揶揄
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このように、卑罵表現は人間を互いに敵対させる機能がある一方で、連帯や愛を生む面もあるとされる[3]

また、ロシアでの罵倒語研究では、V・ジェルビスが『罵倒の戦場 社会問題としての悪態』(2001年) において、儀礼、抑圧、悪態の三項から説明し、抑圧された気持ちが表現されたものとした[9]。またモキエンコは「悪態をつく人は昔ながらの伝統的な方法で自分のロシア的な心を吐いて、人生、人々、そして政府に対する不満を表している」とのべた[9]
冗談関係における卑罵表現

世界各地でみられる冗談をいいあう冗談関係においては、卑罵表現が使われ、どのような悪態でからかわれても、それに腹をたてないものとされる[11][12]

北部カメルーンフルベ族とカヌリ族は冗談関係にあるが、通常の冗談だけでなく、悪態、罵倒などもふくみ、「こいつはわたしの奴隷」「無用者」「犬の子」「ハイエナの化け物」「偽善者」「目も見えないくせに」といった言葉も使われ、さらには殴ったり、たたいたり、盗み、服を破ることなどの儀礼的な暴力もおこなわれる[11]

また、ポライトネス理論によれば、同じ言語行動でも、相手との関係によって言語行動の心地よさは変化していくので、攻撃的な冗談であっても許容される[12]。普通の友人であれば侮辱と取られる行動も、親友であれば互いに楽しみうる冗談とみなされる[12]

葉山大地、櫻井茂男によれば、「冗談関係の認知」という関係スキーマ(相互の関係についての知識の枠組み)によって、こうした冗談関係は変化していく[12]
差別と侮蔑「差別」、「放送問題用語」、「差別用語」、および「ヘイトスピーチ」を参照

侮蔑は差別いじめ家庭内暴力においても行われる。

社会的立場が弱い人に対する差別に使われる蔑称や侮蔑語は差別用語放送問題用語放送禁止用語とされ、公の場所での使用が禁止されたり、排除の対象になることがある。しかし、差別語の排除が過剰である場合、言葉狩りとして批判されることもある。社会的立場が平均的ないし強い人に対して使われる蔑称は揶揄として取り扱われる場合が多い。近年は差別的な侮蔑発言をヘイトスピーチ(憎悪表現)として制限する動きがある。
コミュニケーションの暴力「ドメスティックバイオレンス」および「家庭内暴力」を参照

社会学者の中村正は、家族などの親密な関係における暴力には「心理的、言語的、感情的な暴力」やネグレクト行為などがあり、これらは「個人の尊厳を傷つけるようにした卑下、降格、侮蔑、罵倒、無視、つまりコミュニケーションの暴力としてある。人の尊厳を傷つけるような儀式のようにして機能するいじめ、罵り、辱め行為がある」と指摘し、侮蔑、罵倒、卑下といった行為を「コミュニケーションの暴力」として論じた[13]
動物行動学、人間行動学から見た侮蔑「嫌悪」および「憎悪」を参照

ダーウィンは『人及び動物の表情について』において軽蔑・侮蔑は嫌悪の感情、味覚嗅覚との連合があるとしている[14]

また、動物行動学人間行動学者のデズモンド・モリスによれば、言語行動は不適切な状況、時と場所で行われると侮蔑表現になりうると指摘している[15]
侮蔑表現の言語的特徴
セマンティック・チェンジ

侮蔑語、侮辱語と捉えるか否かは所属する社会集団によって変化する。例えばハッカーはマスメディアなどで報じられることにより一般社会ではコンピュータを破壊する者、コンピュータ社会の秩序の乱す者を指す言葉として用いられるため侮辱語といえるが、元のハッカー・コミュニティー内部ではコンピュータのエキスパートという捉え方をするため決して侮辱語ではない(コンピュータ社会の秩序紊乱者を表す侮蔑語としてクラッカーと使い分けをしている)。また逆に、ある社会集団では侮蔑語であったものが、別の社会集団に取り入れられる、もしくは社会集団を超えて広く一般社会全体で使用されるようになると侮蔑語ではなくなる場合もある(例: 元は「チンピラ」を意味する「パンク」)[16]。この現象は言語学における意味変化(意味変質、セマンティック・チェンジ)の一つである。
同音異義語

日本語では、漢字を輸入した際に同音異義語が多く生じたが、文字表記においてこの特性を生かし、ダブルミーニングによる同音異義語・語呂合わせが蔑称としてよく用いられている。古くは奈良時代平安時代和歌落首で、掛詞という修辞技法を侮辱に応用したものがある。江戸時代のものは多く記録に残っており、最も代表的なものは鳥居耀蔵甲斐守の耀甲斐と妖怪をかけたものがある。現代では新聞一コマ漫画などの風刺インターネットスラングで多く用いられる。
風刺的綴り違い「en:Satiric misspelling」を参照

英語ではスペル入れ替えや、同じ発音でも単語の境目を変える、などの方法で同音異義語の侮辱や風刺を行うことがあり、風刺的スペル違い(風刺的綴り違い、英語Satiric misspelling)という。

長い単語の中の一部分を切り出すと別の単語になる場合 (Hidden puns)。無能な大統領に対しpResident(Resident=ただの住人)と揶揄したり、愛国者法はpatRiot Act(Riot Act=暴力法)にすぎないと批判したり、セラピストをthe/rapistと表記し(セラピストは強姦犯)と皮肉る、というように使われる。

アルファベットの一部を見た目が似た記号に置き換えることがある。最も典型的なものは、対象がに汚いという意味を込めて、S→$、E→?、L→£、Y→\など通貨記号で置き換えるもので、マイクロソフト社 (Microsoft,MS) をMicro$oftないしM$と表記する例は世界中で用いられる。日本国内で見られるものとしては日本音楽著作権協会 (JASRAC) をJA$RA¢などと表記する例がある。

黒人差別などの人種差別への批判として、CやKをKKKに置き換える場合がある。具体的には、アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国に対するSouth Afrikkkaという表記例などがある。現在のアメリカ合衆国についても、Amerikkkaとの表記が使われる。

接辞の付加

日本語での侮蔑呼称には、罵倒を示す接辞をつけて表現するものがある[17]。罵倒を示す接辞には、「くそ…」「…すけ」「くされ…」などがある[17]。前置される「糞」「腐れ」などは、排泄や腐敗を意味し、ネガティブな意味を付加する。

侮辱語の前に接頭語として「ど」または「どん」をつける事によって侮辱の意味を強めることがある。ど下手、ど田舎、どん百姓など。ほか、「二級」「下等」「三流」「平」などの接頭辞を付けて、程度や価値が低いことを表現したり(二級国家、下等人種、三流商社、平社員など)、「万年」を付けて、いつまでも地位や技能が向上しないことを表現することもある(万年係長、万年補欠、万年バイエル[注 1]、万年ヒラなど)。技術が劣ることを意味する下手を下手糞、下手っぴと接尾辞を加えることもある。

ロシア語圏では、男性性器(フイ)、女性性器(ピズダ)、性交(イェバチ)を表す単語に接頭辞接尾辞をつけたマットという罵倒語が作られ、悪態、侮蔑が行われる[9]。たとえば、性交(イェバチ)に接頭辞ポドを付加した「ポドイェバチ」は「からかう」という意味になる[9]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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