南極海洋生物資源保存条約 ⇒[5]第6条において、同条約のいかなる規定も、国際捕鯨取締条約に基づき有する権利を害し及びこれらの条約に基づき負う義務を免れさせるものではない旨を規定している。 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約) ⇒[6]では、付属書Tにシロナガスクジラ、ザトウクジラ、ミンククジラなどの鯨類を掲載し、これらについては商業目的での貿易並びに海からの持込を禁じている。「海からの持込」規定は、ワシントン条約の適用範囲を、公海での漁獲・捕獲活動に広げる意義を有している。条約案が検討された当初の構想ではクジラ類に対するIWCでの規制が不十分であるとの自国の環境保護団体からの強い突き上げを受け、米国政府が「海からの持込」規定を条約草案に挿入、1973年に開催されたワシントン条約採択会議で強く同条項の盛り込みを求め、この結果挿入された経緯がある[37]。 日本は鯨類に関してミンククジラ、イワシクジラ(北太平洋のものを除く)、ニタリクジラ、ナガスクジラ、イラワジイルカ、マッコウクジラ、アカボウクジラにつき留保を付し、上記鯨種については同条約の適用を免れた[38]。但し留保を付していないザトウクジラと北太平洋に生息するイワシクジラについては、公海上での標本捕獲・持込について、当該持込がされる国の科学当局(日本では水産庁)が、標本[注釈 8]の持込が当該標本に係る種の存続を脅かすこととならないこと、標本が主として商業目的のために使用されるものではないと認める必要がある[注釈 9]。なお、経済的な利益獲得のための活動のみならず、非商業的側面が際立っていると明らかにはいえない利用方法についても「商業目的」と解釈するものとされている[39]。以上から鑑み、日本によるザトウクジラと太平洋イワシクジラ捕獲はワシントン条約の諸規定を侵害する違法行為にあたるとの見解が元ワシントン条約事務局長で国際法学者のピーター・サンド教授により提起されている[40][41][42]。これに対して日本鯨類研究所は、商業目的であるか否かについての判断は締約国に委ねられていると主張している[43]。なおワシントン条約違反行為等に関しては、締約国会議の下に常設委員会が設けられており、同委員会は締約国会合において採択された諸決議に即し、条約違反国に対する貿易制裁を締約国へ勧告する権限を有している[44]。 また、日本では突きん棒などを使用する他の漁業による違法捕鯨(密猟)や定置網などへの「混獲」という状況を利用した意図的な捕獲(疑似的な捕鯨)が行われて絶滅危惧種が狙われる可能性も指摘されており[45]。実際に、セミクジラ[46]・コククジラ[47][48][49]・シロナガスクジラ[50]などの所持販売も禁止されている種類[51]が密猟された可能性のある事例や、肉が市場から発見されたこともある。そして、日本では絶滅危惧種の管轄も環境庁ではなく農林水産省が担っており、鯨類の保護そのものが海外の思想の受け売りとみなされるなど他の自然保護の内容と比べて軽視されてきた[52]。 国家間の領域を跨いだ移動や回遊や渡りを行う生物の保護を目的とする移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約)では、ミンククジラをはじめとする日本が捕獲対象として見ている種類もすべて保護の対象に指定されている[53]。しかし、2024年現在も日本は未加盟である。 捕鯨を巡る争点を以下、概説する。 一般的に捕鯨と反捕鯨の対立とされる場合も多いが、中立的な立場や、捕鯨自体には賛成するもののその方向性において様々な立場があり、捕鯨と反捕鯨の対立という短絡的な解釈には問題があり[54]、現実の構図はこの一般的理解よりもはるかに複雑であり、問題を単純化、一般化するのは必ずしも容易ではない。 1999年の漁業白書によれば、鯨類の餌消費量は2.8 - 5億トンと日本鯨類研究所が推定した[55][56]。大隅清治は1999年の著書で、増えすぎたミンククジラなどの鯨を間引くことは正に一石二鳥の効果をもたらす、としている[57]。 元沿岸小型捕鯨担当の水産庁調査員の関口雄祐 調査捕鯨を前提にした農林水産省の2011年の「鯨類捕獲調査に関する検討委員会」第3回と第4回において、この件に触れられており。横浜国立大学教授松田裕之は「数学論モデル的に立証された『ピーター・ヨッジスの間接効果理論』は捕食者と被捕食者以外の第三者に対する影響の間接効果の理論であり、これが鯨類(というより特定の水棲捕食生物)による捕食が餌生物の減少をもたらすとは限らない」と指摘[60]し、WWFジャパン自然保護室長岡安直比は「生態系の変動は一種類の動物だけを見るのではなく、全体的なバランスの上で考えなければいけない。全体的に生態系が絶滅に追いやられるほど大きく崩れた事例はあまり観察されてはおらず、国際社会の中では科学的ではないとみられている。」と指摘[61]した。それに対して、野村一郎は「鯨害獣論は科学的に検証が難しく、それよりも鯨の資源が多いから捕っていいのだと言う議論の方が受け入れやすい」[62]とし、東海大学海洋学部専任講師大久保彩子は「鯨害獣説は2002年ぐらいにPRが盛んに行われていたが、科学的妥当性に批判があり、 また、2009年のIWC会合で日本の政府代表団が日本の科学者が漁業資源の減少の要因がクジラであると結論づけた事がないとの発言を指摘し、仮説に過ぎないものを大々的にアピールするのは日本の科学の信頼性を損ねる」[63]とし、高成田亨は「生物学の権威が疑問を呈している点は真剣に考えるべき所である」[64]としている。 バーモント大学のジョー・ローマン また、大型鯨類の糞に含まれる大量の窒素やリンや鉄は植物プランクトンの発生を促し、海洋生態系全体への恩恵があるだけでなく、二酸化炭素の抑制にも効果があるとされている。さらに、大型鯨類の死骸による炭素の吸収も指摘されている[67]。
ワシントン条約
ボン条約
争点
鯨害獣論
2009年6月にマデイラ諸島で開催された国際捕鯨委員会の年次会合において、森下丈二(水産庁参事官)は、日本政府代表代理としての立場から、鯨類の増加による漁業資源への被害を実質的に撤回したが、その後も国内世論を是正するという動きは見られなかった[68]。