旗本札
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また、この地域の経済は、肥料(干鰯油粕など)の購入や商品作物(木綿菜種など)の売却のために在郷町が発達し、また主な流通経路である河内国和泉国山城国との経済的なつながりが強かった。このため、この地域で発行された藩札、旗本札、寺社札などで、発行元によっては、国境を超えた地に居住する者たちを含め、きわめて多様な引請人を持つ場合がある。また、奈良盆地は米どころであり、米手形形式の銀札の発行例が多い。

高市郡曾我(現・橿原市曽我町)の多賀氏は、近江国の領主であったが、浅井長政豊臣秀長などを経て徳川家の旗本となった家である。十市郡豊田(現・橿原市豊田町)などを領する佐藤氏は、関ヶ原の戦いで手柄を立て、元から領していた美濃国の所領のほかに、大和国摂津国近江国で加増された家である。宇陀郡福地(現・宇陀市榛原区福地)の織田氏は、織田信長の一子織田信雄の裔で、柏原藩織田氏の分家であり、交代寄合のち高家となった家である。十市郡田原本(現・磯城郡田原本町)の平野氏は、羽柴秀吉騎下の賤ヶ岳の七本槍の一人平野長泰の裔で、交代寄合表御礼衆の家である。これらの曾我多賀氏、豊田佐藤氏、福地織田氏、田原本平野氏は、それぞれ領外で取引関係にある多様な在郷商人などが引請の銀札を発行した。

戦国期に京で権勢を誇った三好氏のうち、徳川家康に取り立てられた三好可正の系統は大和国の添下郡丹後庄(現・大和郡山市丹後庄町)及び山辺郡守目堂(現・天理市守目堂町)を所領として有した家である。忍海郡西辻の水野氏は、織田信長、北条氏政などに仕え、後に徳川家の旗本となり、武蔵国の他大和国に所領を有して西辻に陣屋を置いていた家である。葛下郡松塚(現・大和高田市松塚)の桑山氏は、新庄藩桑山氏の分家であり、本家が改易された後も存続した家である。十市郡池尻(現・橿原市東池尻町)の赤井氏は、元は丹波国の土豪であり、後に徳川家に旗本として仕えた家である。高市郡坊城・曲川(現・橿原市東坊城町、曲川町)の藤堂氏は、津藩藤堂氏の分家である。山辺郡平等坊(現・天理市平等坊町)の山口氏は奏者番、伏見城番などを勤めた山口直友の裔である。これらの丹後庄守目堂三好氏、西辻水野氏、松塚桑山氏、池尻赤井氏、坊城曲川藤堂氏、平等坊山口氏は、それぞれ米手形形式の銀札を発行した。

添下郡高山(現・生駒市高山町)の東半分及び隣村の鹿畑(現・生駒市鹿畑町)を領していた堀田氏は、他に常陸国及び近江国にも所領を有し、近江・大和の所領は近江国甲賀郡上田(甲賀市水口町嶬峨)に置かれた陣屋が統括していた。堀田氏は高山において、庄屋の中谷吉兵衛による銀札を発行した。

添下郡豊浦(現・大和郡山市豊浦町)の片桐氏及び添下郡伊豆七条(現・大和郡山市伊豆七条町)の片桐氏は、いずれも小泉藩片桐氏の分家である。前者は明治元年に銭札を、後者は慶應二年に米会所から庄屋・年寄・百姓の請負による米手形形式の銀札を発行した。
摂津国・河内国・和泉国

摂津・河内・和泉の3国は徳川幕府成立以後も大部分が豊臣家の所領であった。このため、この地域における旗本は、関ヶ原の戦い前後から大坂の陣による豊臣家滅亡前後までにかけて、徳川家が勢力拡大及び地域安定化のために地生えの武家勢力・豪商などを取り立てた例が少なくない。大坂近辺では、大坂町奉行のような在坂役人が大坂近辺の役知をそのまま加増地として与えられて知行した場合も少なくないが、旗本札を発行したのは知行地支配力の強い地生え勢力の家々ばかりである。

摂津国能勢郡地黄(現・大阪府能勢郡能勢町地黄)の能勢氏多田源氏流の名族であるが、豊臣秀吉の能勢郡侵攻によって領地を追われた。流浪を経て五大老筆頭であった徳川家康の庇護を受け、関ヶ原の戦いで戦功を上げて能勢郡の旧領を安堵された。能勢氏はその後、所領を一族で分割支配した。本家の地黄能勢氏は天保年間より旗本札を発行した。分家の能勢郡切畑(現・大阪府能勢郡豊能町切畑)の切畑能勢氏は、加増によって与えられた丹波国氷上郡3ヶ村(現・兵庫県丹波市青垣町)で紙幣を発行した。

摂津国島下郡溝杭(現・大阪府茨木市星見町)に陣屋を構えていた長谷川氏は、江戸時代初期の大名長谷川守知の子孫である。守知は関ヶ原の戦いで西軍に属し、石田三成の居城佐和山城の守備を担当していたが、敗戦後に東軍に内応して落城のきっかけを作ったため、徳川家に大名として取り立てられた。守知は、寛永年間に没する際、領地を子らに分割して与えたため本家の所領が1万石を切ることとなり、いずれも旗本となった。溝杭長谷川氏は、摂津国島下郡のほか数ヶ所に分散して知行地を有していたが、勤番所を置いていた備中国窪屋郡大内(現・岡山県倉敷市大内)で紙幣を発行した。


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