戦略爆撃
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第二次世界大戦において、都市以外を主目標とした戦略爆撃もあり、欧州では1943年5月にドイツのルール工業地帯に電力を供給するダムを破壊したチャスタイズ作戦、同年8月のルーマニアプロイェシュティ油田爆撃(タイダルウェーブ作戦)、日本では1944年11月の東京西部中島飛行機武蔵製作所(主力航空機のエンジン生産工場)爆撃などがある。

1943年以降、ドイツ本土爆撃に際し、アメリカ陸軍航空軍は、市街地を避け軍事施設を狙う、昼間精密爆撃に固執した。これは精密な照準機を保有していた事とイギリス空軍の爆撃機よりも防御火力が多かったことによるものである。ただし、初期においては全行程随伴可能な護衛戦闘機が無く、ドイツ空軍の迎撃で大損害を出した。第二次世界大戦において最も多くの損害を出したアメリカ軍はドイツ爆撃を行った部隊ともいわれている。一方、イギリス空軍は防御火力の不足と精密照準機を保有していなかった事から、主に夜間都市爆撃を行った。これは、バトル・オブ・ブリテンにおいて、自国の首都ロンドンをはじめ各都市への爆撃の報復と考えられる。

1945年にバーナード・ブロディは後に著作『絶対兵器』に収録された「原子爆弾とアメリカの安全保障」という表題の論文を発表し、抑止の概念を戦略理論を考える上で使用することを推奨している。そして戦略爆撃の理論は軍事力を理性を超えて使用しようとする19世紀から20世紀にかけての戦略思想の傾向を反映したものであり、破壊的な結果しかもたらさないと批判した。ラインバッカーII作戦に従事してベトナムに爆弾を投下するB-52D

大戦後も、朝鮮戦争におけるアメリカ軍による空襲、ベトナム戦争における北爆イラン・イラク戦争におけるイラク軍によるミサイル攻撃、湾岸戦争におけるイラク軍によるミサイル攻撃、コソボ紛争におけるセルビア空襲イラク戦争におけるアメリカ軍による空襲など戦略爆撃は実施されている。

戦略爆撃の研究はしばらくその後の冷戦の中で重要視されなくなっていた。かわりに航空戦力の機動力を活用して対ゲリラ作戦やエアランドバトルのような陸上での機動戦との連繋を想定した軍事教義の開発に注目が集まっていた。そのような研究動向の中で1988年にジョン・ワーデンは従来の戦略爆撃の問題点を踏まえながら新しい戦略爆撃の理論を著作『航空作戦』で示した。ワーデンはクラウゼヴィッツ重心の概念を導入し、国家を身体機能との比較から5種類の機能から構成される有機的組織として捉えた。それは国家にとって神経系に該当する政治や通信などの中枢機能、経済やエネルギーを供給する公共インフラなどの主要機能、一部を損傷しても回復可能な道路や工場などの下部機能、そして栄養を運搬する住である全個体群、そして軍隊や警察などの戦闘組織の五つから構成される。ワーデンは国家を戦略的麻痺に陥らせるためには五つの機能に対して平行攻撃を行うことを主張している。またその方法も敵の防空レーダーに捕捉されにくいステルス爆撃機、遠距離から目標を破壊できる精密誘導兵器、そして各部隊の連携を調整する指揮機能を重視している。

このような戦略爆撃の理論は湾岸戦争において実践され、ウォーデンは対イラク航空作戦計画を立案し、いくつかの目標に対して同時並行的に集中攻撃を加える計画を作成した。この作戦計画は砂漠の嵐作戦で実行され、開始と同時に使用可能な航空戦力がすべて投入され、10分後にイラク軍の指揮通信機能を停止させ、数時間後にほぼ全ての主要通信施設を破壊することに成功した。

絨毯爆撃による攻撃方法は、国際法の観点ではハーグ陸戦条約付属書第一章の「軍事目的主義」に明白に違反しており、またジュネーブ諸条約第一追加議定書52条2項[注釈 1][注釈 2]において攻撃の軍事目標主義が再度確認されており、「目的区域爆撃」や「絨毯爆撃」方式は国際的に禁止される形勢にある。現代ではレーダーサイトなどの軍事施設攻撃にせよ部隊集積地攻撃にせよ、精密爆撃なり誘導弾攻撃が中心であり絨毯爆撃方式は放棄される傾向にある。但し攻撃方法の研究や武器の開発、無差別爆撃機の保有を禁止するものではない(「使用」の違法化)。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 52条2項「攻撃は、厳格に軍事目標に対するものに限定する。軍事目標は、物については、その性質、位置、用途又は使用が軍事活動に効果的に資する物であってその全面的又は部分的な破壊、奪取又は無効化がその時点における状況において明確な軍事的利益をもたらすものに限る。」
^ この議定書にアメリカ、インドインドネシアイランイスラエルマレーシアパキスタンフィリピントルコなど24カ国は参加していない。外務省ジュネーヴ諸条約及び追加議定書[1]

出典^ 三浦俊彦『戦争論理学 あの原爆投下を考える62問』二見書房21頁
^ a b 「Engineers of Victory」Paul Kennedy p106
^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで59、233頁
^ 荒井信一『空爆の歴史―終わらない大量虐殺』岩波新書9-10頁
^ a b 松村(2002年)、147-150頁
^ 松村(2002年)、146頁
^ 『戦争における「人殺し」の心理学』 著 Dave Grossman、訳 安原和見、筑摩書房、2004年、ISBN 4-480-08859-8
^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで57頁
^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書2頁
^ a b 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書3頁
^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで59-60頁
^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書5頁
^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書12頁
^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書13頁
^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書13-14頁
^ 荒井信一『空爆の歴史』岩波新書14頁
^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで233頁
^ 戦史叢書52陸軍航空の軍備と運用(1)昭和十三年初期まで373頁
^ 「Engineers of Victory」Paul Kennedy p106p107

参考文献.mw-parser-output .ambox{border:1px solid #a2a9b1;border-left:10px solid #36c;background-color:#fbfbfb;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .ambox+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+link+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+style+.ambox,.mw-parser-output .ambox+.mw-empty-elt+link+link+.ambox{margin-top:-1px}html body.mediawiki .mw-parser-output .ambox.mbox-small-left{margin:4px 1em 4px 0;overflow:hidden;width:238px;border-collapse:collapse;font-size:88%;line-height:1.25em}.mw-parser-output .ambox-speedy{border-left:10px solid #b32424;background-color:#fee7e6}.mw-parser-output .ambox-delete{border-left:10px solid #b32424}.mw-parser-output .ambox-content{border-left:10px solid #f28500}.mw-parser-output .ambox-style{border-left:10px solid #fc3}.mw-parser-output .ambox-move{border-left:10px solid #9932cc}.mw-parser-output .ambox-protection{border-left:10px solid #a2a9b1}.mw-parser-output .ambox .mbox-text{border:none;padding:0.25em 0.5em;width:100%;font-size:90%}.mw-parser-output .ambox .mbox-image{border:none;padding:2px 0 2px 0.5em;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-imageright{border:none;padding:2px 0.5em 2px 0;text-align:center}.mw-parser-output .ambox .mbox-empty-cell{border:none;padding:0;width:1px}.mw-parser-output .ambox .mbox-image-div{width:52px}html.client-js body.skin-minerva .mw-parser-output .mbox-text-span{margin-left:23px!important}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .ambox{margin:0 10%}}

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小川修「現代の航空戦力」 防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』かや書房、1999年、pp.195-212.

ロナルド・シェイファー『アメリカの日本空襲にモラルはあったか 戦略爆撃の道義的問題』 深田民生訳 草思社 2007年 ISBN 978-4-7942-1602-1

Cross, R. 1987. The bombers. New York: Macmillan.

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Kennett, L. B. 1982. A history of strategic bombardment. New York: Scribner's.

Knight, M. 1989. Strategic offensive air operations. London: Brassey's.

Murphy, P. J. 1984. The Soviet air forces. Jefferson, N.C.: McFarland.


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