このため特に捕球が難しいナックルボール投手が在籍するチームではこれを捕球する能力に長けた専属捕手が存在する場合もある。例えばボストン・レッドソックスではティム・ウェイクフィールドの先発登板する試合では、打撃に優れる正捕手のジェイソン・バリテックではなく、捕球に優れる控え捕手(ダグ・ミラベリ、ケビン・キャッシュ、ジョージ・コッタラス)が必ず先発出場していた。
捕球時には打者のスイングを妨害してはならず、ミットがバットに触れた場合は打撃妨害と判定され、打者の一塁への安全進塁権が与えられる。
ミットやグラブを手から外してボールに触れさせてはならないのと同様、キャッチャーマスクを頭から外してボールに故意に触れさせると捕手にボークが宣告され、安全進塁権が与えられる (公認野球規則5.06(b)(3)(E))が、2021年にカート・カサリにこの反則が適用された[18]。
また、投球をミットで捕球した時の音(捕球音)を大きく響かせた方が投手は気分が良くなり、また捕球音が大きく響くと打者へ与える心理効果もあるため、できるだけ大きな「いい音」を立てて捕球することも、捕手に必要な捕球技術の一つとされている[19]。
捕手の捕球に必要とされている身体的条件は、俊敏性と下半身の柔らかさなどである[20]。低い投球を後逸しないように低く構えるためには下半身の柔らかさが必要であり[21]、投手の投球がそれても捕手が構えた姿勢から左右や上下に動いて捕球したり、打者がファウルチップした打球を後方へ逸らさず直接捕球するには、俊敏なフットワークが必要である。プロ野球の捕手に求められる「下半身の柔らかさ」とは、身体的には、筋力、筋肉の伸縮性、および、腰・膝・足首の関節の柔軟性(関節の可動範囲の広さ)を指している。梨田昌孝は「うまいキャッチングは投手の力を引き出し、球審も味方につけられる」と自著に記している[22]。捕手に最も必要とされる能力はこれらの捕球の能力・技術とされており、その他の能力(リード、肩、打撃など)が良くても、捕球に難がある捕手は、正捕手としては起用されないことが多い[23]。 フレーミング(Catcher Framing)とは、ストライクゾーンギリギリの投球、いわゆる「際どいボール」を捕球動作や捕球体勢などを工夫することによって審判に「ストライク」と判定させる捕球技術である[24]。 規則上明確に定義付けられているものではないが、メジャーリーグベースボール(MLB)の公式サイトでは「Catcher framing is the art of a catcher receiving a pitch in a way that makes it more likely for an umpire to call it a strike -- whether that's turning a borderline ball into a strike, or not losing a strike to a ball due to poor framing.(フレーミングとは、ボーダーラインのボールをストライクにしたり、ストライクをボールにさせないようにしたりと、球審がストライクと判定する可能性を高める捕球技術)」と説明されている[25][26]。 また、メディア上では「捕球時にミットをわずかに動かす」ことで「ボールゾーンの投球をストライクに見せる技術」と説明する向きもあるが[27][28]、谷繁元信はあくまで「投球が来たところで止めて捕る」ことで「ストライクをボールと言われないようにする」ための技術であると説明しているなど[26]、その解釈は様々である。 この技術が劣っていると捕球の瞬間にミットが流れてしまい、本来ストライクゾーンを通過しているはずの投球を「ボール」と判定されてしまう場合もある[29]。捕手のフレーミング能力の優劣の差によっては、1シーズンあたりのチームの総失点の差が30から40ほどにまで及ぶことが判明している[27]。MLBでは、PITCHf/xなどのトラッキングシステムを用いて「機械的に判別した投球コース」と「実際の試合での判定」との比較によってデータ化したストライクの増減値を、捕手のフレーミング能力の評価指標として用いることが一般的となっている[24][27]。盗塁阻止やブロッキングなど他の捕手の守備要素と比較しフレーミングは得点価値で大きな差が生まれる[30]ため、フレーミングは捕手の守備能力の中で最も重要なものといえる。 2010年まで現役だった野口寿浩はフレーミングについて「絶対にやらなければならないものでもないし、フレーミングありきというのはどうかなと個人的には思っている」「ここぞの時にやるから意味がある」とし、フレーミングと称してミットを動かすことに対しては「アンパイアを欺く行為でもある」「ミットを動かすキャッチャーは、アンパイアから評判が良くない」「ピッチャーに対して失礼になる」と述べている[31]。一方で、専門家から実技も交えた説明を受けフレーミングに対してより理解を深めたNPBの現役審判団は、フレーミングに対して肯定的な見方を示している[32]。 NPB球団や現役選手たちの間においてもフレーミングに対する意識や取り組みの高まりがみられ、2019年時点においては「最近ではどの捕手も意識してやっている」[33]という声もある。たとえば福岡ソフトバンクホークスはフレーミング専門家である緑川大陸氏をプロ未経験にもかかわらずキャッチャーコーチとして2023年秋季キャンプに招へいした[34]。なおチームの正捕手である甲斐拓也はチームに先んじて2023WBCに向けて2022年オフにフレーミングの特訓のために前述の緑川氏を招き入れて特訓している[35]。株式会社DELTAの分析によると実際に2023年シーズンには甲斐拓也のフレーミングに改善が見られたという[36]。読売ジャイアンツに至ってはフロントの幹部までがフレーミングを認識しており、大塚球団副代表が自チームの小林誠司について「データ上では12球団の捕手でトップだった」とコメントした[37]。 捕球時の捕手の姿勢・動作が球審の判定に影響を与えるということについては「フレーミング」という言葉が定着する以前から議論されており[注 7]、特に捕球後にミットを動かして有利な判定を引き出そうとすることが高度なテクニックと見なされてきた。しかし2000年代頃より国際試合において「マナー違反」であるとして問題視されるようになり、北京オリンピックで決定的に表面化。これをきっかけに、露骨な「ミットずらし」は忌避される行為と見なされるに至り[39]、特にアマチュア野球界においては「捕手はミットを動かすな」という指導方針が定められたという経緯も存在する[40]。一方で、上述のようにフレーミングに対して理解を深めたNPBの現役審判団はフレーミングに対して肯定的な見方を示している[41]ことに留意が必要である。投手と会話するイバン・ロドリゲス。 ただし、2010年代後半から米独立リーグやマイナーリーグなどでの試験運用が始まっている「自動ストライクボール判定システム(Automated Ball-Strike System、ABS)」が本格的に普及すれば、捕手のフレーミング技術は不要になるとされている[42]。 リードとは、捕手が一球ごとに投手にサインを送り、コースと球種を指示する行為である。 日本プロ野球(NPB)の場合は、チームの年間試合数144試合の半数以上はエース級ではなくチームの4番目以下の多数の投手が登板しているため、力量の比較的劣る投手が投げる試合(全試合数の半数以上)[43]や投手が調子の悪い日[44] に試合に勝つためには、捕手が投手の力量・調子や試合の状況等を判断して投手をリードすることが重要とされている[45]。
フレーミング
リード「:en:Catcher#Calling the game」および「ウエストボール」も参照