日本語の方言
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九州でも、一部の語でeがiに、oがuに転じる傾向がある[31][32][33]

琉球方言では、本土方言のオ段はウ段になる。また、沖縄諸島与那国島などでは本土方言のエ段がイ段になり、短母音が3つになっている。例:雲[kumu](沖縄)。奄美大島徳之島宮古列島八重山列島(与那国島除く)では本土方言のイ段とエ段の区別を保って短母音は4つとなっている。与那国島を除き、いずれの地域でもこれらのほかに長母音を持っており、共通語よりも多くの母音を持つ地域もある[34]

東北地方の日本海側・北端部、長野北部、北陸、山陰では、共通語のウ段音の語例がかなりの程度でオ段音になる[35]

ウ段母音は、東京方言でもuよりやや中舌寄りで円唇性の弱い?であるが、西日本方言(北陸・雲伯を除く)や九州方言では唇の丸みを帯びかつ奥舌母音の[u]で発音される[20]
母音の無声化・脱落

西日本方言では、母音は明瞭に発音される。一方東京方言では、i、uは、無声子音に挟まれた場合や無声子音の直後で語末にきた場合には無声化が起こる。たとえば、「菊(kiku)」のi、「です(desu)」のuなどの無声化である。このような無声化は、東日本方言と九州方言では盛んだが、西日本方言では少ない。細かくみると、無声化が盛んなのは東北南部・関東・北陸・出雲付近・九州で、東海・近畿・四国・中国(出雲付近除く)は無声化が少ない[36][37]

薩隅方言では語末のi、uが脱落して促音となり、日本語では珍しい「子音で終わる語」が多くある。「書く」「柿」はカッ、「首」「口」「靴」はクッのように発音される。この促音は、子音を破裂させない閉鎖音であるが、ときには声門破裂音[?]となり、独立した拍とはならない。また、九州方言全般に、「犬→いん」「鬼→おん」のような語末のニ・ヌ・ノ・ミ・ム・モの撥音化が盛んである。
濁音化と鼻音化

北海道の沿岸部・東北全域・新潟県越後北部・茨城県大部分・栃木県北部・千葉県北部[38]では、語中・語末のカ行・タ行子音の濁音化(有声化)が起こる。たとえば「的」を[mado]、「柿」を[kagi]と発音するような例がある。ただしこれは子音前後の母音が無声化せずに発音された場合に起こる現象で、語、地域、個人によっても異同がある。長野県北部・岐阜県北部・石川県北部・福井県北部にも濁音化の傾向がある。

これに対して、北海道沿岸部[39]・東北地方大半・越後北部では、共通語での濁音にあたるもの(ザ行・ダ行・バ行)は直前に入り渡り鼻音を伴って発音されるため、清音が濁音化したものとは区別される(例:[mado]<的>、[ma ?do]<窓>)。またガ行子音については鼻濁音[?]となる(例:[ka?ami]<鏡>)。一方、高知県や紀伊半島南部では、ガ行の直前に入り渡り鼻音が現れ、子音は[?]ではなく[g]である(例:[ka ?gami])。また高知県ではダ行の直前にも入り渡り鼻音があり、和歌山県南部ではザ行・ダ行の直前に入り渡り鼻音がある[40]

中央語でも江戸時代初期までは、現在の濁音にあたるものは直前に鼻音を伴っていたと考えられており、諸方言に残る発音もその名残とみられる。現在(2002年時点)では、衰退が進んで入り渡り鼻音はほとんど高年層に限られるようになり、東北南部では高年層でも入り渡り鼻音を保持している者が少ない[40]。カ行・タ行の濁音化はこれより若い世代でも保たれているため、tの有声化したdと本来のdとが同じ発音になる場合がある。

ガ行鼻濁音は、東北だけでなく近畿以東の広い範囲に分布し、語中・語尾のガ行子音を[?]と発音するのが日本語の標準発音とされてきた。ただ近年は、中年層以下では鼻濁音を失う傾向にあり、特に京都・大阪や北海道などでの衰退が進んでいる[41]。一方、新潟県・群馬県・埼玉県と愛知県、中国地方・香川県愛媛県・九州地方のそれぞれ大部分には鼻濁音がもともとなく、語中・語尾においても破裂音gまたは摩擦音?である[42]
古音の残存

濁音の鼻音化のほかにも、各地方には、かつて中央で使われた古い発音の残る地域がある。

共通語のセに対しシェ、ゼに対しジェと発音する地域が、東北地方・西日本のところどころ・九州のほぼ全域に分布している(東北ではシェがヒェにもなる)[20][42]。江戸時代初期の京都でもこのような発音を行っていて、セ・ゼは関東地方から広まった発音とみられる。

江戸時代初期までの中央語では、ハ行は?を使ってファ、フィ、フ、フェ、フォと発音されていたが、その後、フを除いて[h]となった(ヒはc)。しかし、東北地方北部や島根県出雲などの方言では今もハ行子音に [?]が現れる。さらにさかのぼって奈良時代あるいはより古い時代には、ハ行子音は[p]だったとされ、今も一部の琉球方言にはハ行子音[p]が残る。静岡県井川や八丈島にも語頭のpがみられるが、井川のpは新しい変化によって生じたものと考えられており[43]、八丈島のpも語頭のハ行音の前に強意の接頭辞「おっ-」がついたためにpとなり、その後、接頭辞が脱落したものと考えられる[44]

合拗音「くわ」「ぐわ」は共通語では「か」「が」との区別がなくなっているが、これらをkwa、gwaと発音して歴史的仮名づかい通りに区別する地域が東北日本海側や九州など各地に残っている。

共通語では「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の区別がないが、中世までの中央語では区別していた。現在の方言でも、山梨県奈良田紀伊半島南部・高知県・九州地方には区別する地域がある。たとえば高知県では「富士(ふじ)」を[?u?i]、「藤(ふぢ)」を[?u ?di]?[?u ?d?i]、「葛(くず)」を[kuzu]、「屑(くづ)」を[ku ?du]?[ku ?dzu]と発音する[20][42]。これらの清音についても、高知県ではチを[ti]、ツを[tu]と発音し、九州ではツを[tu]と発音する傾向があり、古い日本語の音を残している[42](詳しくは四つ仮名参照)。ただし、この発音特性に基層言語の影響を指摘する説もある[45]

このほか、戦前には九州全域で語頭のエをイェと発音していた[46]

これらの古音は、近年では衰退する傾向にある。特に、ハ行子音の[?]や「じ・ぢ・ず・づ」の区別は現在(2002年時点)では最高齢の話者にしか認められず、合拗音kwa・gwaやシェ・ジェも衰退が進んでいる[40]
特殊拍の性格

東北北部や九州南部では、促音(ッ)・撥音(ン)・長音(ー)をアクセントの単位として独立して数えない。これらの地域では、モーラ(拍)ではなく音節が単位となっており、たとえば「学校新聞」は「ガッ・コー・シン・ブン」と4つの単位に区切られる。このような方言をシラビーム方言という。東北北部では、促音・撥音・長音が共通語に比べて短く発音される。九州南部では、長音は短いが促音・撥音は共通語と同じ長さで発音される。ただ九州南部では、長音・促音・撥音ともにアクセントの単位を担えない。古い中央語でも、特殊拍(促音・撥音・長音)は独立性が弱かったと見られる。

東北北部・九州南部以外の地域では、モーラ(拍)を単位とし、「学校新聞」は「ガ・ッ・コ・ー・シ・ン・ブ・ン」の8拍としてとらえられる。このような方言をモーラ方言と言う。このうち東京などでは、特殊拍の直後にアクセントの下がり目がこないが、近畿中央部などでは特殊拍の直後にもアクセントの下がり目がくることができる。
連母音融合・開合の区別

「無い」を「ねー」、「寒い」を「さみー」のように言う連母音の融合は、東日本方言や中国方言、九州方言では盛んで、北陸方言・近畿方言・四国方言ではほとんど起こらない。連母音aiは、東日本・中国・九州のほとんどで融合するが、地域によりe?、??(エァー)、a?(アェー)、a?などと変化に富んでいる[20][37]。「ない」を例にとれば、「ねー」「ねぁー」「なぇー」「なー」となる。aiが??やa?となる場合はeiの融合したe?と区別されるが、東京ではどちらもe?となって区別がない。また、連母音oiやuiは、aiに比べると融合する地域は狭いが、関東西部・中部・中国・九州などで、「遅い」→「おせー」のようにoiはe?になり、「寒い」→「さみー」のようにuiはi?になる[37]。九州の大部分ではoiはi?にもなり、名古屋市付近ではoiはo?(オェー)に、uiはu?(ウィー)になる。

一方、連母音eiは、共通語も含めe?となる地域が多いが、紀伊半島南部の一部や高知県・愛媛県、九州各地、伊豆諸島の利島、八丈島三根では融合せずeiのままである[20][42][47]

古い時代の連母音au・ou・oo・euは、中世には、auは??(オァー)となり、ou・oo・euはo?と発音されるようになった。auの変化した音を開音、ou・oo・euの変化した音を合音と言い、この区別を「開合の区別」という。京都などでは江戸時代には開合の区別がなくなり両者ともにo?に統合され、日本の多くの地域でも同様に変化してそれが共通語となっている。そのため、「楊枝(歴史的仮名遣いで「やうじ」)」も「用事(歴史的仮名遣いで「ようじ」)」も「ヨージ」となっている。


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