ak?i??] と発音されることがある。ただしアクセント核がある拍は無声化しにくい。個人差もあり、発話の環境や速さ、丁寧さによっても異なる。また方言差も大きく、たとえば近畿方言ではほとんど母音の無声化が起こらない。

」の前の母音は鼻音化する傾向がある。また、母音の前の「ん」は前後の母音に近似の鼻母音になる。
子音体系

子音は、音韻論上区別されているものとしては、現在の主流学説によれば「か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ行」の子音、濁音「が・ざ・だ・ば行」の子音、半濁音「ぱ行」の子音である。音素記号では以下のように記される。ワ行とヤ行の語頭子音は、音素 u と音素 i の音節内の位置に応じた変音であるとする解釈もある。特殊モーラの「ん」と「っ」は、音韻上独立の音素であるという説と、「ん」はナ行語頭子音 n の音節内の位置に応じた変音、「っ」は単なる二重子音化であるとして音韻上独立の音素ではないという説の両方がある。

/k/, /s/, /t/, /h/(清音)

/?/, /z/, /d/, /b/(濁音)

/p/(半濁音)

/n/, /m/, /r/

/j/, /w/(半母音とも呼ばれる)

一方、音声学上は、子音体系はいっそう複雑な様相を呈する。主に用いられる子音を以下に示す(後述する口蓋化音は省略)。

唇音舌頂音舌背音咽喉音
両唇音歯茎音そり
舌音
硬口
蓋音
軟口
蓋音
口蓋
垂音
声門音
破裂音p  bt  d  k  ?  
鼻音mn ??? 
はじき音 ??    
摩擦音?s  z c? h
接近音(β?)  j?  
側面音はじき音 ?     
側面接近音  l     

? ?歯茎硬口蓋摩擦音

破擦音歯茎音歯茎硬口蓋音
無声音t?st??
有声音d?zd??

基本的に「か行」は [k]、「さ行」は [s]([θ] を用いる地方・話者もある[57])、「た行」は [t]、「な行」は [n]、「は行」は [h]、「ま行」は [m]、「や行」は [j]、「だ行」は [d]、「ば行」は [b]、「ぱ行」は [p] を用いる。

「ら行」の子音は、語頭では [?]、「ん」の後のら行は英語の [l] に近い音を用いる話者もある。一方、「あらっ?」というときのように、語中語尾に現れる場合は、舌をはじく [?] もしくは [?] となる。

標準日本語およびそれの母体である首都圏方言(共通語)において、「わ行」の子音は、上で挙げた同言語の「う」と基本的な性質を共有し、もう少し空気の通り道の狭い接近音である。このため、[u] に対応する接近音[w] と、[?] に対応する接近音[?] の中間、もしくは微円唇という点で僅かに [w] に近いと言え、軟口蓋(後舌母音の舌の位置)の少し前よりの部分を主な調音点とし、両唇も僅かに使って調音する二重調音の接近音といえる[58]。このため、五十音図の配列では、ワ行は唇音に入れられている(「日本語」の項目では、特別の必要のない場合は [w] で表現する)。外来音「ウィ」「ウェ」「ウォ」にも同じ音が用いられるが、「ウイ」「ウエ」「ウオ」と2モーラで発音する話者も多い。

「が行」の子音は、語頭では破裂音の [g] を用いるが、語中では鼻音の [?](「が行」鼻音、いわゆる鼻濁音)を用いることが一般的だった。現在では、この [?] を用いる話者は減少しつつあり、代わりに語頭と同じく破裂音を用いるか、摩擦音の [?] を用いる話者が増えている。

「ざ行」の子音は、語頭や「ん」の後では破擦音(破裂音と摩擦音を合わせた [d?z] などの音)を用いるが、語中では摩擦音([z] など)を用いる場合が多い。いつでも破擦音を用いる話者もあるが、「手術(しゅじゅつ)」などの語では発音が難しいため摩擦音にするケースが多い。なお、「だ行」の「ぢ」「づ」は、一部方言を除いて「ざ行」の「じ」「ず」と同音に帰しており、発音方法は同じである。

母音「い」が後続する子音は、独特の音色を呈する。いくつかの子音では、前舌面を硬口蓋に近づける口蓋化が起こる。たとえば、「か行」の子音は一般に [k] を用いるが、「」だけは [k?] を用いるといった具合である。口蓋化した子音の後ろに母音「あ」「う」「お」が来るときは、表記上は「い段」の仮名の後ろに「ゃ」「ゅ」「ょ」の仮名を用いて「きゃ」「きゅ」「きょ」、「みゃ」「みゅ」「みょ」のように記す。後ろに母音「え」が来るときは「ぇ」の仮名を用いて「きぇ」のように記すが、外来語などにしか使われない。

「さ行」「ざ行」「た行」「は行」の「い段」音の子音も独特の音色であるが、これは単なる口蓋化でなく、調音点が硬口蓋に移動した音である。


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