手形理論
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手形は、理論上は貨幣に匹敵する流通性をもつため、受取人(手形の振出を受けた者)から裏書譲渡によって転々と流通し、その所持人を変えてゆくことが想定されている。ただし、現実の手形取引においては、所持人が頻繁に変わるような手形は敬遠されるため、転々と流通することは稀である。

裏書譲渡の項目を参照のこと。
手形金の支払

満期が到来したら、そのときの手形の所持人は振出人(手形を振り出した者)に支払いを求めるため、手形を呈示する。すると、振出人から手形に記載された金額が、呈示された手形と引き換えに支払われる。

手形債務者が請求者に手形金の支払を拒むことができる事由を手形抗弁といい、手形抗弁がある場合は支払義務を負っていても支払を拒むことができる。詳しくは、手形抗弁後者の抗弁を参照。

満期に支払がなされなかった場合は、2次的な手形債務者に対する遡求が問題となる。また、1次的な手形債務者については、経済的には後述の不渡りの問題が生じる。なお、白地手形も参照。
手形理論

手形上の権利発生の法的理論のことを、手形理論という。

手形は、振出されることによって権利が生じる(設権証券性)。しかし、何を持って「振出」と考えるか、その法的構成に関する学説には、交付契約説(契約説)・発行説・修正発行説・創造説がある。このうち、通説たる交付契約説と、有力説である創造説の一種の二段階創造説が大きく対立している。

この対立は、振出人が手形に署名したが、受取人に交付する前に盗難などに遭い、その後その手形が振出人の意思に反して流通に乗せられてしまった場合において先鋭化する。このように手形は作成されたが交付がなされずに流通した場合を、交付欠缺(こうふけんけつ)と言い(「欠缺」とは「(必要な要素・要件が)欠けていること」の意)、作成者の意思に反して流通してしまった手形でも有効な手形であるとして手形署名者に振出人としての債務を負わせることができるのかどうかが問題となる。
交付契約説
交付契約説は、手形が作成されただけでは足りず、交付されなければ手形上の権利が発生したとはいえないと考える。このため、交付欠缺の場合は、手形署名者は振出人としての責任は負わないことになる。そうであるとすれば、理論上は善意の手形所持人(交付欠缺を知らずに手形を取得した者)が予期せず不利益を被る可能性が生じる。そこで、交付契約説を前提としながらも、交付欠缺があったことについて手形所持人が善意・無重過失であれば、交付欠缺がある場合の署名者も振出人としての責任を負うという
権利外観理論が提唱された。この交付契約説+権利外観理論が通説である。
二段階創造説
二段階創造説は、手形は作成された時点で手形上の権利が発生し、交付により手形上の権利が移転すると考える。このため、交付欠缺の場合は、手形署名者は振出人として手形上の債務を負うことになる。二段階創造説によると、取引の安全が正面から確保される一方で論理的矛盾や過度の擬制(手形の作成時においては署名者が署名者自身に対して手形債務を負担することになる)を伴うという批判や、交付欠缺という例外的事例に対処するために原則論をゆがめるものであるとの批判がある。

なお、判例(最高裁判所第三小法廷昭和46年11月16日判決 民集25巻8号1173頁)が交付契約説+権利外観理論によっているのか、創造説によっているのかは明らかでなく、争いがあった[5]ところであるが、現在では、本判決は特定の手形理論に拠ったものとはいえないというのが学説一般の評価であるといってよい[6]
手形を巡る経済現象

手形は、前述のようにさまざまな使用目的をもつが、満期(支払期日)に手形金を支払えない状態(不渡り)に陥ることもある。6か月以内に2回手形が不渡りになった場合には、以後2年間、銀行取引が停止される。これによって約束手形の振出人は、手形を利用した金融手段の途が閉ざされ事実上の倒産に追い込まれるため、必死の金策に走るなど不渡りの回避策に悩まされることとなる。

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}問題なのは、欧米などの国では、訴訟費用が比較的に安い(数十万円程度の被害額であれば、簡易裁判所で弁護士を通さずに個人で解決できる)ことを反映して、信用売りは大抵は売掛金で行われる。一方で、日本においては、弁護士および裁判官が極端に少ないことを反映して、訴訟費用が高い。このことを反映して、小額の商取引でも手形で行われる。[要出典]このため、日本においては、特に一企業の不渡りが関連企業の不渡りを呼ぶという連鎖倒産の危険を、常にはらんでいる。欧米においては、あくまでも高額の取引においてのみ手形を使い、さらにその手形に保険をかけるという手段で、不意の資金不足を防ぐという処置がとられている。よって、取引先の倒産により営業の採算が取れなくなる場合の倒産は避けることはできないが、手形の不渡りによる自動的な倒産という実際の経済活動と遊離した法的な倒産が避けられる。
手形の支払期日延長

約束手形の支払期日までに資金が調達できない場合、振出人が、受取人またはその指図人もしくは手形所持人に対し、支払期日の延長を依頼することがある。この支払期日の延長を俗に「手形のジャンプ」という[7]。方法としては、振出人がその約束手形を回収すると同時に、新たな支払期日を設定した約束手形を振り出す(講学上の書替手形)、または、約束手形の支払期日を訂正するものがある。

約束手形の支払期日延長は、振出人にとっては自己の決済資金不足(予測)を露呈するという信用低下のおそれを犯してまで、緊急・想定外の行為として行うのであり、その後の決済不能(不渡り)、倒産・破産という事態に進行する前兆であるとも言える。従って受取人はこれに応じるかどうかは慎重に行うべきものであるが、応じないことにより一気に資金繰り悪化に至るケースや、逆に、応じたことにより他の債権者に後れ、自己の債権を回収できないケースもあり、まさにケースバイケースである。
手形の不渡り

手形を振り出した企業の経営状態が厳しくなり、手形の決済資金が底を尽き、決済が出来なくなったことを、手形の不渡りという。これは銀行などが資金的な援助をしなくなったということで、実質的な倒産状態に陥っていることを意味する。不渡り2回目で銀行取引が停止され、いわゆる「倒産」となり、手形は価値の消滅した紙くず同然のものとなる。

詳しくは、不渡りを参照。
パクリ手形

手形の割引先の斡旋を依頼して、当該手形を他人に託したところ、持ち逃げされるなどして手形を盗取されてしまうことや、その手形自体をさして、パクリ手形という。「パクる」という言葉はあまりに俗で法律用語としてふさわしくないように思われるが、手形取引の社会においては「パクリ手形」や「パクる」という言葉は定着しているようである。手形・小切手法に関する教科書などにも登場する[8]。また、経済界においても、「パクリ屋」が手形専門の詐欺師を指す言葉として定着している。
脚注
注釈^ 戦国時代は「手形」(てぎょう)という証文が存在した。これは合戦の際、敵方に殺されそうになった武者が、命乞いの為に紙または布に自らの掌に血を付けて押し当て手形を作成し、後日お金を渡す証としてそれを相手に渡すものである。助けた相手は合戦が終わった後にその手形を持ってそれを発行した武者のもとへ赴き約束のお金を貰った。

出典^ 自動車ローンの現状と課題
^ 「手形専用当座預金(マル専当座預金)」の新規取扱終了および「割賦販売通知書」の新規受入終了のお知らせ熊本銀行
^ 「マル専当座預金(専用約束手形口)」の新規取扱い終了について大光銀行
^ 約束手形がなくなる!?(さくさく経済Q&A)NHK(2021年2月24日付配信)
^ 『手形小切手判例百選〔第3版〕』(有斐閣、1997年)20頁。
^ 洲崎博史『手形小切手判例百選〔第6版〕』(有斐閣、2004年)19頁。
^三井住友銀行グループSMBCコンサルティング「手形のジャンプに応じる際の注意点は?」
^商法V-手形・小切手[第3版]」(有斐閣大塚龍児ほか・2006年)34頁

関連項目body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper{margin-top:0.3em}body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper>ul,body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper>ol{margin-top:0}body:not(.skin-minerva) .mw-parser-output .columns-list__wrapper--small-font{font-size:90%}

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