新ロマン主義音楽
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ワーグナーやリストの直接の弟子から新ドイツ楽派の衣鉢を継ぐ者は、ロイプケドレーゼケを除いてほとんど現れず、グスタフ・マーラーリヒャルト・シュトラウスフーゴー・ヴォルフらによって、楽派の最後の烽火が上げられた。ちなみにマーラーとヴォルフはブルックナーの門弟である。

アントン・ブルックナーは、作風や創作姿勢において、文学性や標題的要素が見受けられないものの、半音階技法や拡張された調性、長大な旋律、巨大なオーケストラを用いたある種の音色操作といった特色において、新ドイツ楽派の巨匠と共通点を有しており、しばしば新ドイツ楽派の一員に数えられる。またブルックナーを、保守主義・伝統主義の立場をとったヨハネス・ブラームスと対比させ、新ドイツ楽派の進歩主義から交響曲を復興させた大立者と評価することもしばしば行われている。
新ドイツ楽派の歴史的位置付け

新ドイツ楽派は、19世紀初頭に生まれたリストやワーグナーと、19世紀後半に生まれたマーラーらとでは、歴史的に果たした役割が異なっている。前者は盛期ロマン主義音楽の体現者であり、後者はロマン主義音楽存亡の時期に、一方においてはその絶え間ない革新者であり続けながら、同時にロマン主義音楽の擁護者も兼ねなければならなかったのである。

リストやワーグナーは、音楽を軸とした「総合芸術」を訴え、ソナタ形式からの離脱や調性の際限ない拡張を推し進めつつ、音楽の自律性や抽象性に疑義を呈した。リストとワーグナーは「未来の音楽」を標榜しており、進歩主義ないしは急進主義に立って同時代の音楽に一石を投じようとしていた。リストが、《ファウスト交響曲》などで調性感のあいまいな主題を多用したり、《調性の無いバガテル》などで密かに無調を試みたという例、あるいは、《ピアノ・ソナタ ロ短調》で複数楽章を一つに融解させた例は、作曲者の旺盛な実験精神を物語っている。またワーグナーは、ベートーヴェンが最後の交響曲に声楽を導入したことを根拠として、オペラの時代の到来を叫ぶとともに、交響楽と歌劇を高度に融合させた楽劇の創出を強弁するようになる。

マーラーやリヒャルト・シュトラウス、ヴォルフらは、リストやワーグナーの最晩年に作曲活動に入っており、この二人の実験があらかたし尽くされた後で、ロマン主義音楽に残された最後の可能性に賭けた作曲家であった。とりわけマーラーやシュトラウスにおいては、ジャンルの越境・解体、ある種の合成和音、巨大な対位法によって引き起こされる部分的複調や、12の半音が出揃う極端に半音階的なパッセージなどが明らかで、これらの方向をそのまま推し進めるなら、現代音楽への突破口になるものだった。ちなみに、ブラームスと新ドイツ楽派の融和を目指したマックス・レーガーも、やはり20世紀初頭までに12音的な主題を用いている。

しかしマーラーの死後、リヒャルト・シュトラウスは、やがて楽劇ばらの騎士》において、「モーツァルトへの回帰」やロココ趣味を嘯き、より穏当な方向に転換してしまう。進歩的な作曲家集団としての、新ドイツ楽派の歴史的役割が脆く崩れた瞬間であった。

調性破壊に向けて革新的な一歩を歩みだしたのは、アルノルト・シェーンベルクを指導者とする「新ウィーン楽派」であった。彼らはマーラーの最晩年の時期には既に無調音楽を作曲し始め、ここにおいて、新ドイツ楽派と新ウィーン楽派の世代交代が行われた。
20世紀における新ロマン主義
定義
ヴァージル・トムソンによる定義
「(新古典主義の作曲家は、ごつごつした主題を愛用するが、)新ロマン主義の作曲家は、朗々と歌うような旋律素材を持ち合わせ、個人的感情を素直な形で表出する。新ロマン主義者は、純粋に美学的な立場にある。というのも、厳密に言えば、われわれは折衷的であるからだ。われわれは、誠実さについての問題を新しいやり方で示すことによって、現代の美学に貢献してきた。他人に感心されようとは思わないし、喜怒哀楽が大げさなのも嫌だ。うそ偽りない自分の感情、それだけが表現に値すると思われる。……情緒とは我々の被写体であり、時には風景のようなものである。しかし出来れば、その風景に人間が居るのが好ましい。」
ダニエル・オルブライトによる定義
「19世紀において、新ロマン主義という語は、(例えるなら)シューマンのように、音楽でもって心の動きを高度になぞるような作品のことであった。だが1920年代になると、主情主義のうちでも抑制の効いた、節度のあるものを表した。新ロマン主義は、表現主義者のゆき過ぎた表現を煎じ詰めて、変わらぬ思いという残留物を取り出すのである。」

したがって、20世紀前半の新ロマン主義音楽とは、ロマン主義への復帰を意味するものではなく、文字通りに「新しくなった」ロマン主義という意味だったのである。ロマン主義が「新しくなった」と前提することは、ヨーロッパ中心のロマン派音楽の時代がいったん終焉したことを認め、証明するものであった。


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