文化_(動物)
[Wikipedia|▼Menu]
シジュウカラの牛乳ビン開け

1970年代に、イギリスで人家に配達された牛乳ビンの蓋が、勝手に開けられるという騒ぎが起こった。原因を調べると、シジュウカラの一種が嘴で紙製の蓋を破っていることが発覚した。この地方では、それまでも同じような牛乳配達が行われていたが、そのような被害はなかった。しかも、この時の被害が、一羽の鳥によるものではなかったことから、恐らくある一羽がその方法を発見し、他の個体がそれを見てまねたものと考えられる。つまり模倣によって、新しい行動が伝播したものと考えられる。その後に牛乳ビンが金属の蓋に変わって、それ以降は同様な被害は消えたと言う[14]
その他の例

このほか、以下のような道具の使用例が知られる。

エジプトハゲワシが、鳥の卵を割って食べるために、小石を咥えて叩きつける。

ダーウィンフィンチの一種が、口にくわえたサボテンの針をツマヨウジのように使って、枯れ木の穴中から虫を取り出す。

ジガバチの一種が、巣穴に蓋をする時、巣穴の口に詰め込んだ砂粒を、口にくわえた小石で叩く。

ただし、ダーウィンフィンチやジガバチの場合には、個体間の伝承も考えにくく、習性の一環と見た方がよい。
文化と見なすかどうか

上記のようなさまざまな例が、文化と呼べるものであるかどうかについては、さまざまな議論がある。

先に挙げたような例は、いずれも後天的に獲得され、個体間の伝播で広まり、動物集団ごとに一定の型がある点など、人間に見られる文化的現象との間に、一定の共通点がある事は認められる。そういった立場から、これらを動物における文化であると見なす立場もある。

しかしながら、たとえば芋を洗い、味付けをするサルが、その後豊かな食文化を開発したかと言えば、そのようなことはない(ただし、元々砂浜に撒かれた芋を淡水の河口で砂を洗い流す行為から派生した「味つけ」という行為が年長者にも子孫にも伝承されている事実もある)。シジュウカラの例でも、彼らがその後にそれまでと異なった生活に入ったという話は聞かない。

これに対して、人間における文化は、人間の生活のあり方そのものを変えるほどに広範囲にわたり、それが世代を重ねるにつれ、次第に蓄積されるところにも特徴がある。また、文化が異なる人間間では意志疎通や感情の交流が困難なほどに、人間の根本に関わっている。そう言った面を重視する立場からは、これらの動物における例を、文化と共通する面があることは認めるにせよ、とても文化とは呼べないとする意見もある。

このような両端の意見に配慮して、これらの動物に見られる、文化的な現象をさしてpreculture [15](前文化[訳語疑問点])と呼んではどうかとの提案もあるが、広く認められてはいない。
参考文献

宮地伝三郎,1969,動物社会,筑摩書房

脚注^ a b c 岩波生物学辞典 p.1248【文化】
^ a b c d e 岩波生物学辞典 p.1249【文化的行動】
^ a b c 宮地(1969)p.116
^ ただし異所的な同種が同じ行動をとっている場合、それを文化とみなさないわけではない
^ 河合雅雄, 松沢哲郎, 山極寿一 (2003). “鼎談:霊長類カルチャー研究の源流を探る”. エコソフィア 12. 
^ 初出:「人間性の進化」『人間』毎日新聞社、1952年。 
収蔵: 今西錦司全集7巻 ニホンザルの自然社会・ゴリラ, 講談社, (1994) 
^ 第一発見者は三戸サツヱである。川村が和文で第一報、河合が英文で第二報を出した。
^ Kawamura,S (1959). “The process of sub-culture propagation among Japanese macaques”. Primates 2: 43-60. 
^ Kawai, M (1965). “Newly-acquired pre-cultural behavior of the natural troop of Japanese monkeys on Koshima Islet”. Primates 6: 1-30. 
^ 田中伊知郎 (1999). “行動の社会伝達”. 霊長類学を学ぶ人のために. 世界思想社 
^ Tanaka,I (1995). “Matrilineal distribution of louse egg-handling techniques during grooming in free-ranging Japanese macaques”. American Journal of Physical Anthropology 98 (2): 197-201. doi:10.1002/ajpa.1330980208. 
^ 宮地(1969)p.108-110
^ 宮地(1969)p.119-120
^ 宮地(1969)p.121-122
^ 英語版Wiktionary - precultureも参照。動詞と名詞とで意味が全く異なる点に注意。

関連項目

動物のコミュニケーション

社会 (生物)

典拠管理データベース: 国立図書館

イスラエル

アメリカ


記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:22 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef