日本語の表記体系
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1948年に「日本語は漢字が多いために覚えるのが難しく、識字率が上がりにくいために民主化を遅らせている」という偏見から、GHQジョン・ペルゼル[2]による発案で、日本語をローマ字表記にしようとする計画が起こされた。そして正確な識字率調査のため民間情報教育局は国字ローマ字論者の言語学者である柴田武に全国的な調査を指示した(統計処理は林知己夫が担当)。1948年8月、文部省教育研修所(現・国立教育政策研究所)により、15歳から64歳までの約1万7千人の老若男女を対象とした日本初の全国調査「日本人の読み書き能力調査」が実施されたが、その結果は漢字の読み書きができない者は2.1%にとどまり、日本人の識字率が非常に高いことが証明された。柴田はテスト後にペルゼルに呼び出され、「識字率が低い結果でないと困る」と遠回しに言われたが、柴田は「結果は曲げられない」と突っぱね[3]、日本語のローマ字化は撤回された(漢字廃止論も参照)[4]。この調査方法には、設問や地域による影響も指摘されている[5][6]。日本の文化人の中にも、ローマ字表記を主張し試行する者がいたが、全かな表記と同様、漢字を表記しないと意味識別が困難であり、実用化されなかった。

独立を回復すると、「国語改革はGHQの愚民化政策だった」とする説が流れ反発を招いた。荒木万寿夫文部大臣は改革派を追放し1963年には国語審議会で、吉田富三が「国語は漢字かな交じり文をもって表記の正則とする。国語審議会はこの前提の下に、国語の改善を審議するものとする」という提案を行い、1965年には認められた。この吉田提案は「現状の姿が最も正しい形であり、漢字が多すぎる等というのは誤りである」と主張し、江戸時代以来の漢字廃止論はここで幕切れとなった[1]。これが日本で漢字かな交じり文が公的に認められた最初である。韓国北朝鮮は漢字混在表記を廃止してハングルチョソングルに変更し、ベトナムも独立後に漢字を全廃してアルファベットを使ったクオック・グーに移行したが、日本では漢字文化に留まることとなった。
常用漢字時代

1978年に登場した東芝JW-10は、日本語の新しい時代を予見させるものだった。1981年、それまでの制限的な色合いが大幅に緩和され、当用漢字を元にしつつも、緩やかな目安である常用漢字1945字が内閣から告示され、当用漢字は廃止された。

戦後の日本語表記に関して、ごく簡略に言えば「名詞・用言の語幹を漢字で、用言の活用語尾・付属語をひらがなで表記する」という書き分けの原則が存在する(詳細は上記文字種の使い分けの項参照)。わかち書きを行わない日本語の表記では、この原則が語と語の切れ目を表示する機能を担っている。しかし公文書などは当用漢字常用漢字のみをもって記述すべきとの方針が示され、新聞などもこれに倣ったため、交ぜ書き(例:拿捕→だ捕)や漢語の仮名表記(例:軋轢→あつれき)が頻繁に見られていたが、かえって読みづらい、見苦しい、文化破壊である、といった批判も根強く、徐々に減少している。

2004年には、法務省の手で人名用漢字が大量に追加された。
意味合いを伝える日本語表記系

他の言語では説明を追加したり単語自体を変更したりしなければならない情報でも、日本語の表記システムを用いれば同じ単語の表記を変えるだけで伝えることができる場合がある。例えば英語の「 I 」、ドイツ語の「 ich 」、ロシア語の「 Я 」に相当する「私」は男女兼用でフォーマルな文章にしばしば用いられる。ひらがなで書いた「わたし」は、口語的なニュアンスを帯びており優しい感じがするので、男女ともに気楽な場や、親しみやすさを表現したい場合に使用される。例えば、女性が日記や友人への手紙で用いるなどは、その典型である。

カタカナの「ワタシ」は通常はほとんど用いられず、あえて一人称を強調する時や、外国人が片言で話す雰囲気を出す場合に用いられることがある程度である。転写にすぎないローマ字の「watashi」は、出現することは滅多になく、言語学暗号などなにかの意図を含める場合にしか出現しない。ただし言語学の場合で問題になっているのは単語の意味ではなく単語それ自体である。暗号の場合は表記を隠す意図による。

文体上の狙いで漢字の複合語を恣意的に読ませることもできる。例えば夏目漱石は短編『十五夜』の中で名詞の「接続」を動詞的に活用した「接続って」を「つながって」と読ませている。これは通常ならば「繋がって」「つながって」と書くものである。なお、このような複数の漢字を、それに意味的対応する日本語のかな読みする例は、「天皇」を「すめらみこと・すめろぎ」、「日本」を「やまと」と読ませるなど、古くから存在している。
ローマ字転写詳細は「ローマ字」を参照

日本語をローマ字で転写する方法にはいくつかある。英語利用者向けに開発されたヘボン式は、実用的な標準の表記法として、日本国内の外ラテン文字圏で用いられている。訓令式はカナとの対応が良く日本語話者には学びやすい。文部省がこれを公式に支持しているが、学校教育以外で用いられることは稀である。国際規格としてISO 3602があり、他にも日本式JSL、ワープロ式がある。

キリル文字アラビア文字デーヴァナーガリーによる転写もある。
文字の書体

日本語の表記に用いられる文字の主な書体として次のものがある。

楷書体

行書体

草書体

江戸文字各種

明朝体

ゴシック体

ポップ書体

脚注[脚注の使い方]
注釈^ 漢字は「五輪代表」と「」と「出場」と「含」。
^ ひらがなは「」と「にも」と「み」。
^ カタカナは「ラドクリフ」(ポーラ・ラドクリフを参照)と「マラソン」。
^ ラテン文字はここでは単位としてのメートルを意味する「m」、アラビア数字は「1

出典^ a b カナモジカイ国語国字問題講座
^ 日本人名大辞典+Plus, デジタル版. “ペルゼルとは”. コトバンク. 2021年3月2日閲覧。
^朝日新聞』夕刊、2008年12月5日付
^ 『戦後日本漢字史』(新潮選書、阿辻哲次)p.40-
^ 「日本人の読み書き能力調査 」(1948)の再検証
^ 日本人の読み書き能力1948 年調査の非識字者率における生年の影響

参考文献

伴直方
『国字考』〈『国語学大系』第八巻〉厚生閣、1940年

Christopher Seeley 『The Japanese Script since 1900』 Visible Language, XVIII 3, 267-302, 1984

Yaeko Sato Habein 『The History of the Japanese Written Language』 University of Tokyo Press, 1984 ISBN 0-86008-347-0

Nanette Twine 『Language and the Modern State - The Reform of Written Japanese』 Routledge, 1991 ISBN 0-4150-0990-1

Christopher Seeley 『A History of Writing in Japan』 University of Hawai'i Press, 1991 ISBN 0-8248-2217-X

Nanette Gottlieb 『Kanji Politics - Language Policy and Japanese Script』 Kegan Paul, 1996 ISBN 0-7103-0512-5

J. Marshall Unger 『Literacy and Script Reform in Occupation Japan: Reading Between the Lines』 OUP, 1996 ISBN 0-1951-0166-9


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