戦術
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そのために彼の著書『戦争概論』においてはいくつかの原則が示されている[15]

戦略的な判断に基づいて、主力を勝敗を左右する重大な地点である決勝点に機動し、敵の後方連絡線を圧迫する

大規模な味方をもって小規模な敵と戦闘するように機動する

戦術的な判断に基づいて、主力を決勝点または撃破する要点へ志向させる

全ての味方に同時的に戦果を生み出すように効率的に運用する

クラウゼヴィッツ「戦争論」も参照

また同時代の軍事学者カール・フォン・クラウゼヴィッツは戦いの原則の存在をめぐる論争において、否定の立場にたっていた。しかし彼の著書『戦争論』は現代でも評価されている優れた軍事理論の古典であり、戦いの原理につながる理論や概念を論じている。ここでは戦術における戦いの原理に関連する理論・考察の一部と現代でも用いられるクラウゼヴィッツの論じた概念について簡単に述べる[16]

防御は攻撃よりも強い形態である

勝利は敵の物的・精神的な戦闘力の破壊であり、これは追撃の段階で急速かつ強固に達成される

迂回機動は味方の後方連絡線が優勢である場合に成り立つ

あらゆる攻撃は前進することによって弱化する(攻勢極限点

勝利によって得られる成果はある一点を過ぎると逓増から逓減に変わる(勝敗分岐点

戦場において一般的に情報の不確実性・混乱が生じる(戦場の霧

戦場において一般的に計画と実施の齟齬が生じる(摩擦

フラー

英国陸軍軍人のジョン・フレデリック・チャールズ・フラーはこれまでの軍事研究と戦史研究を通じて、陸戦の原則を以下のように要約した。この原則は若干の差異はあるものの各国陸軍の教範類にも影響を与えている[17]

目標の原則 - 目標の明確化と一貫性

統一の原則 - 部隊の指揮統制の一元性を保持する

主導の原則 - 先動・先制によって戦闘の主導権を確保する

集中の原則 - 敵弱点への味方戦力を一点集中する

奇襲の原則 - 意外性を伴う行動をする

機動の原則 - 機動を先制する

経済の原則 - 戦力を徹底して節約する

簡明の原則 - 目標・計画・行動の簡明さを保つ

警戒の原則 - 敵への準備・即応対処を準備する

しかしアメリカ軍では物量の原則(飽和攻撃)、イギリス軍では運用の原則、ソビエト連邦軍では殲滅の原則が加えられている場合もあり、一様ではない。
兵科

兵科とはそれぞれの部隊が持つ専門分野であり、戦闘兵科、戦闘支援兵科、後方支援兵科に大別される。ここでは戦術的に重要な兵科について簡単に説明する。
歩兵

歩兵は主に小銃などの携帯火器を装備し、徒歩の移動手段を持ち、近接戦闘の能力を持つ兵科であり、地域の占領を行うことが出来る唯一の兵科である。あらゆる地形や状況において柔軟に運用を行うことが出来る。しかし個々の兵員が主体であるために防護性は低い。またその基本的な部隊・装備・運用の差異から軽歩兵部隊・機械化歩兵部隊・空挺部隊などに分類でき、機械化歩兵は装甲車での移動、空挺部隊は航空機での移動能力を持つ。責任交戦距離は0メートルから500メートル程度であり、自動車化された部隊の機動速度は平均して時速18キロメートルである[18]
機甲

機甲は主に火砲・装甲を併せ持って履帯機動を行う戦車を装備し、高度な打撃力を有する兵科である。防護性が高く、不整地突破の能力と高速機動の能力を以って突破・包囲においては打撃部隊の役割を果たす。責任交戦距離は0メートルから2500メートル程度であり、機動速度は平均して時速18キロメートルである[18]
砲兵

砲兵は主に火砲ミサイルなどを装備し、砲迫火力を以って高度かつ連続的な火力を有する兵科である。戦闘においては対象地域の敵の妨害・制圧・破壊を行う火力部隊の役割を果たす。責任交戦距離は、迫撃砲は500メートルから3500メートル、軽砲は3500メートルから10000メートル、重砲・戦術ミサイルは10000メートルから40000メートルである[19]
戦闘陣

戦闘陣(Combat formation)とは戦闘部隊は組織的な連携を維持しながら作戦するための部隊の態勢である。基本的な戦闘陣には横隊縦隊がある。横隊は戦闘正面を横に広く持つように部隊が展開する戦闘陣であり、火力を最大限に発揮するために基本的な攻撃・防御の際の戦闘陣として採られる。しかし部隊が幅広く展開すると機動速度が低下し、相互の連携が悪化しやすい。縦隊は戦闘正面をある程度限定した縦深性を持つ戦闘陣である。配置換えが容易であり、移動するための戦闘陣として採られる。

また、古代 - 近世にしばしば採られた戦闘陣として、劣勢の攻撃で採る斜行陣・鈎形陣、劣勢の防御で採る円陣などがある。斜行陣は片翼だけに戦力を集中的に配する戦闘陣である。鈎形陣は横隊の一翼に縦隊の部隊を配する戦闘陣である。円陣は全方位に対する警戒と防御を行う円形の戦闘陣である[20]
部隊行動
攻撃

攻撃(Attack)は積極的に敵を求めてこれを撃退・撃破・撃滅[21]する戦闘行動である。準備時間によって応急攻撃・周密攻撃、形態によって戦果拡張・追撃、機動方式によって迂回・包囲・突破、時間によって昼間攻撃・夜間攻撃・黎明攻撃・薄暮攻撃などに区分される(攻撃を参照)[22]。攻撃はその役割から主攻と助攻があり、主攻は主力によって行われる攻撃であり、助攻は支隊によって行われる主力を支援するための攻撃である。攻撃の基本は突撃にある。突撃とは正面攻撃であり、敵戦力に接近して火力を以って攻撃して攪乱し、撃退・撃破・無力化することを目的として行う攻撃である。これに引き続いて突破機動が行われる。
防御

防御(Defense)は敵の攻撃を破砕して時間的猶予を得る戦闘行動である。攻撃に耐えるだけではなく、戦機を捉えて攻撃転移を行い、逆襲で敵を撃退させることが一般的である。形態によって陣地防御・機動防御がある。陣地防御は敵戦力が攻撃してくる前に地形を活用した部隊配備を行い、一部は築城を行い、銃座を設け、武器弾薬を準備しておき、敵戦力の攻撃を迎え撃つ防御である。また陣地防御において、位置的な優位を確保するために築城を行い、戦闘陣地を築くことは非常に重要である。陣地を構築すれば、兵士の身体を隠蔽、掩蔽し、より安全に戦闘を遂行することができる。さらに、同時にそれぞれの射撃地点を効果的に攻撃できるように、射撃区域を設定した上で設置しなければならない。機動防御とは固定的に部隊を配置するのではなく、敵戦力の不利な状況において適時適所に部隊を機動させて側面を攻撃し、動きの中で敵の攻撃を破砕する防御の基本である(防御を参照)[23]
後退

後退とは現状を改善、もしくは状況の悪化を阻止することを目的として後方に移動、または敵戦力から離れることである。後退行動は遅滞、離脱、離隔に三分されている。遅滞は戦力が充足していない場合に敵戦力を誘導することであり、離脱は陣地を修正して部隊を再配置することであり、離隔は接敵していない部隊を後方へ移動させることである(後退を参照)[23]
その他

主力と支隊は部隊の規模的な役割であり、支隊は主力から離れて別動隊として行動する。行軍(March)とは部隊が自らの機動力で移動することであり、しばしば矢印で記される。行軍はその警戒度にあわせて機動速度や部隊の隊形を変換する。宿営(Camp)とは人員がその場に留まって休養をとることであり、全方位に対する防御を準備して円陣を採る。延翼とは部隊の翼を広げて敵の包囲や迂回を防ぐことである。増援(Reinforcement)とは戦闘中の部隊に対して増援・救援・態勢逆転を行うことである[24]伏撃とは敵戦力に対して待ち伏せを行う攻撃である。伏撃を行う場合は、敵を組織的に誘致する必要がある。これには陽動・陽攻などによって実施される。ただしこれは敵も自由意志と思考力を有するために実現はしばしば困難である。伏撃を成功させるためには秘密保全がなにより重大であり、敵に事前に察知されることのないようにしなければならない。伏撃を行った場合、速やかに敵戦力を集中的に攻撃し、壊滅的な損害を与え、逆襲の余裕を奪う(待ち伏せを参照)[25]。攻撃転移は防御から攻撃への部隊行動の転換、防御転移は攻撃から防御への部隊行動の転換を言う。
戦術と情報
情報収集

戦闘も情報戦の側面を強く持つ。情報戦とは情報を巡る戦いであり、戦闘においても情報戦は重要である。情報戦は米国国防大学によって指揮統制戦、電子戦、心理戦、ハッカー戦、諜報基盤戦、経済情報戦、サイバー戦に分類されているが、戦術的な局面においては特に指揮統制戦、電子戦、心理戦が重要である。戦場で主要な情報収集の手段となるのは、参謀本部から下りてくる情報と戦場における下級部隊からの報告になる。戦闘での必要となる情報は主に地形に関する情報と敵情に関する情報である。しかし地形についての情報が完全に掌握できるとは限らず、加えて敵情については戦端が開かれると敵情は極めて流動的なものとなり、敵情の把握は断片化していく。軍事学においてこれは戦場の霧という概念で説明されており、指揮官は不完全な情報で戦術を実行せざるをえない[3]
情報処理

情報処理の過程では大別して情報整理・分析・総合・結論の過程を経る。

なお、短時間での判断が必要な局面では勘により処理・補足される事も多い。

まず最初の過程である情報整理の対象となる情報は与えられた任務、地域の特性、敵情などである。情報収集によって得られた情報を運用して相互に根拠付け・関連付けを行う。不完全な情報しか得られない場合にはしばしば設想が行われる。設想とは論理的な思考を助けるために一時的に設けられる根拠が伴った仮定であり、敵情が判明すれば徐々に取り払われる。

分析の過程においてはまず任務分析が行われる。任務分析とは与えられた任務の内容を吟味して達成すべき目標を明確化することである。さらに地域の特性の分析においては任務分析で判明した目標を達成するために必要な作戦地域の地形と緊要地形の情報が整理され注意される。


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