日本国憲法の改正手続に関する法律
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日本国憲法の改正に必要な要件が通常の法律の制定・改正に必要とされる要件よりも加重されているため、一般に日本国憲法を改正する可能性を探ってきた自由民主党がほぼ一貫して与党の地位を得ていたにも関わらず、憲法の改正はなされていない。そのため、これまでの時代への対応は解釈の変更によりなされてきたとされる。詳細は「護憲#「現行憲法を擁護する」の詳細」および「憲法改正論議#憲法改正の論点」を参照

過去には1953年(昭和28年)に自治庁が国民投票法案を作成し、首相一任となるが「内閣が憲法改正の意図を持っていると誤解を招く」とし、閣議決定は見送られた。

自民党主流派が国会対策族を中心に憲法改正に消極的な意見が多かったことは、第二次世界大戦後60年にわたり国民投票法が制定されなかったことも1つの原因である。
実質的な議論への移行

俗にいう55年体制1993年(平成5年)に崩れ、憲法改正論議自体がイデオロギー対決に利用されることも少なくなり、国民投票法に関する議論はより実質的な点に移った。1999年(平成11年)には自由党が憲法改正に向けた国民投票法案を策定するなど、自由民主党以外の政党から憲法改正ないしは国民投票法制定に向けた動きが起こった。

具体的に、国民投票法での規定が検討された内容としては、投票可能な年齢や公民権停止者を含むかといった有権者の範囲、過半数の賛成が求められる国民投票の母数は、有権者総数なのか全投票数なのか有効投票数なのかという問題、メディアに対する規制、改正案の発布から投票までの期間の長さ、改正案に対する一括投票か個別の改正条文案への是非を問うかどうかなどの諸点が挙げられる。
成立

本法は、第164回国会で衆議院に提出された与党案の「日本国憲法の改正手続に関する法律案」と、対案として民主党から提出された「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」の両案を併合する与党提出の修正案が可決されるという成立過程を経た。成立した併合修正案は、衆議院議員保岡興治船田元葉梨康弘(以上自民)・赤松正雄(公明)が提出した。

2007年(平成19年)4月12日衆議院憲法調査特別委員会で民主党提出修正案が否決され、与党提出修正案が自民・公明の賛成多数で可決された。翌4月13日に衆議院本会議で可決され、参議院に送られ5月11日に参議院憲法調査特別委員会で可決された。5月14日参議院本会議で可決され成立、5月18日に公布され、一部を除き公布から3年後の2010年5月18日に施行された。

施行日は公布からちょうど3年後となる2010年(平成22年)5月18日であるが、一部規定はこれに先行し、施行に必要な政令と総務省令は2010年(平成22年)5月14日に公布された。

2021年6月11日に改正され、共通投票所の整備や期日前投票の投票時間の柔軟化、洋上投票の対象者の拡大などが行われ、憲法改正へ向けた整備が進んだ。
法律の概略

具体的な手続きに関しては「日本国憲法の改正手続に関する法律施行令」(平成22年政令第135号)及び「日本国憲法の改正手続に関する法律施行規則」(平成22年総務省令第61号)で規定している。
対象・投票権者

国民投票の対象は憲法改正のみに限定(1条)。

投票権者は18歳以上の日本国民(3条)。ただし、18歳以上の者が国政選挙で投票できるように
公職選挙法選挙権の年齢や民法成年年齢(20歳以上)などの規定について検討し必要な法制上の措置を講じて、18歳以上の者が国政選挙で投票することができるように改正するまでは、国民投票の投票権者も20歳以上とする(制定時の附則3条)。なお、2018年6月20日までは、経過措置として20歳以上の者に限って投票権が与えられている(平成26年改正法附則2項)

この附則に関連して2015年6月に改正公職選挙法が成立し選挙権年齢は20歳以上から18歳以上に引き下げられている[4]


在外邦人にも投票権はあり(62条)、いわゆる公民権停止を受けた者も投票権者から除外されていない。

憲法改正原案

各院に憲法審査会を設置し、憲法改正原案について審査を行うが、公布後3年間憲法改正原案の発議は凍結する(附則1条、同4条)。

憲法改正原案は、衆議院100名以上、参議院50名以上の議員の賛成で国会に提出できる(国会法第68条の2)
[5]

憲法改正原案の発議は内容において関連する事項ごとに区分して行う(個別発議の原則、国会法第68条の3)。

憲法審査会

審査会の設置に関する条項は2007年8月の臨時国会召集とともに発効。ただ、憲法審査会規程が衆議院では2009年6月に、参議院では2011年5月まで制定が遅れ、また両院とも委員の選任がされないなどの状態が続いたが、2011年10月21日に両院で憲法審査会が始動した。

投票方法

国会発議後は、60-180日間ほどの期間を経た後に国民投票を行う(2条)。

国民投票は、憲法改正案ごとに1人1票の投票を行う(47条)。

投票用紙(縦書き)にあらかじめ印刷された「賛成」または「反対」の文字(いずれもルビ付き)のどちらかに○をつける方法で投票を実施(57条)。

印刷されている「賛成」の文字を二重線を引く等して消した票は反対として扱い、「反対」の文字を二重線で引く等して消した票は賛成として扱う(81条)。

点字投票の場合は、点字投票専用の用紙に「サンセイ」または「ハンタイ」と自書する(58条)。

投票の結果

投票総数(賛成票と反対票の合計。白票等無効票を除く)の過半数の賛成で憲法改正案は成立(126条、98条2項)。

最低投票率制度は設けない。

無効訴訟

無効訴訟は国民投票の結果の告示から30日以内に
東京高裁に投票人が提起することができる(127条)。

訴訟を提起しても国民投票の効力は原則停止しない。

憲法改正が無効とされることで重大な支障を避けるため緊急の必要があるときは、本案について理由がないと認めるときを除き、憲法改正の効力を全部又は一部を判決確定まで停止することができる(133条)。

投票運動

国会において憲法改正案が発議されると、国民に広報するため、国民投票広報協議会が設置され(11条)、議席数に応じて会派ごとに割りあてて構成された委員および予備員が、衆参各院からそれぞれ10名ずつ選任される(12条)。

選管委員や職員及び国民投票広報協議会事務局員、
裁判官検察官等の特定公務員は、在職中の国民投票運動が禁止される(102条)。

公務員や教育者の、地位を利用した投票運動を禁止(103条)。罰則は設けないが、公務員法上の懲戒処分の対象にはなる。

公務員の国民投票運動及び意見表明に関する、国家公務員法及び地方公務員法上の政治的行為に対する規制については、賛否の勧誘が不当に制約されないよう法制上の検討を行う(附則11条)。

憲法改正の予備的国民投票については、その実施の有無及びその対象について検討を加える(附則12条)。

テレビ・ラジオによるコマーシャルは投票日の2週間前から禁止(105条)。ただし、罰則を設けない。

国民投票広報協議会が、改正案の要旨(その他、国会審議の経緯などを客観的に記した分かりやすい説明)、賛成意見、反対意見からなる国民投票公報、新聞広告、テレビラジオによる憲法改正案の広報のための放送(政見放送に類似したものでスポットCM等を想定したものではない)を、NHK(日本放送協会)及び基幹放送事業者がテレビ・ラジオにて行う(106条・107条)。この際、賛否については同一のサイズ及び時間を確保する(106条6項・107条5項)。

広報のための新聞広告、広報放送はいずれも国費で行われる。

施行期日

国民投票の実施など主要な規定については公布の日から起算して3年を経過した日(2010年(平成22年)5月18日)から施行するが、憲法審査会に関する部分など一部の規定は公布後の次国会から施行する(附則1条)。

批判など

社会民主党は、国民投票法について「戦後60年間、平和国家としての土台となっていた日本国憲法を変える法案」とした上[6]で、「憲法改悪の道へひきずりこむ改憲手続法案は絶対に廃案にすべきである」として、国民投票法の制定そのものを批判した[7]

民主党国会対策委員長高木義明は国民投票法の成立を受けて、「安倍総理のための実績づくりを急いだという印象が拭えない」との認識を示した[8]。このことに関して、自民党政調会長の中川昭一は「反対は民主党の党利党略である」と批判した[9]

日弁連会長の宇都宮健児は、2010年4月14日、「選挙権を有する者の年齢、成年年齢、公務員の政治的行為に対する制限のいずれについても、いまだ必要な措置が講じられて」いないこと(同法附則3条および同法附則11条)、また成年年齢・最低投票率・テレビ・ラジオの有料広告規制の三点について必要な検討が加えられていないこと(同法附帯決議)、さらに、同連合会が2009年11月8日付の憲法改正手続法の見直しを求める意見書で指摘していた8項目にわたる問題点について[10]、「附則及び附帯決議が求めている検討がほとんどなされておらず、必要な法制上の措置が講じられていない」ことなどを理由に、同法の施行延期を求める会長声明を発表した[11]


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