母系のみをたどるミトコンドリア解析に対し、父系をたどるY染色体は長期間の追跡に適しており、1990年代後半からY染色体ハプログループの研究が急速に進展した[56]。注目すべきは日本列島においてM55のSNPによって定義される縄文系のD-Z1500系統が日本人男性の3割、さらにその中のCTS8093のSNPによる系統が約2000年前に発生したにもかかわらず、日本人男性の1割を占めていることである。O-CTS11986によって定義されるM176系統は日本人の弥生系の子孫であり、D-Z1500系統に次いで多数を占める。さらにM216のSNPを持つC系統を合わせると日本人男性の8割がこのいづれかに属しており、現在の日本人男性の大半を占める[59][60]。C系統の内、F3393以下のM8のSNPを持つ系統は、非YAP(YAPの変異を持たない)縄文系であり、日本列島に最初に到達した系統であるともみられている[61]。C系統の内、M217の痕跡を持つものは、モンゴル、女真、満洲などの北方遊牧民族と祖を同じくし歴史時代になって以降の渡来とみられる。漢民族に由来するM122のSNPを持つ系統は中国、朝鮮半島、ベトナム等においては最多を占め、東南アジア、インド北東部やネパールなどの南アジアでも広範囲に見られるO系統の最大のサブグループであるにもかかわらず、日本においてはD-Z1500,O-M176の両系統に次ぐことが特徴的である[62]。O-M122系統は現在の日本人のY染色体ハプログループの中では、D-CTS8093やO-CTS11986のような父系の有力なクラスターを持たず、遺伝子的にみれば分岐系統が異なる雑多な寄せ集めであるため、散発的に日本列島に渡来したと考えられている[63]。 A0000 A000-T
Y染色体一塩基多型分岐図
PR2921 A00 A0 A1a A1b1 サン族
L1090 P305 V221 M42 M168
E系統
YAP CTS3946
A5580.2 ナイジェリア F6251 M15 チベット
Y34637 ジャラワ族
M174 CTS11577 Z3660 M64.1