政教分離
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したがって、政教分離の具体的内容とは次の通りである[7]

国が宗教団体に特権を与えることの禁止 - 特定の宗教団体に特権を付与すること。宗教団体すべてに対し他の団体と区別して特権を与えること。

宗教団体が政治上の権力を行使することの禁止(「宗教団体の政治参加」を参照)。

国およびその機関が宗教的活動をすることの禁止 - 宗教の布教、教化、宣伝の活動、宗教上の祝典、儀式、行事など(「目的効果基準」を参照)。

上記の憲法規定は、宗教の関与を否定するものではなく、宗教団体が政治家や政治団体を支持したり、政治運動を行うことは憲法上認められている[81]

政教分離と信教の自由の関係につき、最高裁判所津地鎮祭訴訟の判決で、「信教の自由を確実に実現するためには、単に信教の自由を無条件に保障するのみでは足りず、国家といかなる宗教との結びつきをも排除するため、政教分離規定を設ける必要性が大であつた[82]」として、信教の自由と政教分離は目的と手段の関係にあり、個人の権利ではなく制度的保障(自由権本体を保障するために、権利とは別に一定の制度をあらかじめ憲法によって制定すること)であるとしている。これに対しては、信教の自由を侵していないという理由で政教分離の規定が縮小されてしまう可能性があり不適切であるという批判もある[83]

国家と分離される「宗教」については、信教の自由の場合と異なり、宗教だと考えられるものすべてを指すと考えることはできない[84] とする立場が一般的であるが、この「宗教」の定義によって国家および地方公共団体が禁じられる「宗教的活動」のとらえ方には2つの説が生じる。

一つには「当該の行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進、又は圧迫、干渉になるような行為[82]」とする説である。津地鎮祭最高裁判例がその代表である。二つにはより厳格に「超自然的、超人間的本質(すなわち絶対者、造物主、至高の存在等、なかんずく神、仏、霊等)の存在を確信し、畏敬崇拝する心情と行為」や「祈祷、礼拝、儀式、祝典、行事等およそ宗教的信仰の表現である一切の行為を包括する概念」であるとする説がある[85]

この説に対しては、死者に対する哀悼、慰霊等の行事のすべてが含まれるのは非常識であるとする批判がある[86]

また、政教分離の対象は国家および地方公共団体である。判例によれば、護国神社などは私的な宗教団体であり、私人である隊友会が殉職自衛官を山口県護国神社に合祀申請しても国家は関係ないから政教分離の問題にはならなかった[87][88]

他方、国家権力主体としての性格を有する愛媛県が靖国神社に寄付金を納めるのは、国家と宗教の過度なかかわり合いを発生させるので、憲法20条に反し、許されなかった(愛媛県靖国神社玉串料訴訟[89]「目的効果基準」も参照)。
神道の評価と目的効果基準
歴史的経緯

大日本帝国憲法は第28条において「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」と定めた。この条項は天賦人権説を否定する立場から起草されていることが草案作成者である井上毅ヘルマン・ロエスレルとの間の往還書類で判明しており、政府が宗教の論争から自由であること、宗派の分裂が政治の分裂を招くことから政府は宗教を統一するよう介入すべきであること、正教と謬教に同等の権利を与えてはいけない、といった趣旨が含まれており、条文の表現はこの目的を踏まえあえて曖昧に記述する方針となった。一方で国家神道との関わりについては日中戦争以降の国家ファシズム期のように、国民および官吏に対する参拝の義務といった論理(解釈)は、法文の執筆時典においては確定的に含まれていたわけでは無かった[90]

この第28条は信教の自由、および“安寧秩序” “臣民の義務”という定義自体が不完全なもので、のちに神道は「神社は宗教にあらず」といって実質的に国教化され(国家神道)、神社への崇敬を臣民の義務として、神宮遙拝は日常化され、家庭や公共機関などに神札を祀ることが奨励された。これに反する宗教は弾圧を加えられることもあった(大本教ひとのみち教団創価教育学会、横浜ホーリネス教会美濃ミッションなど)。

戦後日本における政教分離原則は、当時日本を占領していたアメリカを中心とする連合国総司令部 (GHQ) が、1945年(昭和20年)12月15日に日本国政府に対して神道を国家から分離するように命じた神道指令がその始まりである[91]。そして、1946年1月1日の昭和天皇のいわゆる人間宣言に始まる一連の国家神道解体へとすすんでいった。憲法制定過程では 松本委員会案 において、すでに神社の特典を廃止するとして記載されている(第二十八条)。
目的効果基準

津地鎮祭訴訟において最高裁は、宗教は個人の内心にとどまらず外部的な社会現象(教育・福祉・文化・民族風習など)をともなうのが通常なので、「国家と宗教の完全な分離は、実際上不可能に近い」として、いわゆる「目的効果基準」に従って国の宗教的活動の違憲性を判断するべきと判示した。これは「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる」か否かをもって、憲法第20条3項にいう「宗教的活動」に抵触するかどうかを判断するものである[82]

箕面忠魂碑訴訟では、この目的効果基準にしたがって、忠魂碑の移転に関わる費用等を市が負担した行為が合憲とされた。また、愛媛県靖国神社玉串料訴訟では、同基準に従い、県知事が公費から靖国神社に玉串料を奉納した行為が違憲とされた。さらに、砂川政教分離訴訟では北海道砂川市が市有地を神社に無償提供していた件が違憲と判断された[92]

目的・効果基準はアメリカのレモンテストに由来する。

なお、宗教的要素をもった文化財に対する補助金や、宗教系私立学校への助成金支出などもこの基準に照らして問題ないとされている。宗教系私立学校への公金支出については、学校教育法私立学校法などにより公教育を担っていると位置付けられているという理由もある。
靖国神社公式参拝の問題「靖国神社問題」も参照

政治と靖国神社の関係について、「特権付与の禁止」と「国の宗教活動の禁止」の視点から議論がなされてきている。

1985年8月14日に、政府は「内閣総理大臣その他の国務大臣がその資格で参拝することは、憲法第二十条第三項との関係で問題がある。断定はしていないが違憲ではないかとの疑いをなお否定できない」という従来の政府統一見解[93] を変更して、「正式な神式ではなく省略した拝礼によるものならば閣僚の公式参拝は政教分離には反しない」という見解を打ち出し[94]、8月15日に中曽根康弘首相が靖国神社を公式参拝し供花代金として3万円の公費を支出した。この参拝について、仏教、キリスト教信者が中心となって、信教の自由、宗教的人格権、宗教的プライバシー権等の侵害を理由に損害賠償・慰謝料を求める訴訟を行った。福岡高裁(平成4年2月28日)判決は、靖国信仰を公認し押しつけたものとは言えず、信教の自由の侵害はない、としたが、傍論において公式参拝が制度的に継続的に行われれば違憲の疑いがあるとした。大阪高裁(平成4年7月30日)判決も、今回は具体的な権利侵害はないが、公式参拝自体は違憲の疑いが強いとした[95]小泉純一郎首相も靖国神社を参拝したが「私的参拝」であるとして公費の支出もしなかった。千葉地裁(平成16年11月25日)判決、東京高裁(平成17年9月29日)判決は憲法判断を避け、原告の請求を棄却した。他方、福岡地裁(平成16年4月7日)判決と大阪高裁(平成17年9月30日)判決は原告の控訴を棄却したが、傍論で違憲に言及している。

また、岩手県靖国神社訴訟では、1962年から毎年岩手県議会が行っていた靖国神社への玉串料公費支出と県議会が総理大臣の靖国公式参拝を求める決議をしたことをめぐって住民訴訟が争われた。一審の盛岡地裁(昭和62年3月5日)判決は、社交儀礼であって政教分離に反しないとしたが、二審の仙台高裁(平成3年1月10日)判決は、特定の宗教団体への関心を呼び起こし、かつ靖国神社の宗教的活動を援助するもの」で政教分離に反するとした。

さらに愛媛県靖国神社玉串料訴訟では、愛媛県知事が靖国神社・県護国神社に玉串料を22回計16万6000円を公費支出していた事実を争った住民訴訟で、一審の松山地裁(平成元年3月17日)判決では「同神社の宗教活動を援助、助長、促進する効果を有するので、違憲」とした。二審の高松高裁(平成4年5月12日)判決は、金額も少なく社会的な儀礼の程度で、神道の深い宗教心に基づく行為ではないから合憲としたが、最高裁(平成9年4月2日)判決は、玉串料の奉納は県が特定宗教団体と意識的に特別な関係を持ったことになり、一般人に対して靖国神社は特別な宗教団体であるという印象を与えるので、目的効果基準に照らして違憲であるとした。

次は政治家の参拝が違反であるという意見と合憲であるという意見の例である。
日本の政治家による靖国神社への参拝は、この政教分離原則に反するという説

この政治家への徹底は不可能であるとの論に対し、
政治家は国の機関であり、同条3項の国の機関による宗教的活動に該当するという説

政治家が参拝すること自体が、間接的な靖国神社への特権となるという説
靖国神社とは東京招魂社であり、元々が国家的権威の元で主導されたものである。同時期に建立された明治神宮のように最初から別格の存在である。また、新年に首相以下の閣僚がこぞって参拝する伊勢神宮に対しては同様の批判の声は比較して少ないことから、靖国神社に対する政治的意図を持った批判であるとされる。


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