捕鯨問題
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濃度が比較的高い182人はメチル水銀中毒と思われるような健康への影響は認められなかった[注釈 12] が、非常に心配な状況と見る向きもある[81]。太地町は水銀の影響を受けやすい子供の調査を実施すると発表した[82]

食の安全の観点から、鯨肉が有害物質によって汚染されており、捕獲自体も止めるべきで、沿岸域の鯨肉、特に栄養段階が高次であるハクジラ類の鯨肉については安全性に問題があると言う主張がある[要出典]。人間・自然由来の海洋の化学物質が生態系ピラミッドの上位者であるクジラ類・イルカ類の体内に濃縮されること、特に、年齢を重ねるごとに脂溶性の物質が脂肪細胞に蓄積される。その主たるものは水銀および有機塩素系化合物(PCB等)である。生態系ピラミッドの上位である他のマグロやカジキなどの大型魚類についても同様の指摘があるが、哺乳類のクジラ類の寿命は長く、前述の通り年齢を重ねるごとに蓄積される汚染物質が多くなる為、その値はクジラ類ほど高くはない。と言う主張がある[要出典]。
文化としての捕鯨

日本捕鯨協会によると、日本においてはクジラはただ単に食料としてではなく骨や皮まで全て廃棄することなく利用されていた[30]。しかし、これに異論を唱える学者もおり、日本列島における古式捕鯨の主目的は鯨油であり、保存技術も存在せず販売価格も鯨油よりも大きく劣る鯨肉の優先度は低く、とくに美味とみなされた部位をのぞいて廃棄される事も多かったともされており、内臓や鯨骨は利用されること自体がほとんどなかった[3][4]

また、捕鯨と他の漁業における社会的な扱いの格差が顕著であったり、「えびす信仰」などの影響でクジラを神聖視したり捕鯨自体をタブーとする風潮が多くの漁村に存在したため[83]、組織的な古式捕鯨は東日本では限定された地域でしか行われなかった[84][85]。捕鯨に反感を持つ漁業関係者も少なくなく、大量の血や油で他の海産物やそれらの生息地(磯)が悪影響を被ったり悪臭を発生させたり一帯の景観を損なうなどの点から、捕鯨を禁止する地域も存在したり捕鯨に反対する請願が行われる事例もあった[86]。また、他の漁業技術の発達に伴って捕鯨の優先度も相対的に低下が見られ、捕獲数の減少に伴って捕鯨の他地域への拡大を目論む者との間で軋轢が生じて暴動が発生するなどの事例も「東洋捕鯨鮫事業所焼討事件」をふくめ散見されたとされる[3][4][86][87]。漁業者以外にも、三浦浄心仏教関係者など当時から捕鯨に反対しクジラへの影響を憂慮する者も存在した[88]

一方で、日本において捕鯨をナショナリズムの振興や国威掲揚、外国への批判と日本人の「被害者意識」を誘発させる材料として利用してきた側面は江戸時代から見られ、生物学的な実態の伴わない古式捕鯨の持続性の主張や「外国人が日本近海の鯨を捕るよりも先に日本人が捕りつくすべきである」という論調の台頭などが見られたとされる[1]。実際に、上記の三浦浄心が記録した「関東諸浦」における欧米捕鯨が介入する以前の操業(文禄期)では、当初は年平均100-200頭の捕獲だったのが20年ほどで年に4-5頭にまで減少したとされており[88][2]、古式捕鯨の持続性の是非に関しての再考が必要であるという指摘も存在する[1]

ナンシー・シューメイカーは、かつて鯨肉食を普及させようと試みたが失敗した米国政府は捕鯨規制には鯨肉を食す国の視点を取り入れずに規制しようとしたため、商業か生業か、文明か野蛮かという二分法の枠組みで扱われた。石油開発によって鯨油は産業資源でなくなったため、アメリカはクジラの捕獲を禁止してもアメリカ人は失うものは何もなく、すなわち鯨肉はアメリカの文化的な好みに合致する味にはならなかったため、国際合意に負の影響を与えていると指摘している[31]。このような食文化その他の文化面における対立には、中国の一部、韓国やベトナムにおける犬食文化[89]がある。

一方で、山本太郎は、食肉としての鯨肉の需要の低さ、東日本大震災の復興予算などの財源を投入しているのにもかかわらず商業としての持続性の破綻の可能性、捕鯨自体は文化庁による文化財として保護の対象になっていないこと、鯨肉を食料として重要視する様になったのは戦後の食糧難が大きな一因であること、南極海での捕鯨を放棄する代わりに日本列島の沿岸での捕鯨を許可するという国際捕鯨委員会における提案を日本が3回も拒否していること、ザトウクジラナガスクジラの捕獲を宣言したことでシーシェパードを中心とした反捕鯨運動を拡大させたことなど、日本政府のこれまでの対応の不手際や事業として継続することの正当性や南極海での捕鯨を「文化」と呼ぶことへの疑問を呈しており、「文化ではなくて水産庁利権」で捕鯨問題が拡大したとしている[90]

政府開発援助(ODA)を利用した、日本による国際捕鯨委員会での「票買い」への疑問もみられ、1994年から2006年の間に564億円以上のODAが「票買い」に使われたとされている[91][92]ドミニカ国の農業・計画・環境大臣やカリブ自然保護協会の会長を務め、ゴールドマン環境賞の受賞歴も持つアサートン・マーチン(英語版)[93]は、日本による捕鯨へのODAの政治利用を「ODA植民地主義」と形容し、同国の伝統と漁業と観光業への悪影響を主張し、上記の通り、南大西洋の鯨類保護区の設立への反対を強要されたこともあり、これらへの抗議のために大臣職を辞任している[18][94]

南氷洋における「捕鯨オリンピック」の時代においても、本来の目的は鯨油の確保であり、沿岸捕鯨との軋轢を解消するために南氷洋産の鯨肉の輸入を禁止していたこともある。南氷洋産の鯨肉が注目され始めたのは、第二次世界大戦の勃発によって外国への鯨油の輸出が難しくなり、食糧難も相まったことが原因だとされており、それまでは南氷洋産の鯨肉は廃棄される場合が目立った[4]。とくに日本ソビエト連邦は乱獲や絶滅危惧種密猟などの規定違反が著しく、日本による沿岸捕鯨[95]と南氷洋での捕鯨での密猟が横行し、絶滅危惧種の保護への反対やモニタリング義務の無視など互いの大規模違法捕鯨への助力も行っており[96]、他の捕鯨国からも非難される場合もあり、日本による外国船を使った密猟も横行してシーシェパードなどに妨害・破壊された事例も存在する[97][98][99]

また、捕鯨国ではホエールウォッチングとの間に軋轢が生じる可能性も存在する[100][52]アイスランドにおけるナガスクジラ絶滅危惧種)の捕鯨は国内での消費よりも食用やペットフードなどの目的としての日本への輸出の割合が大きく[101]、一方でアイスランドの国内では鯨肉自体の需要の減少や捕鯨業者の減少、アニマルライツの観点やホエールウォッチングの需要の増加などから、2023年には捕鯨の撤廃の討議も行われるなどの動きが見られている[102]

2015年の『ビハインド・ザ・コーヴ ?捕鯨問題の謎に迫る?』や、業界関係者のほかに『シン・ゴジラ』などの作品で知られる樋口真嗣も出演した2023年の『鯨のレストラン』[103][104]を監督した八木景子は、日本の捕鯨を支持する立場である一方で国内の捕鯨業界の不手際と腐敗も指摘しており、将来性を見据えない国際捕鯨委員会からの脱退、多額の税金の投入、商業としての方向性や実現性ではなくて国家予算や利権を得ることへの方向性の編重、業界内の排他性や男尊女卑の傾向、ノルウェーとの価格競争への国内外の業者の結託による国内の業者への悪影響、「シーシェパード犠牲者ビジネス」などの点を挙げており、コストパフォーマンスを度外視した税金が使用されている現状があるとしている[105]


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