抵当権
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これは後順位抵当権者の期待を保護するため(後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権額等を確認して担保価値を把握するはずである)であるから、後順位抵当権者等がいない場合には2年分を超えて抵当権を実行できる。
賃借権

土地賃借人が該土地上に所有する建物について抵当権を設定した場合には、原則として、抵当権の効力は当該土地の賃借権に及び、建物の競落人と賃借人との関係においては、右建物の所有権とともに土地の賃借権も競落人に移転する(最高裁判例昭和40年5月4日[2])。この場合賃貸人の承諾が必要であり(619条)、承諾が得られないときは、競落人は、裁判所に対し借地非訟事件の申立を行い、代諾料を定める裁判を行うことになる。(借地借家法20条)。
物上代位

抵当権の目的物が滅失した場合でも、それが債権などの形に転化していれば、それに対して抵当権が及ぶ(372条、304条)。例えば、抵当権の目的物であった家屋が焼失した場合、その損害を填補するために支払われる保険金や賠償金についても抵当権の効力が及び、抵当権者はそこから優先弁済を受けることができる(債務と保険料の関係が無いことから、火災保険金を受け取ることができる、に関して反論する法学者もいる)。ただし、金銭が実際に支払われる前の、債権の状態で差押えをしなければならない。物上代位の対象となるのは上記の保険金や賠償金のほかに、土地収納の際の保証金や代替地がある。
物上代位と賃料

抵当目的物が賃貸に用いられている家屋であった場合、法定果実としての「賃料」に対しても抵当権の効力が及び、物上代位できるかが争われた。これは1990年代バブル景気崩壊によって土地建物の担保価値が著しく低下したために注目された債権回収方法である(それ以前は土地の売却代金からの回収がほとんどであった)。通説と最高裁の判例はこれを可能としてきたが、異論もあった。

そこで2003年(平成15年)に371条を改正して、抵当権が債務不履行後に生じた抵当不動産の果実(法定果実である賃料が念頭に置かれている)にも及ぶとされ(もっとも判例は物上代位の実体的根拠を372条・304条に求めるのであり、この点は変わらないとする理解が多数のようである)、同時に民事執行法において抵当目的物(抵当不動産)からの収益によって債権を回収するための担保不動産収益執行の手続が導入された(民事執行法188条)。しかしこの担保不動産収益執行の手続は、強制管理の手続を手直ししたもので、管理人に費用が掛かるので、大規模マンションには向いているが、小さなマンションでは経費倒れとなり、依然として物上代位の利用価値は大きい。

いっぽう、抵当目的物が転貸された場合において、判例は、372条で準用する304条に規定する「債務者」に原則として転貸人は含まれないとして、転貸賃料に対する物上代位を否定した(最決平12.4.14)。
実行前の効力
抵当権に基づく妨害排除請求

日本の抵当権規定は、ボワソナード旧民法を介して、フランス法・ベルギー法の影響を強く受けている。しかし、民法制定後、日本でドイツ法的解釈が支配的となると、抵当権は抵当目的物の交換価値のみを把握する価値権であり、担保に供された物の使用には介入するべきでないと考えられるようになり(特に我妻栄の影響)、物権的請求権についても所有権等と比べて制限があった。そのため、短期賃貸借制度を悪用するなどして抵当目的物を占有し競売代金を低下させ、それを恐れた抵当権者から法外な敷金の返却や立退料を求める占有屋が跋扈した。それゆえ、20世紀末になると、そうしたドイツ的解釈が日本において前提となる必然性はないと考えられるようになった(内田貴などが主張)。

平成11年(1999年)の最高裁大法廷判決[3]は、傍論であるが抵当権に基づく妨害排除請求権を初めて認めた。この判決により占有屋の跋扈に一定の歯止めがかけられることとなった。さらに、平成17年(2005年)判決[4]では、正面から抵当権に基づく妨害排除請求権を承認した。
抵当権の処分
転抵当

抵当権の譲渡・放棄

抵当権の順位の譲渡・放棄

抵当権の順位の変更
詳細は「抵当権の処分」を参照
第三取得者との関係
代価弁済

抵当不動産について所有権や地上権を買い受けた利害関係人である第三取得者が、抵当権者の請求に応じてその代価を弁済したときは抵当権は消滅する(378条)。これを代価弁済という。詳細は「代価弁済」を参照
抵当権消滅請求

抵当不動産の第三取得者は383条の規定に従って抵当権消滅請求をすることができる(379条)。もっとも、主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は抵当権消滅請求をすることはできない(380条)。 詳細は「抵当権消滅請求」を参照
第三取得者との関係における諸規定

抵当不動産の第三取得者による買受け(390条


抵当不動産の第三取得者による費用の償還請求(391条)

賃借権者との関係における諸規定

抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力(387条


抵当建物使用者の引渡しの猶予(395条)
平成15年に395条が改正され、短期賃貸借の保護が廃止されるとともに、抵当権に対抗できない賃貸借はその期間にかかわらず、抵当権者及び競売における買受人に対抗できないことになった。代わりに、建物の賃借人は抵当権を実行された場合に、競売による買受の時から6ヶ月、建物の明渡を猶予される(395条1項)。抵当建物の使用者は競売による買受のときより建物の使用について対価を支払う義務があり、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めて1ヶ月分以上の支払いの催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、建物の明渡を猶予されない(395条2項)。
抵当権の実行
民事執行法による抵当権の実行
担保不動産競売

抵当権の実行は、債務不履行、目的物を滅失させ期限の利益を喪失した(137条)場合にできる。抵当権の目的物がある所在地を管轄する地方裁判所に、抵当権に基づく不動産競売(担保不動産競売)を申し立てることで始まる。

競売に付され、買受人があれば売却許可が与えられ、代金(競売代金)を納付する。代金を納付した時点で所有権は移転する。競売代金はその順位に従い、抵当権者に配当される。前順位の抵当権者の債権を弁済してなお競売代金が残存する場合、次順位の抵当権者が弁済を受けていく。抵当権者へ配当してなお代金が残存する場合には一般債権者に、さらに残存すれば抵当権設定者に返還される。競売代金がすべての債権を弁済するのに不足する場合、弁済を受けられなかった債権は存続する(抵当権者は、担保のない無担保債権者となる)。

一括競売
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる(389条)。この場合、土地の代金からのみ優先弁済を受けることができ、建物の代金から優先弁済を受けることはできない。
担保不動産収益執行詳細は「担保不動産収益執行」を参照
抵当権の実行に関する諸規定

抵当不動産以外の財産からの弁済(394条


抵当建物使用者の引渡しの猶予(395条)

抵当直流

抵当権者は設定契約あるいは別個の特約により、債務者が弁済期に債務を弁済しない場合に民事執行法上の手続によらずに抵当権の目的物を抵当権者に移転しまたは処分することができる契約を抵当権設定者と結ぶことができるものと解されている。これを抵当直流(ていとうじきながれ)という。質権の流質契約に相当するもので、質権における流質契約の場合には弁済期前にこのような契約を結ぶことは禁じられているが(349条)、抵当権の抵当直流については有効であると解されている。
共同抵当

数個の不動産に同一の債権の担保として設定された抵当権のこと。

同時配当

共同抵当の目的となっている数個の不動産について、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する(392条
1項)。


異時配当

一方、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合は、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が同時にその代価を配当したときに他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる(同条2項)。

詳細は「共同抵当」を参照
法定地上権

土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地または建物につき抵当権が設定され、その実行により所有権を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなされる(388条)。これを法定地上権という。

法定地上権の制度は、建物のみに抵当権が設定された場合で、抵当権が実行された場合に競落人が建物を所有するために土地を使用する権限がなくなるため、本条がないと土地の所有者が同意しないと建物を結局収去せぜるを得なくなるが、これでは建物の有効利用を図れなくなるために設けられているものである。

1番抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一の場合に限り、法定地上権の成立が認められる。これは、1番抵当権設定時に土地と建物の所有者が異なる場合には、土地所有者と建物所有者との間に土地利用権原についての約定(賃貸借等)があるはずであり、建物の抵当権の効力は従たる権利としてその賃借権等にも及んでおり、法定地上権を認める必要がないと考えられるからである。詳細は「法定地上権」を参照
抵当権の消滅詳細は「抵当権の消滅」を参照
根抵当

根抵当(ねていとう)は、継続的に発生する債務を一定額(極度額(きょくどがく)という)まで担保するための抵当権を設定するものである。担保すべき債権が、設定時には一定範囲でしか特定されていない点で通常の抵当権とは異なる。

例えば継続的な取引関係がある場合、その取引から生じた債務を担保するためにある土地(ブツ)に根抵当権を設定する。これが通常の抵当権であると、個別の取引が終わるたび付従性(附従性)によって抵当権が消滅してしまうので、次の取引の際に改めて抵当権を設定しなければならず、煩雑である。1971年(昭和46年)の民法改正によって398条の2以下に根抵当の規定が設けられたが、実際の取引ではそれ以前から用いられていた。この民法改正では、極度額は債権極度額のことをいい、それまで認められていた元本極度額は設定できないこととなった。

債権極度額とは、例えば極度額100万円ならば担保される部分は元本・利息・損害金の合計額が100万円に充つるまで担保されるが、100万円を超える部分は担保されない。


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