日本法制史
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明法博士大学寮で法律学である明法道を教授していた教官の役割も、大学寮自体の衰微もあって次第に天皇や太政官の諮問を受けて律令格式の解釈である明法勘文の作成を行うことが主となっていく。

そうしたなかから平安時代中期以降、公家社会の法としてのいわゆる公家法が生まれてくる。そしてこの公家法を母体として荘園領主の領主法である本所法や在地領主・武士の法である武家法が誕生し、やがて中世法の世界に移行するのである。
中世法

中世は慣習法が優位の時代で、本所法武家法公家法の三体系から成立する。

平安時代後期には古代からの律令制が解体し各地で荘園が成立し、荘園の領家・領主を公法上の権力主体とする本所法が成立する。本所法には家司や寺院が掌握していた裁判権に由来する家務法、荘園のもつ不入権に由来する荘園法があり、特に多大な荘園を集積した寺院のもつ家務法(寺家の法)が発達した。

一方、平安中期以来、各地で武士階級が成立し、武家の主従関係を根幹とする封建道徳、武家の道理が慣習法となり、武家法が成立する。武士はその経済的基盤を荘園においたため、武家法は本所法・荘園法に起源をもつものが多く、武家政権と朝廷との関わりから公家法の影響も受けた。

慣習法である武家法は武家政権である鎌倉幕府の成立に伴い一部が成文化され、主として式目・式条と称される成文法が将軍御教書の形で発布された。『吾妻鏡』に拠れば、貞永元年(1232年)8月10日には執権・北条泰時が中心となって御成敗式目が制定された。これに続き、裁判の判例など慣習をまとめた追加法が成立する。

これらの法律は、後の法律にも大きく影響を及ぼし、建武式目戦国大名分国法(戦国法)、徳川幕府の武家諸法度、現代の法律にまで影響を及ぼしたとされる。

本所法・武家法・公家法は鎌倉時代にはそれぞれの法体系が並立していたが、公家法は南北朝時代建武政権の成立で一時興隆するがやがて衰え、室町時代には武家法が優位の時代となった。

戦国時代には数郡から数カ国の支配領域を持つ戦国大名が出現し、戦国大名の中には、在地法で対処できなくなった問題解決のため戦国法(分国法)を制定する大名もいた。戦国法の制定をもって、戦国大名の支配領域を主権的な「国家」と評価する地域国家論もある。
近世法

徳川幕府が天下を平定した後も、一般的にはその法制は慣習法主体とされている。確かに律令のような大規模な法典が制定されなかったのは事実である。だが、それは「古法」・「先例」・「祖法」と称される幕府や諸藩においてその創成期に法慣習あるいは成文法として確立したものに対してであり、それが十分でない分野においては大半の場合には成文法が制定されて、徳川時代以前に存在した慣習法は打破されていった。幕府においては、徳川吉宗の時代にこれまでの制定法や慣習法を集めて公事方御定書が編纂されている。ただし、こうした法令に関する知識は幕府内部の秘密とされ、公事方御定書は町奉行など限られた役人しか見ることが許されず、武家故実書の刊行においても幕府法令に触れたことを理由として処分を受けた例がある(『青標紙』)。

だが、その一方で武家社会の根源である武力と儒教を重んじる徳川幕府や諸藩にとっては「法の支配」という観念は希薄であり、また幕府の法令は全国的に適用されたとはいえ、各藩には独自に法令制定権(自分仕置権)があり、幕府の法に根本的に反しない限りは独自の法(藩法)を定める事が出来た(特に外様大名の大藩にその傾向が強かった)。また、幕府もその勢力基盤を維持するための法令以外のものはあくまでも天領旗本領を対象として法令を適用する事の方が多かった。

また、儒教の祖先崇拝(父祖への「孝」)やと始祖(藩祖)英雄視論による「古法(祖法)墨守」が法の原則(主君から見れば「父祖への孝行」、家臣の立場から見れば「主君への忠義」)であると考えられ、その改廃は直ちにお家騒動(保守派vs改革派)や百姓一揆(新法への不安や負担増によるもの)を招来する事が多かった(特に貝原益軒に至っては「新法たつれば必ず其家亡ぶ」と断言している)。

こうした近世期の法観念を表す法諺に「非理法権天」がある。
関連項目

宮崎道三郎

中田薫

石井良助

石井紫郎

瀧川政次郎

金指正三

石母田正(いしもだしょう)

五か条の御誓文

十七条憲法

参考文献

この節には参考文献外部リンクの一覧が含まれていますが、脚注による参照が不十分であるため、情報源が依然不明確です。適切な位置に脚注を追加して、記事の信頼性向上にご協力ください。(2023年10月)


石井良助『日本法制史概説』ISBN 4423740036

中田薫『徳川時代の文学に見えたる私法』ISBN 4003316312










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