日本住血吸虫
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

国際動物命名規約条11.9.3.2には「種階級群名は,実際には属名の修正名や不正な綴りに結合して公表されたとしても,属名の正しい原綴りに結合して公表されたものと見なす」[5][6]と規定されているため、桂田による公表の時点でSchistosoma japonicumと命名されたものとみなされる。
症状大腸粘膜の虫卵肝臓の虫卵

感染初期には、セルカリアが侵入した皮膚部位に皮膚炎が起こる[1]。次いで急性期の症状として、発熱、腹痛、水様便あるいは粘血便が現れる[1]。肝腫大を認める場合もある。慢性期には、成体が腸の細血管で産卵した卵の一部が血流に乗って流出し、虫卵が主要臓器の細動脈に塞栓して周囲に炎症が起こり肉芽腫を形成する。これによって肝硬変のほか、貧血、脾腫、消化器障害などを併発する。好酸球増多も認められる。肝硬変が顕著な例では、門脈の血流が鬱滞して腹水がたまり腹部膨満をきたす[1]。また脳においては、てんかん痙攣などの症状が現れる。症状を放置すると最終的には衰弱し死に至る。

右の顕微鏡写真は、病理解剖で見つかった結腸と肝臓の住血吸虫卵の痕跡。かつての流行地での生活履歴を物語る所見である。第二次世界大戦中に中国南方、東南アジア(フィリピンなど)に日本軍へ従軍した折の感染であることも多い。
疫学
日本における過去の有病地

日本では、古くから山梨県甲府盆地底部、福岡県佐賀県筑後川流域、広島県深安郡旧神辺町片山地区(現:福山市)が三大流行地であり[7]風土病として知られていた。

最大の有病地である山梨県ではこれを「地方病」と呼び、古くは「流行地には娘を嫁に出すな。」という俗諺が生じていた。同県では、日本住血吸虫対策を行ったことで、肝硬変による死亡率が約.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}2⁄3にまで激減するほど、人々の生命を脅かす存在だった[8]
日本における対策宮入貝供養碑。久留米市宮ノ陣。2014年12月撮影。

日本住血吸虫症(地方病)にはプラジカンテルと言う特効薬がある。しかし、感染を繰り返す度に肝臓が破壊される問題もあるため、根本的な解決には至らない(なお、同薬は1970年代に開発された商品であるため、それ以前には薬と呼べるものは存在しなかった)。そのため「水田、用水路には素足で入らないこと」等の感染予防指導を行い、同時に日本住血吸虫の生活環自体を破壊する試みが行われた。

日本住血吸虫の中間宿主であるミヤイリガイは、水田の側溝などに生息し、特に水際の泥の上にいる。そこで、それまで素堀で作られていた水田の側溝をコンクリート製のU字溝に切り替えたり、PCPなどの殺貝剤を使用し、ミヤイリガイが生息できない環境を造る取り組みが行われた。

日本では第二次世界大戦後に圃場整備が進んだことから、ミヤイリガイも減少し、日本住血吸虫病も1978年以降、新規患者の報告はなくなった。

1996年2月、国内最大の感染地帯であった甲府盆地の富士川水系流域の有病地を持つ山梨県は、日本住血吸虫病流行の終息を宣言した。115年にわたる対策の成果であった(詳細は「地方病 (日本住血吸虫症)」を参照)。

西日本における主要な感染地帯であった筑後川流域では、筑後大堰の建設を機に、河川を管理する建設省(現・国土交通省)、堰を管理する水資源開発公団(現・水資源機構)、流域自治体の三者が共同して、1980年より湿地帯の埋立て等の河川整備を堰建設と同時に行い、徹底的なミヤイリガイ駆除を図った。この結果、1990年には福岡県が安全宣言を発表し、その後10年の追跡調査を経て新規患者が発生していないことを確認し、2000年に終息宣言を発表した。ミヤイリガイの最終発見地となった久留米市には「宮入貝供養碑」が建立され、人為的に絶滅に至らしめられたミヤイリガイの霊を弔っている(詳細は筑後川#日本住血吸虫症の撲滅を参照)。

昔、印旛沼江戸川中川を含めた利根川流域(茨城県千葉県埼玉県)と荒川流域(東京都)は有病地で[9]、1970年に河川敷放牧されていた乳牛に再発生した。このため千葉県が自衛隊に依頼してミヤイリガイ生息地を火炎放射器で焼き払ったうえに客土で覆い、放牧地として使わなくする措置をとった[10]

ただし、全てのミヤイリガイが絶滅したわけではない。現在でも千葉県小櫃川流域[11]及び最大の有病地であった山梨県甲府盆地北西部の釜無川流域では、継続的に生息が確認されている。つまり、世界で感染したヒトが野糞をすると、再流行する可能性はあり、安心というわけではない。
日本国外での対策

中華人民共和国や、フィリピンをはじめとする東南アジアではいまだに感染地域が残り、プラジカンテルに対する耐性の出現も報告されている。またアフリカ等ではマンソン住血吸虫ビルハルツ住血吸虫、東南アジアではメコン住血吸虫の感染も問題になっている。ワクチンによる予防手段はないので、感染地では淡水の生水を皮膚に接触させないことが重要である。
脚注^ a b c d 吉田幸雄著・日本寄生虫学会編 『図説 人体寄生虫学 改訂10版』(2021)南山堂
^ Katsurada, F. (1904). “Schistosomum japonicum, ein neuer menschlicher Parasit, durch welchen eine endemische Krankheit in verschiedenen Gegenden Japans verursacht wird.”. Annot. Zool. Jpn. 5 (3): 147-160. doi:10.34434/za000064. 
^ Laveran & R. Blanchard (1895). Les hematozoaires de l'homme et des animaux. 2. pp. 40-41. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k9631921p 
^ “ICZN Official Lists and Index”. International Commission on Zoological Nomenclature. p. 668. 2023年2月22日閲覧。
^ “Article 11. Requirements”. International Code of Zoological Nomenclature. International Commission on Zoological Nomenclature. 2023年2月22日閲覧。
^ “ ⇒国際動物命名規約 第4版 日本語版 [追補]”. 日本分類学会連合. 2023年2月22日閲覧。
^ 小島荘明『寄生虫病の話 身近な虫たちの脅威』(中公新書、2010年)p.15
^行政施策と肝硬変死亡東京都健康安全研究センター 平成8年度厚生科学研究
^ 二瓶直子、松田肇、浅海重夫「 ⇒関東地方の日本住血吸虫症の分布とその制限要因に関する研究-1-浸淫地分布とその特徴」(PDF)『寄生虫学雑誌』第39巻第6号、日本寄生虫学会、1990年12月、585-602頁、.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISSN 00215171、NAID 40000637141、2022年7月18日閲覧。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:25 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef