戸主
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なお、代襲相続の規定もあり、例えば第一推定家督相続人である長男に孫が生存したまま長男が戸主の死亡前に亡くなっていた場合には、長男の孫のなかから男女・嫡出子庶子・長幼の順で家督相続がなされた。特に事情が無い場合、一般的には長男が家督相続人として戸主の地位を承継した。
親族会詳細は「親族会」を参照

戸主に行為能力がなくかつ親権者や後見人がおらず戸主の代行を要する場合や親族中の婚姻などにおいて同意をなすべき父母がいない場合などには、関係人などの請求によって、裁判所は、親族・縁故者の中から3人以上を選任して、親族会を招集し、戸主権を代行させることなどができた。
家の設立・消滅

新たに家が設立される形態として「分家」、「廃絶家再興」、「一家創立」が、家が消滅する形態として「廃家」、「絶家」がある。
分家

分家とは、ある家に属する家族が、その意思に基づき、その家から分離して新たに家を設立することをいう。このとき、元々属していた家を「本家」と呼んだ。本家の統率の観点から、分家するためには戸主の同意が必要とされた。分家する際には分家者の妻および直系卑属およびその妻が分家と共に新たな家に入ることができる。ただし夫婦同籍の原則があるため、分家者の妻と、直系卑属が新たな家に入るときの妻は必ず共に移動することになる。

なお、旧民法等の法律上の用語では無いが、地域によって本家のことを母屋・分家のことを新宅など独自の呼称する場合がある。
一家創立

一家創立とは、家督相続や分家とは異なり、新たに戸主になる者の意思とは無関係に、法律の規定により当然に家が設立される場合をいう。

一家創立は次の場合に生じる。

子供の父母が共に分からないとき(改正前民法733条3)

非嫡出子が、戸主の同意が得られずに、父母の家に入ることができなかったとき(改正前民法735条2)

婚姻・養子縁組をした者が離婚・養子離縁をした際に、復籍するはずの家が廃家や絶家により無くなっていたとき(改正前民法740条)

戸主の同意を得ずに婚姻・養子縁組をした者が離婚・養子離縁した際に、復籍すべき家の戸主に復籍拒絶をされたとき(改正前民法741条・742条・750条)

家族が離籍されたとき(改正前民法742条・749条・750条)

家族が残っている状態で絶家し、入るべき家が無くなったとき(改正前民法764条)

日本国籍を持たない者が、新たに国籍を取得したとき(旧国籍法5条5・24条・26条)

無戸籍の父母の間の子が日本で生まれたとき(旧国籍法4条)

戸主でないものが爵位を授けられたとき(明治38年 戸主ニ非サル者爵位ヲ授ケラレタル場合ニ関スル法律)

皇族臣籍降下したとき(明治43年皇室令2号)

廃家

廃家とは、戸主が、婚姻や養子縁組などの理由により他の家に入るために、元の家を消滅させることをいう(改正前民法762条)。ただし、一家創立によって戸主になった者は自由に廃家できたが、家督相続により戸主になった者が廃家する場合は裁判所の許可を必要とした。
絶家

絶家とは、戸主が死亡したことなどにより家督相続が開始されたにもかかわらず、家督相続人となる者がいないために、家が消滅することをいう(改正前民法764条)。廃家が戸主の意志を元に行うのに対し、絶家は不可抗力により生じる。
廃絶家再興

廃絶家再興とは、廃家・絶家した家を、縁故者が戸主となり再興すること。廃絶家再興の主な要件は次の通りである。

家族は戸主の同意を得て廃絶した本家、分家、同家その他親族の家を再興することができる(改正前民法743条)

法定推定家督相続人や戸主の妻、女戸主の入夫は廃絶家がその本家である場合に限って再興することができる(改正前民法744条)

新たに家を立てた者に関しては自由に廃家して、本家、分家、同家その他親族の家を再興することができる(改正前民法762条)

家督相続によって戸主となった者は、廃絶家がその本家である場合に限って、裁判所の許可を得て現在の家を廃家した上で本家を再興することができる(改正前民法762条)

離婚または離縁によって実家に復籍すべき者が実家の廃絶によって復籍することができない場合には再興することができる(改正前民法740条)

廃絶家の再興は市町村長に届け出ることを要する(旧戸籍法164条)

再興した者はその家の戸主となり廃絶家の氏を称するが、廃絶家前の債権・債務など各種の権利・義務を引き継ぐ訳ではないため、単に家の名を残し、本家と分家といった家系を残す程度の効果しか無く祭祀相続としての意味合いが強かった。[注 1]
廃止された理由等

前述のように、物理的な懲罰権を持たず、離籍を覚悟されれば婚姻・縁組・居所移転を阻止できないという意味では、戸主権の実効性は脆弱であった[12]

しかし、立法者が楽観視して設けた離籍権は意外の弊害を生じた。条文上行使の方法に制限が無かったため、扶養義務免除など不正の利益を得るためや、嫌がらせ目的による行使が相次いだのである。そこで早くから判例は権利濫用法理を発達させ、恣意的な離籍を無効にする努力を講じており、戸主権を必要とする社会的実態の欠如が古くから指摘され続けてきた[13]

そこで早くも大正時代には法律上の家族制度緩和論が支配的となり[14][15]、離籍権行使に裁判所の許可を要するとの改正[16]が昭和16年に成立。保守派からの反対論は特に出なかった[17]

戦後には家制度が憲法24条等に反するとして、「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律第74号、昭和22年4月19日施行)により、日本国憲法の施行(1947年5月3日)を以って廃止された。牧野英一らの強い主張もあり「家族の扶養義務」などの形で一部残されたが(民法877条)、戦後の改正民法が当時の社会事実としての家制度や、道徳上の家庭生活を否定し積極的に破壊する趣旨に出たわけではなく、法律上の家制度を廃止することで道徳・人情・経済に委ねた趣旨を表すものであり、同時施行された家事審判法(2013年廃止)の第1条が「家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする」としていたのと同趣旨だとも説明されている[18]。一方で、法律上の家制度が解体された以上、道徳上のそれも解体されるべきという主張も、主に進歩派を自認する論者によって有力に唱えられている[19]
現民法との関係

現民法の夫婦同氏規定を家制度の名残とみて、選択的夫婦別氏(姓)制を導入すべきという主張がある[20][21]。戸籍制度にも同様の議論がある[21]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 旧民法が効力を持っていた戦前期(及び2021年現在でも各家庭・地域によっては)「家系の祭祀」を継ぐことが名誉ある責務と考えていたため、この規定が定められていた。

出典^ 中村清彦「我国の家政と民法(三)」『日本之法律』4巻8号、博文館、1892年
^ 村上一博「『日本之法律』にみる法典論争関係記事(4)」『法律論叢』第81巻第6号、明治大学法律研究所、2009年3月、289-350頁、.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISSN 03895947、NAID 120001941063。


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