捕手
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プロの投手の高速のボールや変化球をミスなく捕球するためには各種の捕球技術が必要とされている[16]。投手の投じる速球変化球、時にはワンバウンドするものや暴投を正確に捕球できず、後逸[注 5] することが多いと投手や監督から信頼されにくく[17]、走者がいる場合には、捕逸してしまうと相手に進塁や得点の機会を容易に与えてしまうからである。ワンバウンドなどの難しい球を捕球できない時にも、捕手は自分の体にボールを当ててでもボールを止め、後方へそらさないことが求められる[18]

このため特に捕球が難しいナックルボール投手が在籍するチームではこれを捕球する能力に長けた専属捕手が存在する場合もある。例えばボストン・レッドソックスではティム・ウェイクフィールドの先発登板する試合では、打撃に優れる正捕手のジェイソン・バリテックではなく、捕球に優れる控え捕手(ダグ・ミラベリケビン・キャッシュジョージ・コッタラス)が必ず先発出場していた。

捕球時には打者のスイングを妨害してはならず、ミットがバットに触れた場合は打撃妨害と判定され、打者の一塁への安全進塁権が与えられる。

ミットやグラブを手から外してボールに触れさせてはならないのと同様、キャッチャーマスクを頭から外してボールに故意に触れさせると捕手にボークが宣告され、安全進塁権が与えられる (公認野球規則5.06(b)(3)(E))が、2021年カート・カサリにこの反則が適用された[19]

また、投球をミットで捕球した時の音(捕球音)を大きく響かせた方が投手は気分が良くなり、また捕球音が大きく響くと打者へ与える心理効果もあるため、できるだけ大きな「いい音」を立てて捕球することも、捕手に必要な捕球技術の一つとされている[20]

捕手の捕球に必要とされている身体的条件は、俊敏性と下半身の柔らかさなどである[21]。低い投球を後逸しないように低く構えるためには下半身の柔らかさが必要であり[22]、投手の投球がそれても捕手が構えた姿勢から左右や上下に動いて捕球したり、打者がファウルチップした打球を後方へ逸らさず直接捕球するには、俊敏なフットワークが必要である。プロ野球の捕手に求められる「下半身の柔らかさ」とは、身体的には、筋力、筋肉の伸縮性、および、腰・膝・足首の関節の柔軟性(関節の可動範囲の広さ)を指している。梨田昌孝は「うまいキャッチングは投手の力を引き出し、球審も味方につけられる」と自著に記している[23]。捕手に最も必要とされる能力はこれらの捕球の能力・技術とされており、その他の能力(リード、肩、打撃など)が良くても、捕球に難がある捕手は、正捕手としては起用されないことが多い[24]
フレーミング

フレーミング(Catcher Framing)とは、ストライクゾーンギリギリの投球、いわゆる「際どいボール」を捕球動作や捕球体勢などを工夫することによって審判に「ストライク」と判定させる捕球技術である[25]

規則上明確に定義付けられているものではないが、メジャーリーグベースボール(MLB)の公式サイトでは「Catcher framing is the art of a catcher receiving a pitch in a way that makes it more likely for an umpire to call it a strike -- whether that's turning a borderline ball into a strike, or not losing a strike to a ball due to poor framing.(フレーミングとは、ボーダーラインのボールをストライクにしたり、ストライクをボールにさせないようにしたりと、球審がストライクと判定する可能性を高める捕球技術)」と説明されている[26][27]

また、メディア上では「捕球時にミットをわずかに動かす」ことで「ボールゾーンの投球をストライクに見せる技術」と説明する向きもあるが[28][29]谷繁元信はあくまで「投球が来たところで止めて捕る」ことで「ストライクをボールと言われないようにする」ための技術であると説明しているなど[27]、その解釈は様々である。

この技術が劣っていると捕球の瞬間にミットが流れてしまい、本来ストライクゾーンを通過しているはずの投球を「ボール」と判定されてしまう場合もある[30]。捕手のフレーミング能力の優劣の差によっては、1シーズンあたりのチームの総失点の差が30から40ほどにまで及ぶことが判明している[28]。MLBでは、PITCHf/xなどのトラッキングシステムを用いて「機械的に判別した投球コース」と「実際の試合での判定」との比較によってデータ化したストライクの増減値を、捕手のフレーミング能力の評価指標として用いることが一般的となっている[25][28]。盗塁阻止やブロッキングなど他の捕手の守備要素と比較しフレーミングは得点価値で大きな差が生まれる[31]ため、フレーミングは捕手の守備能力の中で最も重要なものといえる。

2010年まで現役だった野口寿浩はフレーミングについて「絶対にやらなければならないものでもないし、フレーミングありきというのはどうかなと個人的には思っている」「ここぞの時にやるから意味がある」とし、フレーミングと称してミットを動かすことに対しては「アンパイアを欺く行為でもある」「ミットを動かすキャッチャーは、アンパイアから評判が良くない」「ピッチャーに対して失礼になる」と述べている[32]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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