文芸評論
[Wikipedia|▼Menu]
19世紀に科学主義実証主義が広まると、テーヌは血統・環境・契機の三大要素をもって作家・作品を規定しようとし(環境説)、ブリュンチエールはダーウィンに倣った文芸ジャンルの進化説を、フロイトは無意識的リビドーを批評の根底に据えた。
効用批評と審美批評

アリストテレスは文学の効用をカタルシス(感情の浄化)にあるとしたが、文学になんらかの実益を期待する視点は、その後も根強く存在して批評の一角を占める。ことに政治・宗教・教育方面に携わる人たちにこの傾向が強く、彼らは自己の信条に忠実であればあるほど、文学作品に自律性よりは教化の道具をみる。例えば、毛沢東の『文芸講話』(1942)、バチカンの『禁書目録』(1564?1965)、公的権力による文学裁判・発禁、作家の国外追放などはその極端な例である。

文学者は一般に文学を文学以外のいかなる効用的規範にも従属させることを好まず、多かれ少なかれ、審美批評(utilitarian criticism)の立場に立つ。審美批評の立場は、ゴーチエの「芸術のための芸術」の言葉に代表される芸術至上主義である。一方で、より高次の効用批評(aesthetic criticism)に立つ立場があり、この立場はトルストイの「人生のための芸術」の言葉に代表される、人生至上主義ないし人道主義である。審美批評と効用批評の例として、「文学は男子一生の仕事に非ず」とした二葉亭四迷と、「人生は一行のボードレールにも若かない」とした芥川龍之介が挙げられる。
伝統的批評と新批評

近代以前の古典主義的批評が、理性と宿命を基盤とした普遍性への指向を顕著に示したのに対して、ロマン主義以降の批評は感性の優位を主張し、人間ひとりひとりの個性・特殊性を重視した。そのため、文学作品そのものよりも、その背後の作者の存在に興味がもたれるようになった。作品そのものに生命があるのではなく、作品に生命を与えているのはその作者である人間にほかならぬという発想である。サント・ブーブは「この木にしてこの果実あり」といい、作家と作品を密接不可分のものとして、作家の実生活をもって作品を解明しようとした。彼の用いた実証主義的手法は科学的批評としてテーヌ、ルナン[要曖昧さ回避]、ブランデスランソンらに受け継がれる一方で、審美的側面は鑑賞批評としてアーノルドペイターアナトール・フランス小林秀雄らに受け継がれた。そしてさらに前者から、後にプロレタリア文学の擁護・育成につながってゆくマルクス主義的・文芸社会学的批評、フロイトユングらの精神分析学的批評、クローチェらの理想主義的・歴史的批評などが生まれ、ひいては文学史研究、文芸学の誕生をも促すこととなった。また作家の内面への参入は、アラン[要曖昧さ回避]、チボーデバシュラールプーレ、そして人間存在の内奥に「実存」をみたサルトルらに至る。

20世紀初頭のバレリープルーストT・S・エリオットらはサント・ブーブの伝記的批評に反対して、彼とは逆に作品を作家から切り離し、文学作品は完全に自律的な全体であり、在外的ないかなる要素とも無縁であるとする立場をとった。こうした考え方が1930年代以降のアメリカにおける「新批評(ニュー・クリティシズム)」に発展し、古典主義的批評、ロマン主義的批評に続く、象徴主義的批評とでも称すべき批評史上の第三波形成の契機となった。この批評は客観的な方法によるイメージの分析とそれを概念化するための独自の批評用語の開発をその特色としたが、ヤーコブソンプラハ学派フォルマリズム批評ロラン・バルトらによるフランス派構造主義批評などに取って代わられた。これらの「新批評」の特徴は、いずれも作家の意志を考慮せずに、文学作品の無意識的・潜在的言語特性や作品構造を明らかにすることにあり、多く哲学、精神分析学、文化人類学、民俗学、言語学、意味論、文体論、記号論などの諸学を援用、一般にきわめて難解で、文芸批評というよりは文芸学・詩学的色彩が濃い。
現代

現代批評はテクスト重視派を主流とするが、テクストを創作行為と読書行為の協調によってさらに上位のテクストに移行さるべき未完成のもの、ないしは再構築すべきものとする考え方(晩年のバルトポスト構造主義)、総合的組成物とするとらえ方(クリステバ間テクスト性)、さらには読者ひとりひとりが硬化したテクストを内的に破壊することによって初めて文学が成立するとする見地(解体批評)、サント・ブーブボードレール流の在来型批評、新文学宣言、さらに各種批評の総合・折衷・使い分けの主張、読者論、文学快楽説、文学空間論、文学不可知論など、様々な方法論が混在している状況である。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:31 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef