方言学
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これは地域差の事実を記述したものとして厚みがあるが、発音文法が主で語彙の記述はなく、すぐに研究を発展させるものには成り得なかった[12]。なお『日葡辞書』には約400語の方言が所収されている[13]

江戸時代に入ると、「古語は方言に残る」という考えは一層有力になる。例えば本居宣長の『玉勝間』や荻生徂徠の『南留別志』などに、そのような旨の言及が見られる[14]。この他に安原貞室の『片言』や小林一茶の『方言雑集』など、俳人たちによる文献がある[13]。とりわけ越谷吾山の『物類称呼』は大規模な方言集で、各地の異称を同一平面上に並べてみようとする姿勢から[15]、忘れ去られた可能性のある方言語彙を数多く記載している[16]
近代以降

明治以降、いわゆる標準語の形成に関心が高まると、国家的規模の方言調査が、文部省内に設置された国語調査委員会によって執行された。学術的な研究調査の成果として、とりわけ『音韻調査報告書』(1905年)や『口語法調査報告書』(1906年)などが注目される[17]。しかし、1913年に国語調査委員会は行政整理の名の下に廃止され、その膨大な資料も関東大震災によって焼失した[18]柳田國男「蝸牛考」以外にも方言に関係する文章を多く執筆している[19]

こうして方言学は、大正時代に一旦は衰退したが、昭和時代の初期に至って再び活況を呈するようになった。1927年東条操の「方言区画論」と、柳田國男の「方言周圏論」が発表されたのである。東条は『大日本方言地図』と『国語の方言区画』を出版し、全国を「内地」と「琉球」に分類し、次いで「内地」を「本州」と「九州」に細分化し、さらに「本州」を「東部」「中部」「西部」に細分化した[18]。その後、幾度の修正を加えていき、最終的には「東部方言」「西部方言」「九州方言」に落着した[20]。一方で柳田は、「日本の各地では蝸牛をどのように呼ぶのか」という問題意識に基づいた論文蝸牛考」を『人類学雑誌』に連載した[21]。柳田は「京都を中心として同心円状に分布している」という事実から、「方言は文化の中心地で生まれた言葉が順次周囲に拡散して成立したもの」とした[18]

この他に注目すべき研究としては、比較言語学方法論を応用して方言間の比較から祖語再構しようとする比較方言学がある[22]。例えば服部四郎は、諸方言のアクセントに整然とした型の対応が見られることを指摘し、比較言語学の手法によって系統について論じた[23]。こうした服部の研究は、とりわけアクセント方面において、金田一春彦平山輝男などを中心に発展した[24]

戦後には、国立国語研究所のような機関によって大規模な共同研究が開始されるようになり[注釈 1]、各地の方言全体を体系的に扱うようになったほか、社会構造などから多角的に追究されるようになった[26]
隣接した分野

方言学は民族学歴史学社会学民俗学地理学など、周辺分野との学際的な研究が多い。例えば言語地理学では、方言の地理的分布を元に言語史を追究する[27][28]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 研究資料として『日本言語地図』などを刊行している[25]

出典^ Chambers, J. K., & Trudgill, P. (1998). Dialectology. Cambridge University Press.
^ 金田一春彦 (1977).
^ 小林英夫 (1928).
^ Lance Eccles, Shanghai dialect: an introduction to speaking the contemporary language. Dunwoody Press, 1993. ISBN 1-881265-11-0.
^ Chen, Yiya; Gussenhoven, Carlos (2015), "Shanghai Chinese", Journal of the International Phonetic Association, 45 (3): 321?327, doi:10.1017/S0025100315000043
^ 小田格 (2018).
^ 宮治弘明 (1991), p. 242.
^ 窪薗晴夫 (2015).
^ 徳川宗賢 (1977), p. 330.
^ 日野資純 (1961), pp. 440?441.
^ 日野資純 (1961), p. 441.
^ 徳川宗賢 (1977), p. 332.
^ a b 日野資純 (1961), p. 442.
^ 徳川宗賢 (1977), pp. 330?331.
^ 徳川宗賢 (1977), pp. 331?332.
^ 宮治弘明 (1991), p. 243.
^ 日野資純 (1961), p. 443.
^ a b c 宮治弘明 (1991), p. 245.
^ 徳川宗賢 (1977), p. 364.
^ 徳川宗賢 (1977), p. 343.


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