日本語の方言
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連母音aiは、東日本・中国・九州のほとんどで融合するが、地域によりe?、??(エァー)、a?(アェー)、a?などと変化に富んでいる[20][37]。「ない」を例にとれば、「ねー」「ねぁー」「なぇー」「なー」となる。aiが??やa?となる場合はeiの融合したe?と区別されるが、東京ではどちらもe?となって区別がない。また、連母音oiやuiは、aiに比べると融合する地域は狭いが、関東西部・中部・中国・九州などで、「遅い」→「おせー」のようにoiはe?になり、「寒い」→「さみー」のようにuiはi?になる[37]。九州の大部分ではoiはi?にもなり、名古屋市付近ではoiはo?(オェー)に、uiはu?(ウィー)になる。

一方、連母音eiは、共通語も含めe?となる地域が多いが、紀伊半島南部の一部や高知県・愛媛県、九州各地、伊豆諸島の利島、八丈島三根では融合せずeiのままである[20][42][47]

古い時代の連母音au・ou・oo・euは、中世には、auは??(オァー)となり、ou・oo・euはo?と発音されるようになった。auの変化した音を開音、ou・oo・euの変化した音を合音と言い、この区別を「開合の区別」という。京都などでは江戸時代には開合の区別がなくなり両者ともにo?に統合され、日本の多くの地域でも同様に変化してそれが共通語となっている。そのため、「楊枝(歴史的仮名遣いで「やうじ」)」も「用事(歴史的仮名遣いで「ようじ」)」も「ヨージ」となっている。

一方、開合の区別を残している地域もある。新潟県越後中部では、「楊枝」を「ヨァージ[j??d?i]」、「用事」を「ヨージ[jo?d?i]」のように、開音は??、合音はo?となって区別が残っている[42]。また山陰の兵庫県但馬北部・鳥取県・島根県出雲・隠岐では、「女房(にょうばう)」を「ニョーバ」と言うように開音はa?となっていて、o?となった合音との区別を残している。九州や新潟県佐渡では、開音はo?となったが、合音はu?になっているため、「楊枝」は「ヨージ」だが「用事」は「ユージ」である[42]
声門破裂音

北琉球方言では母音・半母音の前の声門破裂音[?]の有無が弁別される[34]。声門破裂音は、前述のように薩隅方言で母音脱落に伴なって現われるほか、静岡県井川[48]、山梨県奈良田[49]でも、声門破裂音[?]が頻繁に聞かれる。

例:[?ami]雨(沖縄)
アクセント詳細は「日本語の方言のアクセント」を参照日本語のアクセント分布

日本語の方言のアクセントにはいくつかの種類があるが、代表的なものに東京式アクセント京阪式アクセント二型(九州西南部式)アクセントがあり、アクセントによる区別のない無アクセントの地域もある。またそれぞれのタイプの変種が存在する。
分布

東京式アクセントは、北海道、東北北部(北奥羽方言)、関東西部・甲信越・東海(西関東方言東海東山方言)、奈良県南部、近畿北西部・中国地方、四国南西部、九州北東部に分布する。京阪式アクセントは、近畿・四国のそれぞれ大部分と、北陸の一部に分布する。また、九州西南部に二型アクセントがある。一方、東北南部(南奥羽方言)・関東北東部(東関東方言)や九州中部などは、アクセント体系の存在しない無アクセントの方言である。また宮崎県都城市付近では、アクセントの型が1種類になっており、一型アクセントと呼ばれる。
方言間の対応関係

それぞれのタイプのアクセントは無関係に成り立っているのではなく、一定の対応関係がある。日本語に古くからある語は、全国の方言アクセントの比較から、いくつかの語群に分けることができる。たとえば2拍名詞は第1類から第5類まで5つのに分けられる(下表)。第1類の語は、「牛が・口が・水が」のように助詞をつけると、東京(東京式アクセント)では「低高高」と発音されるが、京都(京阪式アクセント)では「高高高」と発音される。第2類と第3類は、東京式や京阪式では統合してどちらも同じアクセントとなり、「音が・足が・川が」は東京では「低高低」だが、京都では「高低低」である。一方、鹿児島(二型アクセント)では第1類と第2類が同じアクセントだが、第3類は異なっている。第4類と第5類も、東京ではともに「高低低」だが、京都では第4類は「低低高」、第5類は「低高低」となって区別される。
全国各都市のアクセント[20]

 語例秋田東京富山京都高知広島鹿児島
一拍名詞1類蚊・子・戸かがかがかがかあがかがかがかが
2類名・葉・値ながながながなあがながながなが
3類木・手・目きがきがきがきいがきがきがきが
二拍名詞1類牛・口・水うしがうしがうしがうしがうしがうしがうしが
2類音・川・紙おとがおとがおとが
かみが※おとがおとがおとがおとが
3類足・池・犬あしがあしがいけが
あしが※あしがあしがあしがあしが
4類空・舟・箸そらが
はしが※そらがそらがそらがそらがそらがそらが
5類雨・春・前あめが
はるが※あめがあめが
はるが※あめがあめがあめがあめが
二拍動詞1類行く・着る・寝るいくいくいくいくいくいくいく
2類書く・待つ・降るかくかくかくかくかくかくかく
三拍動詞1類上がる・捨てるあがるあがるあがるあがるあがるあがるあがる
2類動く・起きるうごくうごくうごく五段うごく
一段おきるうごくうごくうごく
三拍形容詞1類軽い・遅いかるぃかるいかるいかるいかるいかるいかるぃ
2類白い・早いしろぃしろいしろいしろいしろいしろいしろぃ

※上段は二拍目が広母音(a,e,o)を持つもの。下段は二拍目が狭母音(i,u)を持つもの。
アクセントの体系

各タイプのアクセントはそれぞれの語群がどう発音されるかが異なっているが、それだけでなく、アクセントを弁別する体系でも違いがある。東京式アクセントでは、音の下がり目があるかないか、あるならばどこにあるかが弁別される。下がり目の直前の拍をアクセント核(下げ核)と言う。たとえば「雨が」は「高低低」と発音されるが、これは第1拍「あ」にアクセント核があり、その直後に下がり目がある。「足が」は「低高低」と発音され第2拍「し」にアクセント核があり、「牛が」は「低高高」でアクセント核がない。アクセント核を○と表すと、東京式アクセントの2拍語には○○、○○、○○(アクセント核なし)の3種類のアクセントが存在する。

一方、京阪式アクセントでは音の下がり目だけでなく、第1拍の高低も弁別する。たとえば、3拍語で第2拍にアクセント核のある語には、「高高低」(小豆、表、鏡など)[注釈 1]と「低高低」(苺、薬、鯨など)の2種類、アクセント核のない語には「高高高」(桜、形、羊など)と「低低高」(兎、狐、高さ)の2種類の区別がある。第1拍の高い語を高起式、第1拍の低い語を低起式と言う。京阪式アクセントの2拍名詞には、高起式の○○、○○と低起式の○○、○○の合わせて4種類がある。一方、京阪式分布域の外縁部や北陸などには、京阪式アクセントから高起式と低起式の区別をなくしたような体系のアクセントがあり、垂井式アクセントという。

九州西南部の二型アクセントでは、拍数に関わらずアクセントの型は2種類に限定されており、また鹿児島市などでは下がり目の位置が固定されていない。すべての語は、A型とB型の2種類に分けられる。たとえば鹿児島では、A型の「牛」は単独の発音では「うし」だが、助詞を伴うと「うしが」となる。B型の「足」は単独の発音では「あし」だが助詞を伴うと「あしが」となる。

この3タイプには、それぞれ内部に違いがあり、それぞれの中間派や別派が存在する。東京式アクセントは、内輪式、中輪式、外輪式の3タイプに分かれる。京阪式の別派として、香川県付近には、室町時代以前に主流の京阪式から分岐したとみられる讃岐式アクセントがある。また、語の中に広母音(a,e,o)があるか狭母音(i,u)があるかによってアクセントの型が制限を受ける地域があり、北海道、東北北部、富山県・石川県、香川県高松市付近、島根県東部などが該当する。また、青森県弘前市などのアクセントでは音の下がり目ではなく上がり目を弁別する[50]
方言アクセントの歴史

各地の方言アクセントに規則的な対応関係が見られることは、これらが同一のアクセント体系から分岐して成立したことを物語る。アクセント分布は、近畿地方付近に京阪式が横たわり、その東西に東京式が広がるという見かけ上の周圏分布になっているが、日本語のアクセント史については方言周圏論とは逆で、京阪式から東京式が生まれたとする説が有力である。京都アクセントの記録は平安時代から残っており、これら京都アクセントの記録や現代方言同士の比較から、金田一春彦奥村三雄は、平安期の京都アクセントに近いものが各地で変化して、今日のようなアクセントの方言差を生んだと推定している。平安時代後期の『類聚名義抄』に記された京都アクセントは、二拍名詞に5種類のアクセントの区別があった。この5つの語群(第1類?第5類)のうち、第2類と第3類が統合したのが現在の京阪式アクセントであり、さらに第4類と第5類が統合したのが東京式アクセントである。いっぽう山口幸洋は中央の京阪式アクセントと地方の無アクセントの接触によって、東京式アクセントが生まれたとする説を提唱している[51]
文法
動詞

学校文法では、動詞の活用を未然形連用形終止形連体形仮定形命令形の6種類としているが、ここでは未然形のうち「行こう」「食べよう」などにあたる形を意志形とする。また連用形のうち「行っ(た)」「食べ(て)」のように「た」「て」などがつく形は、五段活用動詞で音便が発生するため、音便形として分けて記述する。また本土方言のほとんどで終止形と連体形の区別がないため、区別する場合を除きどちらも「終止形」として記述する。

共通語の活用の種類には五段活用(四段活用)、上一段活用下一段活用カ行変格活用サ行変格活用がある。諸方言にもこれらがあるほか、奈良県十津川村和歌山県中部・愛媛県東宇和地方・九州地方には、「おちん(落ちない)」「おつる(落ちる)」「あげん(上げない)」「あぐる(上げる)」のような上二段活用下二段活用がある[52]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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