振り子式車両
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まず、予め線路上の曲線部ごとのカント等のすべての地上データの情報をあらかじめ指令制御装置と呼ばれる車上装置へ組み込まれたマイコンに記録しておき、そこで記録された曲線情報は、速度発電機と地上にあるATS地上子を使用して得られる絶対位置情報と速度発電機の検出で得られる速度情報を基に、緩和曲線区間での適切な車体傾斜角度を計算する。そこで得られた傾斜角情報に従い、指令制御装置が各車に搭載されている振り子指令装置へ車体傾斜のタイミングの指令が伝送され、曲線進入前の緩和曲線区間において空気シリンダーを用いたアクチュエーターにより、あらかじめ能動的に車体を徐々に傾斜させていく。曲線区間通過後の緩和曲線区間においても、同様の手法で車体傾斜を能動的に復元させる。このような制御により、緩和曲線区間で発生する過渡的な振動を抑制するというものである。曲線区間への進入・脱出時にアクチュエーターによって半ば強制的に車体の傾きが制御されるが、補助的な傾斜制御であるため、万が一、この制御装置が正しく作動しない場合でも本来の超過遠心力によって車体は傾き安全性が確保される[13]

ただ、走行位置を補正するATS地上子と曲線入口までの距離が若干あり、その間の空転・滑走による誤差で車体傾斜のタイミングがずれること、そしてその場合、以後の地上子による位置補正が正確に働かなくなるおそれがあった上に、地上設備である地上子は、工事などで設置位置が変わる可能性があり、その場合車上のデータベースを更新しなければ、正確な補正ができなくなってしまうことが課題である[14][15]

日本での制御付き自然振り子式の車体傾斜機構にはコロ式とベアリングガイド式がある[13]。最初に実用化された自然振り子式の381系ではコロ式を採用していたが、車体を傾斜させる中心である振子中心を必要に応じて低くできない・装置の小型化が困難・コロを覆う防塵装置が複雑などの欠点があったため、ベアリングガイド式の開発が進められた[16]。開発されたベアリングガイド式は、振り子時の摺動抵抗の低減、振り子装置の小型化、防塵装置の簡素化などを達成し、JR四国8000系電車やJR北海道281系気動車の試作車から採用された[16]

その後、JRグループ旅客会社6社全てのみならず、第三セクター土佐くろしお鉄道智頭急行でも制御付き自然振り子式の車両を導入するなど自然振り子式車両は1990年代に一気に増加したものの、2000年代に入ると、自然振り子式より構造が簡易ながら自然振り子式と同程度の効果が得られる「空気ばね車体傾斜方式」(後述)の車両が主流となった。自然振り子式車両は2001年に登場したキハ187系気動車のほか、883系電車の中間増備車モハ883-1000とサハ883-1000、キハ285系気動車(開発中止)を最後に、自然振り子式による新製車両は暫く途絶えた。

JRグループ各社が新幹線車両も含め「空気ばね車体傾斜方式」の車両を投入していく中で、JR四国も2017年に老朽化の進む2000系初期型の後継車両として「空気ばね車体傾斜方式」を採用した2600系気動車を試作したものの、走行試験の結果、曲線区間が特に多い土讃線では空気ばねの制御に多くの空気を消費するため空気容量の確保に課題があるとして量産は見送られ、新たに2600系気動車をベースにした「制御付き自然振り子式」の2700系気動車の量産に方針を転換し[17]2019年に試作車・量産車ともに登場、同年8月より営業運転を開始した[18]。この2700系気動車が、「制御付き自然振り子式」車両の新形式としては、キハ187系気動車以来18年ぶりとなった。また、今後はJR西日本とJR東海がともに老朽化した自社保有の旧式車両の置き換え用として「制御付き自然振り子式」を採用した新形式車両の導入を発表しており(JR西日本は273系を、JR東海は385系をそれぞれ予定)[19][20]、「空気ばね車体傾斜方式」車両の投入が難しい線区では従来通り「制御付き自然振り子式」車両を導入していくことになっている。
車上型制御付き自然振り子式

上記の制御付き自然振り子式の課題を解決するため、JR西日本が鉄道総合技術研究所川崎車両と共同で開発した。車両に搭載されたジャイロセンサーが、走行中に速度情報と、現在走行している区間のカーブの情報を取得し、これをデータベースの情報と突き合わせることで、地上設備によらない位置取得・補正を可能とする方式である。273系に初めて採用された[15]
強制車体傾斜式

強制車体傾斜式は曲線通過時にリンクなどで構成された車体傾斜機構を油圧などによって能動的に傾斜させるものである。強制振り子式と呼ばれることもある[21]。曲線通過時に車体に懸かる超過遠心力を車体傾斜に利用するものではないため、必ずしも車体傾斜の回転中心は重心より高くする必要はないが、実用化された強制車体傾斜式車両の多くは、超過遠心力が車体の傾斜に悪影響を与えないよう回転中心を重心と同じか重心より高い位置としている。多くの強制車体傾斜式で作用されているリンク式の車体傾斜機構自体はコロ式やベアリングガイド式の車体傾斜機構と比べ簡便な構造だが、車体傾斜機構を曲線通過時に正しく動作させるためには何らかの方法で曲線進入を検知し、車体傾斜を制御する装置も必要であり、そうした装置の必要がない自然振り子式と比較して制御装置は複雑になる。

強制車体傾斜式は、主に欧米で普及している[21]。初期の強制車体傾斜式では曲線進入を各車に搭載したジャイロスコープ加速度センサーなどで検知し、車体を傾斜させる車両単位のフィードバック制御が多かった。この方法ではいずれの車両も曲線進入後に車体を傾斜させることになるため、必ず振り遅れが発生するという問題があった。またセンサー類の誤作動によって曲線進入を正しく検知できない場合も多く、実用化の障害となっていた。その後電子工学の発達によって最適な傾斜角度の計算や編成単位で車体の傾斜を制御することが可能になり、曲線進入検知の正確性も向上した。振り遅れについては曲線進入を先頭車に搭載したセンサー類で検知し、先頭車からの指令で後続の車両も順次車体を傾けることで先頭車以外の振り遅れを防ぐ制御方法も開発され、現在では編成単位でのフィードバック制御が主流となっている。なお、一部ではフィードフォワード制御も行われており、車上コンピュータに入力した線形データと既に通過した曲線の情報から車輪回転数で現在走行位置を割り出し、次の曲線の位置を予測しセンサー類が曲線を検知する前から車体を傾斜できるものが実用化されている[22][23]

一般的に最大傾斜角は自然振り子式よりも大きく、イタリアペンドリーノが8 - 10度、スウェーデンX2000が6.5度である[7]
空気ばね車体傾斜方式

特別な車体傾斜機構を用いず、台車上の左右の空気ばねの伸縮差によって車体を傾斜させるものである。空気ばねストローク式車体傾斜、空気ばね式車体傾斜、簡易振り子式、あるいは簡易車体傾斜など、様々な呼び方がある[注 9]。自然振り子式、強制振り子式の分類では、強制振り子式に属する[21]

本格的な振り子式車両は、導入に当たって車両自体のイニシャルコストの増加に加え、軌道の強化や架線の張り替え工事などの地上設備の改修が必要となる上、車両重量の増加や、整備検査などと言ったランニングコストの上昇という点で不利であった。このため、例えば日本の私鉄での採用例は速達化が至上命令とされる、あるいはJRと乗り入れを行う必要からそれらで採用されているのと準同型の車両を導入する必要がある、といった特殊な事情のある第三セクター鉄道にほぼ限られた。しかし、車体傾斜制御技術そのものはそれ以外の鉄道においても乗り心地を維持しながらの列車の高速化に有用な技術であり、そこで特殊な機構のため保守も含めて高価となる振り子式の代替技術として、曲線部での走行時に左右の空気ばねの内圧を制御して適切な角度まで車体を内傾させる、車体傾斜制御装置とよばれるものを装備した強制車体傾斜方式が開発された[24]

空気ばねによる車体傾斜システムは1960年代から構想されていた(小田急電鉄の鉄道車両#車体傾斜制御も参照)が、実現化に先鞭をつけたのは西ドイツ(当時)であった。西ドイツ国鉄1973年に12両を試作した403型と呼ばれる動力分散方式の高速車両においては、ボルスタレス台車に最大傾斜角2度の車体傾斜機構が搭載された。この車体傾斜システムは試験のみに終わり、403型も量産されることはなかったが、本方式の基本的な機構はほぼ確立されており、低コストで車体傾斜車両を実現する手段として注目を集めた。

台車左右の枕ばねに用いられる空気ばねの伸縮差に依存することと、車体傾斜の回転中心が枕ばねと同じ高さであり車体傾斜時に車両限界を支障しやすいため、日本での営業車両による最大傾斜角は2度程度に抑えられており、試験車両では、在来線で傾斜角5.5度(1970年の小田急のフィードバック制御の試験車両)、新幹線では3度 (300X) を実現している[25][26][注 10]。傾斜角は他の方式に比べると小さい。しかし特別な車体傾斜機構を必要とせず、既存の空気ばね台車を若干設計変更してフィードバック制御[注 11]またはフィードフォワード制御[注 12]による制御装置を追加するだけで済むため[注 13]、低コストである上に傾斜角度2度の場合でも基本速度+25 km/h程度(JR北海道キハ261系気動車R600 m以上)で曲線通過速度向上が実現できる。


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