1940年代後半よりヘリコプターが発達すると揚陸艦における航空運用機能の存在感が増して、APAにヘリ空母としての機能を統合することが構想されるようになり、まずは既存の航空母艦を改装するかたちでヘリコプター揚陸艦(LPH)が登場し、間もなく専用設計艦の新規建造に移行した[10]。またこれと並行して、航空運用機能を妥協するかわりに舟艇運用機能を強化したドック型輸送揚陸艦(LPD)も登場したが[11]、これは実質的にLSDにAPA・AKAの機能を統合したものであった[12]。
その後、航空運用機能と舟艇運用機能を兼ね備え、LPH・AKA・LSDの機能を代替できるものとして、強襲揚陸艦(LHA)が登場した[13]。またLHAのウェルドックの設計を修正してエア・クッション型揚陸艇(LCAC)の運用に適合化した艦には、LHAとの差異を強調するため、LHDという新しい船体分類記号が付与された[14]。
揚陸艦の特殊装置
擱座着岸機能ノルマンディー上陸作戦にて、バウドアを開いてランプを繰り出し、車両を揚陸するLST
特に重量貨物や車両の揚陸という点では、艦を直接着岸させることがもっとも効率的である[15][16]。しかし岸壁以外の海岸への着岸は、座礁事故に見られるような危険を孕んでおり、設計面で特別の配慮が必要となる[15][16]。
最も重要なのが艦首の設計であり、港湾施設を持たない海岸に擱座着岸(ビーチング)して揚陸を行う必要から、喫水線上に大型の開口部が設けられ、跳ね橋構造の道板(バウランプ)が設置されるのが通例である[16]。このバウランプは艦首部の止水壁を兼ねるが、航洋性確保のため、その外側にバウドアも設置されることが多い[16]。また艦全体の設計についても、安全にビーチングする必要から喫水は浅くなり、船体幅は広くなるほか、後トリムとしても推進器や舵の寸法が制限を受け、艦首形状や船型とあわせて、高速力の発揮を困難としている[16]。このような艦尾形状のため、後進時の保針性は無きに等しく、ビーチング時の船位保持や離岸作業のため、後部にも揚錨機と錨を有するのが通例である[16]。このため、艦首部の主錨は1個とされるのが通例である[16]。
ビーチングの際には、海水バラストによるトリム調整が不可欠であり、大戦世代のLSTでもバラストタンクは1,000トン以上の容量を確保し、強力なバラストポンプを装備している[16]。着岸時には艦首喫水を浅くする一方、着岸後は艦首を固定するためにバラストによって艦首を抑える[16]。また離岸時は艦を軽くする必要があるほか、運航中にも、搭載物件の有無や量次第では、バラストによって復原性を確保する必要もある[16]。
舟艇運用機能「イオー・ジマ」のウェルドック。
舟艇はもっとも古典的な上陸手段である[1]。輸送艦・揚陸艦においては、通常の装載艇と同様にダビット(英語版)に搭載するほか、他の貨物と同様に上甲板に搭載して、デリックやクレーンといった揚貨装置によって揚降することも行われてきた[7]。
日本の陸軍特殊船では、上甲板の搭載分に加えて、中甲板にも船の全長にわたる大発動艇の格納庫が設けられた[4]。甲板にはレールが敷設されて、大発は兵員や装備・物資を搭載したままでこの上を移動、船尾に引き出して、吃水線部に設けられた大きなカバーを開いて進水(泛水)させることができた[4]。アメリカ海軍も小型のAP(後のドイエン級(英語版))の艦尾に斜路(スリップウェイ)を設けて舟艇を迅速に揚降することを計画したものの、竣工後に艦の予備浮力の不足が判明し、この斜路は使用されず封鎖された[17]。また機雷敷設艦をAPとして改装する際にも斜路が設けられたが、こちらは舟艇というより水陸両用車のためのものと位置付けられた[18][注 2]。
一方、イギリスが発明したLSDは、浮ドックに航洋性の自航装置を取り付けるという発想であった[19]。艦内に舟艇を搭載するという点では陸軍特殊船と同様だが、単なる格納庫ではなくウェルドックとしており、舟艇に人員・装備を搭載した状態で漲水することにより、極めて効率的で迅速な出撃が可能となる[16][19]。ただし舟艇の発進のためドック内の水深は最低2メートル程度は必要で、船体を沈める必要から、擱座着岸機能で使うものよりも更に大容量のバラストタンクやポンプが必要となり[16]、バラスト水は旧式のLPDでも6,000トン、大型のLHA・LHDでは12,000トンに達する[12]。一方、運用する舟艇をLCACに限る場合はドックの底面を海面と同じ高さにするだけでよく、漲水の必要がないためにバラストタンクやポンプの能力が低くてよいほか、ドック内の自由水が艦の安定性に悪影響を及ぼすこともないという利点がある[16]。
航空運用機能「イオー・ジマ」艦上のUH-34Dヘリコプターに搭乗する海兵隊員。
水陸両用作戦は陸空海の統合作戦として行うことが望ましく、日本の陸軍特殊船では飛行甲板の装着が求められたほか[20]、アメリカ海兵隊も兵員輸送艦(AP)への飛行甲板の装着を要望し[21]、海軍はLSTの一部に飛行甲板を設置して連絡機・観測機の運用を試みた[22]。