この他に、渡航先で旅券を紛失して、旅客機が航行するなど再発給を待機する時間がない理由がある者に対し、在外公館で日本へ帰国する渡航中に使用するため、1回(片道)限り使用可能な渡航文書として「帰国のための渡航書」が交付される。この場合は、当該渡航書の発給と同時、日本の外務省の記録上で、それまで所持していた旅券番号が失効するため、元の旅券が後日発見されても使用することはできず、新たに旅券取得の手続きをする必要がある。
また、旅券を所持していない(または自分の旅券が失効してしまっている)が「親族が外国で急な事故に巻き込まれ救援等に出向く必要がある」「外国で開催される発表展示会や研究・開発の発表や署名式に出席しないと、日本の国益を損ねる」などという事態が発生した際には、即日または翌日発行の「緊急発行」という処理方法がある(通常は申請から交付通知が届くまで1週間ほどかかる)。
日本に到着後の入国審査官による帰国手続きの際、船員手帳しか持っていない、旅券(パスポート)の期限が失効していた等々の理由で帰国確認の証印を押せない場合は、「帰国証明書」が交付される。こちらは「帰国のための渡航書」のように外務省が発行する文書でなく、法務省の地方出入国在留管理局に属する入国審査官の判断・都合により交付されるもの(渡航文書の代替でなく証印の代替)に過ぎないため、法令上直ちに元の旅券が失効とはならない。
また、かつては日本で唯一の「住所が本人による手書きで、住民票と異なる住所の記載が許容される、証明写真付きの公的な本人確認書類」であった(住所欄は2020年(令和2年)で廃止)。
なお、アメリカ合衆国による沖縄統治時、沖縄県以外の46都道府県のいずれかに戸籍を置く日本国籍者が、アメリカ合衆国施政権下の沖縄県に渡航する際には、旅券ではなく、日本国政府が発行する「身分証明書」という特殊な書類を要し、逆に沖縄県に戸籍を置く日本国民(「琉球住民」)が46都道府県の日本本土へ渡航する際には、琉球列島米国民政府が発行する「日本渡航証明書」が必要であった。(出入管理庁#渡航手続・アメリカ合衆国による沖縄統治#交通)
また、北方四島交流事業において、日本政府が自国領有を主張しているもののロシア連邦により実効支配(日本政府の立場としては、不法占拠)されている歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島(いわゆる北方地域)への訪問団の各個人に向けて、外務省において身分証明書が交付されるが、これも旅券ではない。
これらは、いずれも沖縄県(米国施政下からの復帰前)、小笠原諸島(東京都の一部、米国施政下からの復帰前)、北方領土(北海道の一部、ロシアによる実効支配下)、竹島(島根県の一部、韓国による実効支配下)は『日本固有の領土である』という日本国政府の国是から、これらの地域への渡航のために、旅券を発給できないからである[10]。 一般旅券の身分事項のページには、以下の事項が記載されている。なお、身分事項は「非ICパスポート」は表紙裏、「ICパスポート」は後述の外務大臣要請文ページの次々ページに記載されている。 機械読み取りに対応するMRP(機械読取式旅券、英:Machine-readable passport
記載事項
型(かた)/Type
パスポート(Passport)の頭文字『P』
発行国(はっこうこく)/Issuing country
日本(Japan)の国名コードISO 3166-1 alpha-3である『JPN』
旅券番号(りょけんばんごう)/Passport No.
パスポートの発行毎に一意に決定される識別番号。同一人物でもパスポートの再発行を受けた場合は異なる旅券番号になる。
英字2桁で始まり、その後に数字7桁が続く。英字部分は、5年パスポートは『M』で始まり、10年パスポートは『T』で始まる。二文字目は発行順でAからZまで変化する。
IC化以降は、渡航先ページから最終ページにかけてページ下部にこの旅券番号がパンチ穴で空けられている。
姓(せい)/Surname
旧姓/Former surnameまたは別姓/Alternative surnameの併記が、括弧付きで可能である(条件を満たす者に限る)。
名(めい)/Given name
姓名は原則としてヘボン式ローマ字(大文字)で記載。別表記が認められた場合はそれを括弧で付記 [例:SATO (SATOH/SATOU)]。2000年(平成12年)4月から長音表記 に[H]の使用が認められた[例:SATO (SATOH)][11]。また2008年(平成20年)2月からは、明確な理由・主義・理念・信条等があってその旨を申請し、申請書裏面にある誓約欄に、その後生涯氏名の表記を変更しないことを誓う署名をすれば、非ヘボン式ローマ字でも受理されるようになった[12]。
別名/Alternative given nameの併記が、括弧付きで可能である(条件を満たす者に限る)。
国籍(こくせき)/Nationality
『JAPAN』
生年月日(せいねんがっぴ)/Date of birth
『DD MMM YYYY』の形式で記載(日・月・年の順で、MMMは英語月名の頭3文字で、YYYYは元号ではなく西暦で表記。例えば、『1957年(昭和32年)7月29日』なら『29 JUL 1957』、『2009年(平成21年)3月1日』なら『01 MAR 2009』、以下同じ。)
性別(せいべつ)/Sex
男性(Male)は『M』、女性(Female)は『F』
本籍(ほんせき)/Registered Domicile
本籍地の都道府県名のみヘボン式ローマ字(大文字)で記載(例えば「滋賀県」なら『SHIGA』、「福島県」なら『FUKUSHIMA』と表記)
発行年月日(はっこうねんがっぴ)/Date of issue
『DD MMM YYYY』の形式で記載
有効期間満了日(ゆうこうきかんまんりょうび)/Date of expiry
『DD MMM YYYY』の形式で記載
所持人自署(しょじにんじしょ)/Signature of bearer
申請書に書いた署名が転写される
発行官庁(はっこうかんちょう)/Authority
日本で発行された場合は『MINISTRY OF FOREIGN AFFAIRS』(外務省)、在外公館で発行された場合は、当該在外公館の英語名称。
偽造防止のため、英語の『JAPAN PASSPORT』が、マイクロ文字で全ページに記載されており、また紫外線発光インクが塗られている。
また、次のような外務大臣要請文(日本語及び英語)が、表紙裏面(非IC旅券は身分事項ページの次葉)に記載されている。
日本語
『日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。 日本国外務大臣(公印)』
英語
『The Minister for Foreign Affairs of Japan requests all those whom it may concern to allow the bearer, a Japanese national, to pass freely and without hindrance and, in case of need, to afford him or her every possible aid and protection. 』
IC旅券化されてから、身分事項の一部文字に白抜きマイクロ文字が追加されている。
発行国「JPN」のそれぞれ縦棒(Nは左側)に、生年月日が挿入されており、Jには西暦の下二桁、Pには月、Nには日が挿入されている。
ICパスポートの所持人自署の上にある細かな穴は、16行16列のドットの水平、垂直のずれで情報を符号化しているようである。
水平方向にずれているドットをプロットすると、「JP」の2文字が現れる。
IC旅券詳細は「バイオメトリック・パスポート」を参照ICパスポートのICチップ(集積回路)が埋め込まれたページ
外務省(領事局旅券課)は2006年(平成18年)3月以降、アメリカ合衆国連邦政府の要請により、一般・公用・外交全種の旅券において、IC旅券(バイオメトリック・パスポート)を導入し、交付を開始した[13]。旅券の表紙には、IC旅券を示す世界共通のピクトグラムが表示されており、中間の厚めのページに集積回路が埋め込まれている。