新藤兼人
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新藤自身も被爆後の広島に足を踏み入れている[12]。そして松竹大船撮影所に復帰するため上京することになる。
脚本家としてデビュー『アサヒグラフ』 1948年2月11日号より

宝塚歌劇団図書館にあった全ての「戯曲集」を読み終え松竹大船撮影所に復帰。1945年(昭和20年)秋書いた『待帆荘』がマキノ正博によって『待ちぼうけの女』(1946年)として映画化され1947年(昭和22年)のキネマ旬報ベストテン4位となり初めて実力が認められた[7]。溝口のために溝口の戦後第1作『女性の勝利』(1946年)と『わが恋は燃えぬ』(1949年)を書く。戦中に亡くなった内妻の孝子のために書いた『愛妻物語』のシナリオはこの頃に書いている[10]

1946年(昭和21年)34歳のときに美代と結婚[7][10]。美代とは60歳(1972年)まで婚姻関係を続けている[10]

1947年(昭和22年)に、吉村公三郎と組んで『安城家の舞踏会』を発表する。大ヒットしキネマ旬報ベストテン1位も獲得、シナリオライターとしての地位を固めた[7]。その後は吉村とのドル箱コンビで『わが生涯のかゞやける日』(1948年)などのヒット作を連発。木下惠介にも『結婚』、『お嬢さん乾杯!』を書く。

1949年(昭和24年)、『森の石松』の興行的失敗等で松竹首脳らが「新藤のシナリオは社会性が強くて暗い」とクレームをつけるに及び、自らの作家性を貫くため1950年(昭和25年)、松竹を退社して独立プロダクションの先駈けとなる近代映画協会を吉村、殿山泰司らと設立[7][10]
映画監督デビュー

1951年(昭和26年)、大映から請け負う形で近代映画協会初の作品として、『愛妻物語』で39歳にして宿願の監督デビューを果たす[10]。この自伝的な内容の脚本はどうしても他人にやらせたくなかったと告白している[10]。主演は大映人気スター“百萬弗のゑくぼ乙羽信子[12] で、乙羽がこの脚本を読んでどうしても妻の役をやりたいと願い出てきたこと、新藤としては愛妻物語のモデルである内妻・孝子と乙羽がよく似ているから、との理由で決まった[10]

また大映に持ち込んだ『偽れる盛装』が1951年(昭和26年)の大ヒット映画となった。

1952年(昭和27年)、近代映画協会初の自主制作作品として、原子爆弾を取り上げた映画『原爆の子』を発表[12]。翌年の1953年(昭和28年)、カンヌ国際映画祭に出品[12]。後に公開された外交文書あるいは外務省文書において、当時の日本政府はこれを好ましく思っていなかったこと、アメリカの圧力により外務省が受賞妨害工作を試みたこと、逆にカンヌでは高い評価を得ていたこと、が判明している[7][12]。こうした前評判に周囲はパルム・ドールを期待したが落選している[12]。また西ドイツでは反戦映画として軍当局に没収される騒ぎもあり[7]、各国で物議を醸したが世界で反響を呼び、チェコ国際映画祭平和賞、英国フィルムアカデミー国連賞、ポーランドジャーナリスト協会名誉賞など多くの賞を受けた。これ以降も広島原爆をテーマとした作品をつくった。また長崎原爆ものでは1950年『長崎の鐘』で脚本を担当している。

原爆の子主演の乙羽は映画制作の際に近代映画協会へ強引に移籍、以降新藤と乙羽の関係は続き、私生活では新藤には本妻・美代とその子たちがいたもののこの頃より乙羽と愛人関係になる[10]

以降は自作のシナリオを自らの資金繰りで監督する独立映画作家となり、劇団民藝の協力やカンパなどを得て数多くの作品を発表。しかし芸術性と商業性との矛盾に悩み失敗と試行錯誤を繰り返した。核兵器の作品も続き、1959年(昭和34年)『第五福竜丸』を発表するも興行的には失敗に終わり、近代映画協会には多額の借金が残り解散の危機に陥った[13]

この頃、同時期に日本映画に衰退の陰りが見え大きな映画会社の経営が困難になり始めた。しかし、産業としての映画の衰退は「社会派映画」や「前衛芸術映画」の躍進のチャンスでもあった。大映画会社による映画館の独占支配体制が緩み、小さな独立系プロの製作する映画にも上映の機会を得ることができるようになった。
『裸の島』

1960年(昭和35年)、経営が立ちゆかなくなった近代映画協会は、その解散記念作品として新藤が長年暖めていた無言の映画詩『裸の島』の制作に入る[13][14]。広島県三原市の無人島である宿弥島を舞台に、その南にある佐木島でロケを敢行、制作費はわずか500万円、夫婦役の殿山・乙羽含めスタッフ13人に佐久島の小学生も加わり、撮影期間1ヶ月で作り上げた[14]


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