政治
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フィレンツェの政治思想家ニッコロ・マキアヴェッリは政治権力は軍事力という暴力装置によって裏付けられなければならないと考えており、これは権力資源の実体性から権力を把握するものである。またアメリカの政治学者ロバート・ダールは『誰が統治するのか?』の中で権力を「他からの働きかけがなければBがしないであろうことを、AがBに行わせることが可能なとき、AはBに対して権力を持つ」という他者との関係において定式化している。そして権力は集団において意思決定することで行使されると考えた。この権力の本質をめぐる議論から分かるように、権力の概念とは論争的なものであり、権力は権威暴力などの概念との関係の観点からも議論される。

フランスの哲学者ミシェル・フーコーの『監獄の誕生』は権力の概念をめぐる議論で新しい観点を提示した。フーコーの権力理論によれば、近代の刑罰について研究することで知識と権力の密接な関係を「権力と知とは相互に直接含みあう」と指摘している。つまり権力は知識が協同することで初めて人間の行動を支配することが可能となるものであり、科学的な知識であっても権力と無関係に独自に存在するものではないと論じた。権力の概念に対する見解についていくつか概観したが、いずれも政治の根本的な構成要素として権力を位置づけている。なぜなら、政治においてそれぞれの主体は権力を活用することによって目的を達成することが可能となるためである。

権力の機能には他者の積極的な服従と消極的な服従の両方が含まれる。他者の積極的な服従を獲得する能力は厳密に言えば権力と区別して権威と呼ばれる。アメリカの心理学者スタンレー・ミルグラムが実施したミルグラム実験が示すところによれば、教授の命令に対して多くの被験者は自己に責任が及ばないために、他者に対して継続的に電気ショック[要曖昧さ回避]で危害を加えることが確認できる。このような権威者に対する他者の服従は人間の心理だけでなく、合理性の観点からも理解することができる。イギリスの政治思想家トマス・ホッブズジョン・ロックの政治思想によれば、権威者がおらず各人が自分の判断で勝手に行動している自然状態において、各人は自己の生命と財産を守るという合理的な理由に基づいて政府組織を構築したと論じている。これは権威者に対して人々が服従することによって安定した秩序がもたらされると考えることができる。ウェーバーは『支配の社会学』において権力が受容される理由を心理的要因や合理的要因とは異なる観点から捉えており、正当性の概念で説明している。つまり人間が権力の働きである支配を受容するさまざまな理由は伝統的正当性、合法的正当性、そしてカリスマ的正当性の三種類に大別することが可能であると論じた。いずれかの正当性を備えているならば、それは支配される人々にとっては服従しうるものとなる。一方で権力は消極的な服従を強制的に獲得する機能も持つことに着目することができる。ドイツの政治思想家カール・マルクスや革命家ウラジミール・レーニンは権力を国家権力に限定して捉え、それが支配階級であるブルジョワジーによって運営されるプロレタリアートに対する暴力的な強制装置であると考えた。このマルクス主義的な権力理論によれば、国家に支配される国民は抑圧されていると考えられる。
政治道徳詳細は「正義」を参照

政治において正義とは適切な均衡が存在する状態を言う。この基本的な正義の概念を理解する上で古代ギリシアの哲学者プラトンの議論が参考になる。プラトンは『国家』において正義は個人においては理性、意志、情欲の三つが精神的に調和している状態であり、国家においては政治家の知恵と軍人の勇気、そして庶民の節制の精神が調和している状態を指すものと論じた。しかし均衡をどのように実現するかについてより具体的に考えるならば、分配の問題に取り組む必要がある。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』で正義を道徳的に正当な利害の配分と捉え、もしこの配分が正当な均衡を失えば、それは不正な状態であるために是正しなければならないと論じた。

アリストテレスの正義の定式は現代に発展されている。哲学者ジョン・ロールズは『正義論』において共通善を自由と考え、恵まれない人々のために恵まれる人々の自由を制限することで、平等に自由に必要な基本財を分配する正義の理論を展開している。したがって恵まれない人々の基本的な自由を、恵まれた人々が負担することで社会の不正は是正されると論じた。この見解には反論がある。哲学者ロバート・ノージックは自己の自由を最大化するためにある程度の自由を制約しながら社会を形成するのであり、もし恵まれた人々の財産を他の人々のために制限するならば、それは不当な自由の侵害であると指摘した。これらの議論は社会において正義の基準が複合的に存在することを浮き彫りにしている。そこで哲学者マイケル・ウォルツァーは社会の多元性を踏まえた複合的平等を主張しており、またシュクラールが不正義によって被害を受けた人々の意見に注意することを提唱している。

正義論での諸々の立場は倫理学では徳倫理学功利主義、そして義務論に系統化することができる。徳倫理学はプラトンやアリストテレスに代表される立場であり、いかに善い状態になるのかを主眼に置いている。また功利主義はジェレミ・ベンサムジョン・スチュアート・ミルに代表される説であり、「最大多数の最大幸福」という言葉でしばしば要約されるように社会万人の利益になる行為を正当化する。そして義務論はイマヌエル・カントに代表される理論であり、理性を以って義務を確立し、それを実施することを正当化する。これらの道徳理論は政治理論や政治イデオロギー、公共政策を正当化している。
政治システム詳細は「政治システム」を参照

イーストンは『政治分析の基礎』において政治システム論を展開している。政治を一つのシステムとして捉え、環境からもたらされる入力を変換して社会に価値を権威的に配分し、出力するものというモデルを構築した。政治システムは入力の過程から始まり出力の過程で終る。この入力とは環境からの要求や指示であり、出力とは社会を公的に制御することに関する制作活動である。出力を終えるとフィードバックが始まる。出力された結果は社会に影響を与えてまた新たな支持や要求などの入力過程をもたらす。このフィードバックの循環をフィードバック・ループと言う。

政治システムはアーモンドにより発展させられる。アーモンドは入力機能を政治的社会化と補充、政治的コミュニケーション、利益表出、利益集約があり、出力機能にはルールの作成である立法、ルールの適用である行政、ルールの裁定である司法の三つの機能があるとする。政治システム入力機能である政治的コミュニケーションはマスメディア、利益表出機能は利益団体、利益集約機能は政党が機能を果たしている。
国家詳細は「国家」を参照

国家は原則的には一定の限定された領域における統治機構を指すものとして理解できる。政治史において国家はさまざまな形態をとってきたが、政治学において国家は近代の西欧で成立した国民国家を想定している。国家の要件としては、限られた国境線で区分された領域性を持つ領土、領土内で秩序を構築する法律を制定してこれを維持する排他性を持つ主権、そしてそこに居住する住民の言語的、文化的な統合性を持つ国民の三要素が挙げられる。これは国際法において国家の承認を行う際の要件でもある。またジャン・ボダンの『国家論六編』によれば主権には立法権だけでなく、司法権や官職任命権、宣戦布告権や講和権、課税権や貨幣鋳造権などを含む唯一にして不可分の絶対的な権力であると論じられている。

国家論の展開においては小さな政府と大きな政府の議論が重要であった。小さい政府は18世紀にアダム・スミスの経済的な自由主義に始まる「神の見えざる手」の思想が基礎にある。つまり政府は経済活動に介入することなく治安維持と国防だけを行うべきとする議論であり、ラッサールには夜警国家とも呼ばれた。しかし普通選挙制が採用されると市民の政治的な自由が容認され、自由放任の風潮は薄れた。そして格差拡大や貧困の深刻化により政府の役割は社会への介入が増大していき、福祉国家として発展していった。

また近代国家では権力の極端な一元化を避けるための権力の分散の必要性も述べられた。法を制定する立法権、法を適用して判決を下す司法権、そしてそれを除いた国家作用の全てを包括する行政権の三つを分離させて均衡させることをモンテスキューが『法の精神』で論じられた。これが三権分立である。19世紀までの国家は三権の中でも立法権を有する立法府が行政府や司法府に優越する立法国家であったが、20世紀以後には社会福祉政策の充実化が進んで行政府の権限が強化されたために行政国家と呼ばれる。
政府詳細は「政治制度」を参照

政府は国家において安定的な支配を維持するための体制である。政治過程においても構造的な影響を与えるものであり、基本的な政治分析の際にも政治体制は注目される。君主制貴族制共和制民主制独裁制などさまざまな政府形態が歴史上採用されてきた。アリストテレスは統治者の数とその統治の受益者という二つの観点から分類法を考案した。また別の区分として民主主義体制・権威主義体制・全体主義体制の三分類がある。また制度は可変的なものであり、政権交代や指導者の交代のような政府変動や、支配集団全体の交代をもたらす体制変動は権威主義から民主主義へなどのように基本的な体制の変動を伴う。

民主主義 (Democracy) は国民の政治参加と自由な活動に価値をおく政治体制であり、社会における多様な利害関係や価値観の対立を政治の場で解決することを重視する。独裁制と対比されることもあり、現代では世界的に重要視されている政治理念でもある。国民が直接的に政治に参加する直接民主制と代議員を国民から選出して政治に間接的に参加する間接民主制がある。民主主義の下では政党制選挙制度また投票行動などが政治過程に影響するようになる。

ロバート・ダールポリアーキー論は政治体制の分析において、自由な政府批判を容認する公的異議申し立ての度合いと政治関与可能な国民の割合に注目し、両者を兼ね備えているものがポリアーキーと読んだ。


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