特にかつては、半減期数万年の核種を何万年、何十万年も保管せねばならない事が原子力発電のネックであった。これは古典物理学と化学反応では放射性崩壊には関与できず、放射性物質の半減期を短くしたり、分解する事が一切不可能であるためであり、もし触媒などを用いて放射性崩壊を加速させられるならば、より短期間に放射線のエネルギーが取り出せると期待され、核分裂反応が発見される前の原子力はこの方向で開発が進められたが、このような試みは全て頓挫した[4]。
しかし最近、長半減期物質を分離して、加速器駆動未臨界炉において中性子を照射することにより自然崩壊ではなく、核分裂させて短半減期核種に変換できる見通しが立てられた。これにより500年以下の保管で天然ウラン鉱石以下の放射線に低下させて廃棄/鉛やバリウムとして一般使用が可能になるとして開発がすすめられている。詳細は「原子核変換」を参照 放射性崩壊の速さ、すなわち放射性物質が単位時間あたりに崩壊する原子の個数(dN/dt)を放射能(英: radioactivity)と呼ぶ。 時間 t における崩壊定数 λ である放射性物質の原子の個数がN = N0exp(-λt) で表されることから、放射能を A(Bq) とするとA = |dN/dt。= λN0exp(-λt) と定義される[5]。 放射能の単位はベクレル(Bq)またはキュリー(Ci)である。詳細は「放射能」を参照 放射性物質は、核爆弾や原子力発電所の運転中の炉心におけるような多量のエネルギーを放出する連鎖反応を伴わない場合でも、放射性崩壊によって自身が勝手に核種などを変えてゆくため、その過程で放出される放射線のエネルギーが周囲の物質を加熱し、崩壊熱 (英: decay heat)となって現われる。時間当たりに放出される崩壊熱のエネルギーは不安定な物質であるほど大きく、その大きさは元の放射性物質がしだいに放射線を放って比較的安定である核種や安定核種へと変化するに従って減少する。例えば原子炉の炉心では発電のための核反応を停止しても、その1秒後で運転出力の約7%ほどの熱が新たに生じ、時間の0.2乗に比例して減少しながら1日後でも約0.6%の熱が放出される[6]。 ある放射性同位体が放射線を放出した後にできる核種を娘核種(むすめかくしゅ)という。しばしば娘核種もまた放射性物質であるので、安定した原子核になるまで何回も崩壊を起こして別の核種に変わっていく。この一連の崩壊の系列を崩壊系列という。 崩壊系列をなす放射性同位体であっても通常数回程度で放射能をもたない安定同位体になるのだが、とくにウランやプルトニウムなどの原子番号の大きな元素の場合は十数種類の放射性同位体を経由して安定同位体になる[7]。これらの崩壊系列は質量数を4で割った余りで4種類に分類されるウラン系列などの特殊な崩壊系列に属する。 ある放射性同位体(親核種)が崩壊してできた物質(娘核種)も放射性である場合を考えると、これら親核種と娘核種のそれぞれの半減期は一定であるため、ある時間が経過した後は、親核種の崩壊で生じる放射線と娘核種の崩壊で生じる放射線の比率がほとんど変化せずに推移する状態になる。この状態を放射平衡という。放射平衡になった場合、放射線量そのものは時間とともに減衰してゆく[8]。
放射能
崩壊熱
崩壊系列
放射平衡
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 放射性崩壊は、E. Rutherford and F. Soddy(1903)において初めて導入されたと言われる。
^ 質量数(原子核を構成する陽子の数と中性子の数の和)の比較的小さい(約80以下)放射性原子は、ほとんどすべてベータ崩壊によって安定した原子に近づこうとする。[1]
^ 例えば、質量数238のウランの半減期は44億6800万年であるのに対して、質量数239のウランの半減期は23.5分である。たった1つ中性子の数が異なるだけで、これほど大きな違いが生じるのである。
^ 質量数115のインジウムの半減期は441兆年、質量数149のサマリウムでは2,000兆年である。質量数209のビスマスは、2003年まではもっとも重い放射能を持たない核種として知られていたが、これは1.9×1019(1,900京)年に及ぶ半減期の放射性核種であると認められた。これらの極端に長い半減期を持つ核種は学術上、放射性物質に分類されるが、実質的には安定したものと考えて差し支えない。
^ 超ウラン元素の分野では、1秒に満たない半減期の核種が多数を占める。例えば質量数266のマイトネリウムの半減期は0.0034秒、質量数267のダームスタチウムの半減期は0.0000031秒である。簡単に言うならば、あまりにも原子核が大きくなりすぎて、その結合を保っていられる期間がこの程度の長さしかないということである。
^ ウランやプルトニウムなどは最終的に放射能のない鉛に到達するまでには約20回もの崩壊を経由せねばならず、全量が鉛となるまでの総時間は、現実的な思考の及ぶ範囲を超える長さである。
出典^ マルコム-ローズ(1981) p.2
^ マルコム-ローズ(1981) p.6
^ Gamow(1928)及び R. W. Gurney, E. U. Condon (1929), Quantum Mechanics and Radioactive Disintegration
^ K・ホフマン著, 山崎正勝, 小長谷大介, 栗原岳史『オットー・ハーン : 科学者の義務と責任とは
^ 原子核工学(1955) p.23
^ 社団法人電気学会編、『発電・変電 改訂版』、オーム社、2000年6月30日第2版第1刷、ISBN 4886862233、206頁。
^ J.E.BRADY・G.E.HUMSTON著 『ブラディ一般化学 下』若山信行・一国雅巳・大島泰郎訳、東京化学同人、1992年、863から864頁。ISBN 4-8079-0348-9。
^ 安斎育郎『放射線と放射能
参考文献
日本アイソトープ協会『放射線・アイソトープ : 講義と実習』丸善、1992年。ISBN 4621037455。 NCID BN08081205。https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002208935-00。
Raymond L.Murray著 ; 杉本朝雄訳『原子核工学』丸善、1955年。doi:10.11501/1374749。 NCID BN04220412。NDLJP:1374749。https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I000731955-00。
D.J.マルコム=ローズ, 瀧幸『化学・生化学のための放射化学入門』学会出版センター、1981年。 NCID BN00468380。https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001524442-00。
近角聡信, 三浦登『理解しやすい物理 : 物理基礎収録版』文英堂〈シグマベスト〉、2013年。ISBN 9784578242185。 NCID BB14747275。