新聞販売店
[Wikipedia|▼Menu]
また、販売店が受け持った地域の購読者が拡張団が提示する好条件の契約に慣れてくると販売店の社員では対応していくのが困難となってしまい、購読者にとっては都合が良くとも販売店にとっては経営維持が苦しい状況となる。
ノルマ達成と押し紙

新聞社は販売部数拡大と発行部数に比例して広告収入が決定されるため、広告費収入の維持・増益を目的として、しばしば「目標数○○万部」などと契約上の優越的地位を利用して過大なノルマを販売店に課すことがある[7]。これらは販売しなければならない新聞を販売店に押しつけている形になっていることから、「押し紙」と呼ばれている[8][9]。なお、押し紙制度は新聞社の販売部局に長く在籍した飯田真也(朝日新聞代表取締役会長)が作り出したといわれる[10][11]

販売店は新聞社に対して従属的な立場にあり要求を拒めば販売店契約の解除を暗にほのめかされるなど不利な状況に追い込まれるため、「押し紙」を所謂自爆営業で受け入れざるを得ない。新聞社は販売店に「押し付けた」時点で利益を計上することができるが、販売店は売れ残った新聞の代金も新聞社に一方的に支払い続けなければならない[7]

こういった行為は独占禁止法に抵触する。1997年、公正取引委員会は、北國新聞社(石川県)に対し、「大部分の新聞販売店に対し、その注文部数を著しく超えて供給しており、その結果、新聞販売店においては、相当部数の販売残紙が生じ、経済上の不利益を受けている」としたうえで、排除措置命令を発出している[12]。また、2016年には、参議院経済産業委員会で、山田昭典公正取引委員会審査局長が、朝日新聞社による販売店に対する新聞の販売方法に関し、公正取引委員会から注意を行ったことを明らかにした[13]。発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。一 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。二 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

? 新聞業における特定の不公正な取引方法(平成十一年七月二十一日公正取引委員会告示第九号)

なお、全国の日刊紙で発行部数の2割程度、約1000万部が日々廃棄されているという。ただ新聞配達業務には、輸送やチラシの折り込み作業で破れる、配達時に落とす、雨に濡れるなどのトラブルはつきものであり、多少の予備も必要になるため廃棄される新聞全てが押し紙とはいえない。

月刊誌『財界にっぽん』によれば、元販売店と新聞社との民事訴訟で実売2000部に対し押し紙が3000部だったケースも報告されている。2007年秋に総部数2010部となっているところ、実際に読者に配達していたのは1013部と997部、実に半分もの新聞が押し紙となっている例もあるという[14]。新聞各社は押し紙の存在を否定するが、漫画『ミナミの帝王」などで言及され、特にネットなどではよくその存在が既成事実として語られる[15]

「押し紙」の存在は販売店にとって大きな経済的負担になっており、経営に行き詰った元販売店が新聞社を相手取って実際に訴訟をおこすケースもある。2009年3月には、押し紙をめぐる裁判でフリー記者の黒藪哲哉が読売新聞に勝訴した[16]。また同年6月、『週刊新潮』が、滋賀県内の読売新聞は18%(全国平均では3?4割)、朝日新聞は34%、毎日新聞と産経新聞は57%が押し紙であるとした特集を組むなど、近年はこれまでのタブー視を打ち破るような情勢が形作られてきている[17]。同誌の記事の信憑性を問う裁判では、週刊新潮側が敗訴している[18]が、2016年4月28日号掲載の記事では、販売店主の告白という体裁で、再び各紙の押し紙(水増し)率を記事にしている[19]

新聞社は広告主に対し公称部数を元に広告枠を販売している[7]ため、「押し紙」を差し引いた実売部数が明らかになれば「押し紙」分だけ新聞社の広告費収入や販売店の貴重な収入源であるチラシ収入が減少する[20]こととなる。

週刊文春は新聞販売の闇として、押し紙で講読者数を偽装して、そのデータを基準とした広告料を掲載主らから取ることで差額を莫大な利益としていると報道した[21]。2015年に退職した元朝日新聞社販売管理部長の畑尾一知によると新聞を読む人の数はとてつもない勢いで減少していると明かしている。それにも関わらず、日本新聞協会が毎年発表する新聞の発行部数はそこまでは落ち込んでいない背景について、「そのギャップは押し紙として、販売店に押しつけられているのが実情だ」と明かしている[22]。毎日新聞では押し紙率が多かったため、販売店と度々訴訟になっている[23]

押し紙の一部はの店舗や店員の知人に緩衝材、包装紙などとして譲渡されていた[24]。近年では新聞販売店から未使用の新聞紙を回収し、インターネットショップで「ペットのトイレシート」などの名目でキログラム単位で販売するビジネスモデルが定着している[24]
販売店の経営状態

主に新聞の販売益と新聞に折り込まれる折込チラシの手数料収入が経営を支えている。新聞販売店の原価率は極めて高く、粗利は低い。配達員の給与も時間的特殊性から高く、営業(訪問セールス)に支払われる対価も決して小さくはない。そのため人件費のウエイトが非常に大きい。特にチラシの多い都市部ほどチラシの収入から営業活動やいわゆる押し紙の経費を捻出している割合が高い。このような経営体系のため、チラシの指数と実際の新聞の扱い部数が乖離し、配布されることのない余分なチラシに対しても手数料を徴収していた事例が過去には非常に多く見られたが、最近では新聞雑誌部数公査機構であるABC(Audit Bureau of Circulations)の店別指数公表もあって以前よりは改善され、さらにインターネットの普及によりチラシ自体が減少傾向にあるために、その経営環境はますます厳しくなっている。

また、表向きは再販制度及び新聞特殊指定により「全国同一価格」が謳われているが実際は新規契約に際して「3ヶ月間無料」といった条件が提示されるなど同じ新聞の販売店でも月極で800円前後の価格差が存在し事実上の値下げが行われ、「全国同一価格」が部分的に守られていないことが知られるようになってきている[25]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:35 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef