抗がん剤
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現在ではメソトレキセート投与は腫瘍細胞をアポトーシスに導き、正常細胞をアポトーシスに導かないということが選択毒性となっていると考えられている。すなわち、p53Bcl-2のようなアポトーシス制御蛋白に変異があるとメソトレキセート耐性となってしまうのである。もちろん、分裂回数はある程度の関係はしていて消化管粘膜や骨髄抑制は出現する。HD-MTX療法はフォリン酸(=ホリナート)救援療法によって普及した。機序は不明な点が多いが、メソトレキセート投与後数時間後にフォリン酸(ロイコボリン)を投与することで正常細胞を救援することができる。HD-MTXの投与量はフォリン酸救援療法(ロイコボリンレスキュー療法)を行わければ致死的であるので注意が必要である。メソトレキセート、シタラビンと同様血液脳関門 (BBB) を透過性のある数少ない薬物の一つである。中枢神経DLBCLにおいては非常に頼りになる。血液疾患の他には乳癌肺癌頭頸部癌絨毛癌にも適応がある。葉酸は胎児細胞の適切な分化と神経管の閉鎖のために重要であるため、DHFR阻害剤の胎児への投与は禁忌である。近年はメソトレキセート単剤、もしくはプロスタグランジン類似物質のミソプロストールとの併用で妊娠中絶薬として臨床試験が行われている。
ピリミジン代謝阻害薬
チミジル酸シンターゼ阻害薬
これは
フルオロウラシル (5-FU) とフロロピリジン系抗真菌薬であるフルシトシン(5-FC、アンコチル)が含まれる。フルオロウラシルは乳癌や消化管の癌、皮膚の前悪性角化症や表皮の多発性基底細胞癌でよく用いられる。臨床試験によりフルオロウラシルとフォリン酸(ロイコボリン)の併用がフルオロウラシル単独よりも効果が高いことが明らかになり、それを応用した大腸癌のレジメがFOLFOXである。FOLはフォリン酸(LV、ロイコボリン)、Fはフルオロウラシル、OXはオキサリプラチン(L-OHP、エルプラット)である。有名な方法としてはFOLFOX4とそれの投与方法を簡略化したFOLFOX6がある。FOLFOX6でオキサリプラチンの代わりにイリノテカン(CPT-11、カンプト)を用いるようにしたのがFOLFIRIである。欧米では中心静脈リザーバーを用いて外来治療で行うのが通常だが、日本では入院して行う。日本では承認の問題でフォリン酸 (LV) の代わりにレボホリナート(l-LV、アイソボリン)という光学異性体を用いる。近年はVEGFに対するモノクローナル抗体であるベバシツマブ(アバスチン)を併用することもある。フルシトシンは真菌内でフルオロウラシルに変換され、動物内で変換されないことから抗真菌薬として用いられることがあるが、耐性化しやすく単剤で使われることはまれである。髄液移行性が良く、アムホテリシンB(ファンギゾン)とシナジーがあるため、クリプトコッカス髄膜炎では併用することはある。
プリン代謝阻害薬
IMPDH阻害薬
6-メルカプトプリン(6-MP、ロイケリン)とそのプロドラッグであるアザチオプリン(AZA、イムラン)が知られている。6-メルカプトプリンはAPLの維持療法やALLの強化療法、維持療法で用いることがある。アロプリノールとの併用で作用、副作用とも増加することが有名である。免疫抑制薬としての適応も有名である。特にアザチオプリン自己免疫性疾患ではよく使われる。
アデノシンデアミナーゼ (ADA) 阻害薬
ペントスタチン(コホリン)が知られている。ATL有毛細胞白血病で用いられることがある。
リボヌクレオチドレダクターゼ阻害薬ヒドロキシウレア(HU、ハイドレア)がこれに含まれる。ヌクレオチドをデオキシヌクレオチドとする反応を阻害する。鎌状赤血球や頭頸部腫瘍、骨髄増殖性疾患で適応がある。放射線増感薬(特に頭頸部癌)として用いられることがある。二次性白血病の原因となるともされている。
ヌクレオチドアナログ
プリンアナログ
チオグアニン、リン酸フルダラビン(F-Ara-A、フルダラ)、クラドリビン(2-CdA、ロイスタチン)が含まれる。リン酸フルダラビンはCLLやFLに効果があるとされている。しかし日本においてはFLに対して適応がなく、クラドリビンが用いられる。
ピリミジンアナログ
シタラビン(Ara-C、キロサイド)やゲムシタビン(GEM、ジェムザール)が含まれる。シタラビンはAMLの寛解導入や維持に用いられ、シクロホスファミドとシナジーを形成する。またシタラビンもBBBを通過するので、中枢神経DLBCLで用いることがある。ゲムシタビンは膵臓癌の治療で用いられる。
その他の代謝拮抗薬
L-アスパラギナーゼ
血中のL-アスパラギンを分解することにより、アスパラギン要求性の腫瘍細胞を栄養欠乏状態とする。
急性白血病悪性リンパ腫で用いられる。凝固異常や急性膵炎を起こすことがあるので、採血にてモニタリングが必要である。Amyおよび凝固系のモニタリングを行いATIII>70となるようにする。
トポイソメラーゼ阻害薬

I型トポイソメラーゼは1本鎖DNAのらせん制御、II型トポイソメラーゼは2本鎖DNAのらせん制御をすると考えられており、作用が複雑で多目的な働きをするII型トポイソメラーゼを阻害したほうが効果があると考えられている。

カンプトテシンとその誘導体(I型トポイソメラーゼを阻害する)

イリノテカン(CPT-11、カンプト)

ノギテカン(NGT ハイカムチン)

用量規定因子は消化器毒性と骨髄抑制である。特に下痢は致死的になることもある。FOLFIRIでは止痢剤としてロペミンを併用することがしばしばある。骨髄抑制も非常に強い。
アントラサイクリン系
アントラサイクリン系はDNA構造を直接破壊する。化学療法で最も細胞障害性が高いもののひとつであると考えている。ドキソルビシン(DER、ADR、アドリアシン)が含まれる。DNA内へ挿入(インターカレーション)することによって、II型トポイソメラーゼ阻害を行う。心筋内でフリーラジカル産出を促し、心筋細胞膜を破壊、鬱血性心不全を招くことが有名である。DXR投与中は100mg/m2ごとに心電図、200mg/m2ごとに心エコーを実施し、心毒性をチェックする。
エピポドフィロトキシン
アントラサイクリン系と同様に、II型トポイソメラーゼ阻害を行う。エトポシド(VP-16、ETP、ラステッド、ベプシド)が含まれる。一般にシスプラチンといったアルキル化薬とII型トポイソメラーゼ阻害薬を併用すると、シナジーを得る。理由は、傷害されたDNAを修復するにはトポイソメラーゼの作用が必要(ポリメラーゼとの相互作用のため)なのだが、そこまでブロックされるとアポトーシスされやすいということである。
キノロン系薬物
レボフロキサシン(クラビット)やシプロフロキサシン(シプロキサン)などが含まれる。原核細胞のII型トポイソメラーゼ(これをDNAジャイレースという)とIV型トポイソメラーゼを阻害し、細菌を傷害する。一応はグラム陽性菌にはIV型トポイソメラーゼ、グラム陰性菌にはII型トポイソメラーゼ阻害が効いていると考えられている。AUCに比例して効果を示す抗菌薬なので、1日1回投与のほうが効果的である。
微小管重合阻害薬
ビンカアルカロイド系
ビンカアルカロイド」も参照これらの抗がん性アルカロイドは植物より産生され、微小管の形成を抑止することで細胞分裂を妨害する。これらは微小管の重合を阻害する。ビンブラスチン(VLB、ビンブラスチン、エクザール)やビンクリスチン(VCR、オンコビン)、ビンデシン(VDS、フォルデシン)が含まれる。ビンブラスチンの用量規定因子は骨髄抑制である。ただし、悪心、嘔吐といった消化器症状もしばしば出る。ビンクリスチンは悪性リンパ腫や小児白血病でよく用いられる薬だが、こちらの用量規定因子は末梢ニューロパチーである。末梢神経の微小管の障害によって起こるとされている(軸索輸送など)。骨髄抑制はビンブラスチンより軽度であるが、末梢ニューロパチーはよく起こる。特に麻痺性イレウス、便秘は必発である。
コルヒチン
痛風の予兆の際に用いる薬だが、その作用機序は不明である。微小管重合を阻害することは分かっている。
微小管脱重合阻害薬
タキサン系
パクリタキセル(PTX、TAX、タキソール)やドセタキセル(DTX、TXT、タキソテール)が含まれる。微小管が重合した状態でより安定にすることで、細胞の有糸分裂を停止させ、アポトーシスへ導く。パクリタキセルの用量規定因子は末梢ニューロパチーであり、溶剤によるアレルギー反応が多く、デキサメサゾンや抗ヒスタミン薬で予防可能である。ドセタキセルはパクリタキセルよりニューロパチーは起こしにくいが、強い骨髄抑制と体液貯留が起こる。用量規定因子は骨髄抑制である。
抗腫瘍性抗生物質

1953年に梅沢浜夫が発見したザルコマイシンが最初の抗がん性抗生物質 (antitumour antibiotic) であり、DNAポリメラーゼを阻害する。いろいろ異なる種類があるが、主に2つの方法で細胞分裂を阻止する。
DNAに結合して分離できないようにする。

酵素を抑止してRNA合成を阻害する。
マイトマイシンC、アントラサイクリン系のドキソルビシンエピルビシンダウノルビシン、その他ブレオマイシンなどがある。


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