捕鯨問題
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また、河島基弘はクジラに見られる6つの特殊性[注釈 13]が反捕鯨思想に影響を与えていると考察したうえで、鯨を神格化し特別視することは種の違いに基づく種差別であるとしている[122]

一方で、クジラを神聖視して捕鯨をタブー視する風潮は日本列島の多くの漁村にも見られた現象であり[83][86]、類似したクジラへの信仰と捕鯨の忌諱は朝鮮半島中国大陸や現在のベトナムなど東アジアの広範囲に普遍的に存在していた[123][124][125]
利用法

縄文時代には骨が土器の製造台として使われ、飛鳥時代に仏教が伝来して一般的に肉食が禁止されると、当時は魚と見なされていたクジラから貴重な動物性タンパク質が摂取された。江戸時代初期まではクジラは貴重な食材として扱われ、饗応品や献上品に利用された。江戸時代初期以降に組織的捕鯨が始まると供給量が一気に増大し、赤肉や皮類は塩漬けされて日本全国に供給され、江戸時代中期に庶民の一般的な食料となり、時節ハレの日に縁起物として広く食されるようになり、多種多様な鯨料理と鯨食文化が生まれた。一例として、毎年12月13日に塩蔵した鯨の皮の入った鯨汁を食べる「煤払い(すすはらい)」や、70種類の鯨料理を紹介した書物「鯨肉調味方」があげられる[126]。食文化以外では「花おさ」に代表される縁起物としての工芸品でもある鯨細工は、クジラの歯・骨・鯨ひげを材料とし、鯨ひげは人形浄瑠璃の板バネやカラクリ人形ゼンマイにも使われてきた[127][128][129]

ノルウェーアイスランドなどにも鯨食文化が残っている。また、鯨肉は美味であるだけでなく、高タンパク、低脂肪、低カロリー、でコレステロール含有量も少なく、脂肪酸には血栓を予防するエイコサペンタエン酸(EPA)や頭の働きをよくするドコサヘキサエン酸(DHA)、抗疲労効果のあるバレニン成分が豊富に含まれ、生活習慣病アトピー等のアレルギー症状を軽減する[30]
伝統捕鯨、原住民生存捕鯨

先史時代縄文時代前期より日本では捕鯨が行われてきた[30]。江戸時代の鎖国政策によって遠洋航海が可能な船の建造が禁止されていたため、遠隔捕鯨化に伴う産業的な拡大は限定的で、これは明治以降の沿岸捕鯨の近代化・沖合捕鯨の開始・南極海商業捕鯨(輸出向けの鯨油の確保による外資稼ぎが主目的で、冷凍船の導入などで持ち帰りが可能に)にもある程度引き継がれた。

2002年のIWC下関会議では、原住民生存捕鯨枠には反捕鯨国が含まれる一方で、日本に対しては捕獲枠がいっさい認められず、調査捕鯨も引き続き反捕鯨国から非難され、また先住民には絶滅危惧種であるホッキョククジラなどの捕獲を認める一方で、日本に対しては絶滅の危機に直面しているわけではないクロミンククジラの捕獲も許さないという対応がとられた。日本は「反捕鯨国による二重基準である」と反発し、生存捕鯨の採択を否決に持ち込んだ。このため、生存捕鯨枠の運用は一時停止を余儀なくされた。ユージン・ラポワントは欧米人が植民地主義の贖罪意識から絶滅危惧種のホッキョククジラ捕獲を自国の先住民に認め、他方で日本やノルウェーの捕鯨を認めない理由について、かつて両国は自分たちの意のままにならなかったためであると指摘している[31]

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}日本が求める沿岸捕鯨は、日本の伝統捕鯨とは捕獲方法も対象鯨種も異なり、「原住民生存捕鯨」と同じカテゴリで認められる可能性はない[独自研究?]。

NGOグリーンピースは2007年に日本が提出した議案「沿岸小型捕鯨の捕獲枠」は「原住民生存捕鯨」と同列に扱い、また「調査捕鯨」の拡大解釈とともに二重基準であると批判している[130]。またグリーンピースは「原住民生存捕鯨」及び鯨肉食自体にも反対せず。逆に日本政府がアイヌ民族寄り鯨利用も禁じるなど先住権を認めず、近代捕鯨を「原住民生存捕鯨」に見せかけ偽装することは先住民族を傷つけるものであると非難している[130]

また、現行されている生存捕鯨においても捕獲が許可されていない種類の捕獲などのルール違反が発生することが判明しており、中には「生存捕鯨」としての条件を満たしていないにもかかわらずに行われているとして複数の国々から中止を求められている事例も存在する[131][132]
国際捕鯨取締条約の解釈

国際捕鯨委員会(IWC)の目的の一つが捕鯨産業の秩序ある発展であることは、IWC設立の根拠となる国際捕鯨取締条約にも明確に記載されている[30][133]。国際捕鯨取締条約8条ではIWCメンバー国は自国が適当と考える条件で科学調査を目的として鯨を捕獲できるとしており、商業捕鯨モラトリアムや南大洋鯨類サンクチュアリー(保護区)に拘束されずに、捕獲調査を行うことができると条約で認められている[30]。むしろ、モラトリアムはもう必要がなく、南大洋の永久保護区(サンクチュアリー)は資源量と無関係に設定されているため、条約に反している[30]

1994年、日本をのぞいてIWC全会一致で南極海は永久保護区(サンクチュアリー)に指定された[134]
調査捕鯨

調査捕鯨の仕事は大別すると、鯨体を捕獲する捕獲調査と個体数を数える目視調査がある。鯨の推定頭数の算出や生態調査も目的としている[135]。平行してバイオプシー調査も行っており、こちらでは確保不能なシロナガスクジラなどの種のサンプルも集めている[136]

調査捕鯨が開始された理由は、1982年のモラトリアム導入に際し反捕鯨国側は「現在使われている科学的データには不確実性がある」ことを根拠にして安全な資源管理ができないと主張したためであった[30]

日本捕鯨協会によれば日本の南極海鯨類捕獲調査捕鯨ではクロミンククジラザトウクジラなど各種クジラが増加していること、鯨種や成長段階による棲み分けの状態、回遊範囲が非常に広範囲であること、1980年代後半から現在までクロミンククジラの資源量推定値に大きな増減はみられず、個体数は安定していることも明らかになり[137]、多様な調査結果が得られている[30]

北西太平洋鯨類捕獲調査においては、日本周辺のクジラは豊富であること[注釈 14]。DNA分析で太平洋側と日本海側の鯨は別の系群にあること、などがわかった[30]IUCNレッドリストで「絶滅危機」に分類されているイワシクジラ調査捕鯨[138]では、北西太平洋イワシクジラの生息数を2004年6月までは28,000頭[139]、2004年9月からは67,600頭[140]、2009年5月からは28,500頭と考えており[141]、年間100頭程度の捕獲はイワシクジラの安定的な生息には影響を与えないとしている。

調査捕鯨に関して日本は1987年から2006年までの間に、査読制度のある学術誌に91編の論文を発表し、IWCの科学小委員会に182編の科学論文を提出するなどしており、2006年12月のIWC科学小委員会では、日本の研究について「海洋生態系における鯨類の役割のいくつかの側面を解明することを可能にし、その関連で科学小委員会の作業や南極の海洋生物資源の保存に関する条約(CCAMLR)など他の関連する機関の作業に重要な貢献をなす可能性を有する」と結論づけ、1997年のIWC科学小委員会においても、日本の調査が「南半球産ミンククジラの管理を改善する可能性がある」と評価されている[142]


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