日本の漫画
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「漫画」という熟語は、本来の字義的には「気の向くままに(絵を)描く」「漫然と描かれた絵」という意味であり、日本で生まれた和製漢語である[30]。1798年に発行された山東京伝による絵本『四時交加』の序文にその初見が見られる[31][32][33]。「漫画」という語について、中国から伝わった「気の向くままに(文章を)書く」、つまり随筆を意味する漢語「漫筆」から、日本で「漫筆画」を経て「漫画」になったとする説[34]や、中国語名で「漫画(マンカク)」というヘラサギの一種が雑食で水をくちばしでかき回して何でも乱雑に食べることから、日本で当初「漫画」が「種々の事物を漁る」「様々な事柄を扱う本」を指す意味になった、とする説もある。清水勲は著書『日本近代漫画の誕生』において、「マンカク」が戯画の意味を持たないことを指摘し前者を支持しているが、『四時交加』、そして後述する『北斎漫画』といった由来を示す文献に、これらの説を裏付ける要素があるわけではない[32][35]

戯画風のスケッチを指す意味の言葉としての「漫画」は、葛飾北斎による絵手本(スケッチ画)集『北斎漫画』(1814年)が始まりとされる[35]。この作品集には戯画や風刺画が載っており、現代的な意味での「漫画」と重なりをなしてはいるものの、まったく同じ意味とはみなせない。なお、『北斎漫画』の影響を受け、尾形光琳の『光琳漫画』(1817年)、明治期の月岡芳年『芳年漫画』(1885年)[36]など、戯画調の絵を載せたいくつもの書籍が「 - 漫画」というタイトルになった[37]

幕末期、欧米からカリカチュアやコミックの技術が伝来すると、それらの呼称として「ポンチ絵」「ポンチ」「西洋ポンチ」などが定着した[38]

現代的な意味で「漫画」という語を使い始めた最初の人物は明治時代の今泉一瓢である。一瓢は1895年10月31日、風刺画を中心とする『一瓢漫画集初編』を出版、明治期に日本に入ってきた caricature または cartoon の訳語として「漫画」を用いた。また一瓢は『一瓢雑話』において、「漫画というものは、一口にいえば滑稽書であって、その内に風刺的なものを含んだのもある、また含まないのもある。日本に昔からあるものは俗に鳥羽書、あるいは北斎漫画のやうな類の書であって、この他にはオドケ書と云う」と論じ、旧来の漫画的な作品と自身の漫画との違いを強調した[39]

今泉一瓢に対し、「漫画」という言葉を cartoon および comic の訳語として使用したのは、明治後期にデビューした北澤楽天である[40]。楽天はオーストラリア人に欧米流の漫画技法を学んで新聞『時事新報』の専属となり、従来のポンチとは異なる新機軸の画風であることを示すために「漫画」の呼称を前面に出すことを編集側に自ら提言し[41]、1902年1月、彼の作品発表のために同紙で漫画を特集した『時事漫画』欄が設けられ、1921年2月に別刷りの日曜版別冊として独立した。以後、この意味での「漫画」が現代における日常語として定着するようになった[42]

やがて、日本漫画の国際化にともない、「漫画」という語は外国にも通じる日本語の一つになった。なお、ヨーロッパ語圏におけるmangaは、日本の漫画のみを指す言葉である[43]。また、アラビア語では、Manjaと呼ばれている[44]
日本の漫画の歴史詳細は「日本の漫画の歴史」を参照
構成
表現の形式コマの読み進め方。1コマ目の小さな数字はふきだしを読む順番である。

日本の漫画は普通「コマ・登場人物・背景・ふきだし・音喩・漫符・台詞・その他の技法」から成る。まず一般的なストーリー漫画の表現形式と技法を以下に挙げる。

紙面はコマと呼ばれる枠によって分割されており、それぞれが一つの場面を表す。読み手はあるコマを読んだ後、次のコマはどれか判断しなければならないが、順序は明示されずに暗黙の了解とされている場合が多い。例外もあるが、基本的な右綴じ(縦書き)漫画のコマの読み進め方は以下の通り。

右から左のページへと読み進める。

ページ内においては、上段から下段へ向かって読み進める。

同じ段に複数のコマが存在する場合は、右から左へ向かって読み進める。

隣接するコマとの間の間隔(空白)に明らかな違いが設けられている場合、近いコマを次に読む。

次ページに跨っているコマは、そのページの最後に読む。

コマに番号が振られている場合(一部の4コマ漫画や初期の漫画などに見られる)は、番号順に読み進める。

漫画のセリフ・ナレーション等の主な文章が横書き(左綴じ)の場合、この例の鏡面対称となる読み順となる。

かつて欧米では日本の漫画を翻訳出版する際、左から右に読む欧米言語の正書法に合わせるため、左右反転し左開きにすることが一般的だったが、この手法では作品全体が左右逆になるという弊害があり、近年では元の作品を尊重して、日本と同じ右開きのまま出版するケースが増えている。この場合、欧米の言語であっても日本式に右から左へ読み進める。巻頭に読み方のレクチャが掲載されることも多い。

近年ではスマートフォンでの閲覧を意識し、縦長のコマを連続させる「縦スクロール漫画」が登場し、これに合わせた表現手法も研究されている[45]
技法詳細は「ふきだし」、「音喩」、および「漫符」を参照

登場人物のセリフや思考はふきだしと呼ばれる枠の中に文字で書かれる。フキダシの形や文字の字体により語調を表す。

擬音語擬態語(オノマトペ)が、手書きの描き文字[46]として絵の中に書かれる。細々としたセリフが描き文字で書かれる事もある。

漫符と呼ばれる一種の記号を使用して、人物の心理や動作、ものの動きなどを明示的に表現する。

意図的に何も描かず空間を出して物語における”時間の間”を生み出したり、またキャラクターの心情をいくつかのコマ分割で描写する事で、キャラクターの心情心理を描写し、物語の奥行きを与えている。

コマを飛び出したり、隣のコマと結合させるなど過剰な表現も用いられる。

特徴
様々な方向性・対象・ジャンル

大まかには読者の年齢層、ジャンル、表現形式で分類されているが、大人向け、子供向けという大まかな区分けではなく、各年齢層や嗜好に合わせた作品が発表されている。

特にスポーツ漫画は細分化が進んでおり、メジャー競技では野球漫画サッカー漫画など一つのジャンルを形成し、さらに高校野球やプロリーグなどサブジャンルに分けられる。また同じ競技でも試合展開のリアリティを重視した作品、必殺技を繰り出すなど荒唐無稽な作品、競技ではなく選手の人間関係を重視する作品、選手ではなく監督側の視点など様々な設定の作品が存在する。社会現象の影響を受け、女子サッカーカーリングなど話題になった事象は即座に漫画の題材となる。作品が注目されると追随する漫画が増え新たなジャンルが形成されるが、逆に漫画が人気となり競技が活発化することもある。例えば『SLAM DUNK』のヒットにより、当時の日本では競技人口が野球やサッカーと比べ多くなかったバスケットボールが人気競技となった。サイクルサッカー伝書鳩レース、エアレースなど世界的にマイナーな競技、架空のスポーツを扱った作品も一定数存在している。

恋愛漫画では男性向け・女性向けという区分けもあるが、ラブコメディハーレムもの不倫同性愛などの多数のテーマがあり、登場人物の年齢も子供から中高年まである。またスポーツ漫画の一要素として扱われることもあり、多くの漫画は複数のジャンルにまたがっている。

日本では表現の自由検閲の禁止が憲法第21条で保障されているため、表現の限度は基本的に出版社の自主規制によっている。このため一般向けの漫画誌であっても過激なアダルト描写を追求した作品や犯罪行為を描いた作品が多数発表されている。
雑誌連載

プロによる作品は雑誌などの定期刊行物で連載された後、数話ごとに纏め単行本として刊行される形態が主流。日本の漫画雑誌は複数の作家が別作品を同時に連載するという形態のため300ページを超えるのは普通で、アメリカン・コミックスの雑誌と比べると非常に分厚い。また日本の雑誌は1つの雑誌コードにつき1つの増刊枠を持つことができるという制度を利用し、新人や本誌のジャンルと合わない作風の作家にも活躍の場を与えることが可能となった。規則ではないが「別冊(本誌名)」と題することが多い。

漫画雑誌は大衆を想定した『メジャー誌』、特定の層に照準を合わせた『マイナー誌』、高校生以上の若者を対象とした『青年誌』、小中学生向けの『少年誌』という区分けがある。また成人向け漫画時代劇萌えなど特定ジャンルの雑誌もあり、好みの作品を探す際には雑誌が標榜する編集方針を手がかりにすることで、インターネットの登場以前にもある程度の絞り込みが可能であった。本誌(『週刊少年マガジン』)よりマイナーなジャンル(ダーク・ファンタジーなど)をコンセプトにしていた『別冊少年マガジン』では、発行部数が多い本誌に『進撃の巨人』の読み切り版を掲載したところ認知度が上がったことから、他社でも単行本の発売やアニメ化などに合わせ、より部数の多い雑誌に読み切り版を掲載する「出張掲載」の手法が広まった。


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