日本語の方言
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ユネスコ2009年に発表した消滅の危機にある言語の調査では、琉球方言および八丈方言は「国際的な基準だと独立の言語と扱うのが妥当」であるとして、八重山語与那国語を「重大な危険」、沖縄語国頭語宮古語奄美語八丈語を「危険」の区分に独立言語として分類した[1]

アイヌ語ウィルタ語ニヴフ語も日本列島北部で話されている(話されていた)言語であるが、系統が異なるため日琉語族には含まれない。
方言の分布

全国の語彙の分布には、中央(かつて都が置かれた京都)を挟んだ離れた地域に同じような語彙や言い回しが存在し、中央では死語となった語が分布していることがある。このような分布を「周圏分布」といい、柳田國男が『蝸牛考』でカタツムリを表す単語が同心円状に分布していることを指摘した(方言周圏論)。一方で、語彙は中央から伝播しただけでなく、各地方でも独自に新しく生み出されていった(方言孤立変遷論)。そのため、必ずしも辺境の言葉は古いというわけではなく、辺境のほうが新しい特徴を持っている場合もある(逆周圏論)。また、方言周圏論が成り立つのは、カタツムリを表す「まいまい」と「ででむし」のようにまったくの別語形の場合であり、一方から他方への語形変化・音変化が起きたと推定される場合には成り立たない。たとえば麦粒腫を表す「めぼいと」「めぼ」「めいぼ」のように、離れた地域で同じ変化が起きたと考えられるものがある[2]。語彙以外では、東日本や九州などで連母音アイがエーやエァーになっているが、これはこのような変化が起こりやすく、相互に交流がなくても同じ変化を起こしたためである。

このほか、いくつかの文法要素や語彙が「東西分布」を示すことが知られている。東西の違いには、文法では打ち消しの「-ない」と「-ん」、結果態の「-てる」と「-とる・ちょる」、形容詞連用形の「白くなる」と「白うなる」など、語彙では「いる」と「おる」、「しょっぱい」と「からい」、「やのあさって」と「しあさって」などがある[3]。これらの境界は、北側では新潟県糸魚川市付近から北アルプスを南下する線に集中している。明治期の国語調査委員会も1908年(明治41年)の報告で、「仮ニ全国ノ言語区域ヲ東西ニ分カタントスル時ハ大略越中飛騨美濃三河ノ東境ニ沿ヒテ其境界線ヲ引キ此線以東ヲ東部方言トシ、以西ヲ西部方言トスルコトヲ得ルガ如シ」と記している。また、愛知県・三重県境付近の揖斐川も、アクセントなどがそっくり変わる大きな方言境界になっている。語彙の例では、「借りる」と「かる」、曾孫を表す「ひこ」と「ひまご」のように中部と近畿の間付近に境界のあるものや、畔を表す「くろ」と「あぜ」、目を表す「まなこ」と「め」のように関東と中部の間付近に境界のあるものもある[4](語例はいずれも前者が東、後者が西)。ただしこれらの東西分布の中には、「借りる」や「いる」、後述する関西から東京への伝播のように、完全な東西対立ではなく東(西)のものが西(東)の一部地域に分布するものもある[3]

移住や交流により飛び火的な伝播が起こり、かけ離れた地域で同じ語形を使っていることもある。北海道方言の大部分は、本州からの移住により持ち込まれたものである。また関西から東京に持ち込まれた語も多く、「こわい」(恐ろしい)、「うろこ」(鱗)、「しあさって」(明々後日)、「からい・しおからい」、「つらら」(氷柱)、「けむり」(煙)などがあり、東日本のなかで東京付近に孤立的に分布している[5]

代表的な分布パターンとして、「周圏分布」「東西分布」のほかに、残存分布(AB分布)、交互分布、日本海側と太平洋側の対立分布、群雄割拠型の分布、錯綜分布が知られる[6]。残存分布とは、かつては周辺部にA、中央部にBの語が分布するABA型の周圏分布だったものが、一方のAが衰退してAB型の分布となったものである[6]。日本海側と太平洋側の対立分布には、「ゆきやけ」と「しもやけ」のように気候の違いに由来すると考えられるものがある[6]
相互理解可能性

1967年の相互理解可能性の調査より、関東地方出身者にもっとも理解しにくい方言は(琉球諸語東北方言を除く)、富山県氷見方言(正解率4.1%)、長野県木曽方言(正解率13.3%)、鹿児島方言(正解率17.6%)、岡山県真庭方言(正解率24.7%)だった[7]。この調査は、12?20秒の長さ、135?244の音素の老人の録音に基づいており、42名の若者が聞いて翻訳した。受験者は関東地方で育った慶應大学の学生だった[7]

関東圏出身者に相互理解可能性(1967年)[7]方言大阪市京都市愛知県立田村長野県木曽町新開富山県氷見市岡山県勝山町高知県大方町島根県雲城村熊本市鹿児島市
正解率26.4%67.1%44.5%13.3%4.1%24.7%45.5%24.8%38.6%17.6%

区分日本語の方言区分の一例。大きな方言境界ほど太い線で示している。本土方言と琉球方言の違いは非常に大きく、また琉球方言の内部の違いもかなり大きい。本土方言は東西に分けられるが、八丈方言は独自の位置を占める。

方言の地域区分を「方言区画」という。日本語の方言区画は、まず本土方言と琉球方言に分けられる。方言区画は、学者によって異なり、下の分類はおおむね、東条操の区画案に基づいている。この案では、本土方言は東日本方言西日本方言九州方言の3つに分けられた。さらに東日本方言は北海道方言東北方言関東方言東海・東山方言に、西日本方言は北陸方言近畿方言中国方言雲伯方言四国方言に、九州方言は豊日方言肥筑方言薩隅方言に分けられた。また東北方言はさらに北奥方言南奥方言に、関東方言は東関東方言西関東方言に、東海・東山方言は越後方言長野・山梨・静岡方言岐阜・愛知方言に分けられた[8]

東条の目指した方言区画は、方言全体の体系の違いを基準に、日本語が内部でどう分裂し、各方言がどういう相互関係を持っているかを示すものだった。しかし、地域間を移動すれば方言が次第に変化し、明確な境界線が引けないということもありうる。個々の項目、たとえば「元気だ」と言うか「元気じゃ」と言うか、あるいは「せ」を「しぇ」と発音するかしないかなどには確かに境界があるが、それぞれがバラバラの境界線(等語線)を持っているため、これらを一つにまとめて方言境界を定めることは簡単ではない[9]。そこで方言区画では、一つ一つの単語の違いよりも、文法や音韻、アクセントの体系的な違いが重視される。特にアクセントは、それ自体が体系を成している。東条が東日本方言と西日本方言の境界を愛知・岐阜と三重・滋賀の間に引いたり、中国方言と四国方言を分けたりしたことには、アクセントの違いが反映していると言われている[10]

しかし東条の区画は、どういう手続きでその結論に達したか、具体的には示されていない。一方で都竹通年雄奥村三雄は、母音・子音の性質や断定の助動詞、命令形語尾の違いなど、区画に用いる指標を何項目か示したうえで、それらを重ね合わせて境界を決める方法を取った。結果として、都竹案では岐阜・愛知方言は西日本方言に含められ、東関東方言は南奥羽方言の中に入れられた[8]。奥村は、本土方言を東西の2つに分け、さらに東日本方言を東北関東北東部・新潟県北東部と関東大部分・東海東山(岐阜・愛知含む)とに、西日本方言を北陸から九州北東部までと九州中南部とに分けた[11]。加藤正信は、関東方言と東北方言の境界などに関して、東条案では行政区画や地理的区分をある程度重視しているのに対し、都竹案では行政・地理的区分から解放されていると評価している[12]

金田一春彦の説はこれらとはかなり違い、近畿・四国の内輪方言、西関東・中部・中国などの中輪方言、東北や九州などの外輪方言、琉球方言にあたる南島方言に分けた[13]


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