戦う民主主義
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戦う民主主義(たたかうみんしゅしゅぎ、: Streitbare Demokratie, : Defensive democracy、防衛的民主制(度))とは、戦後の(西)ドイツ連邦共和国基本法(ドイツ憲法)などで規定された、自由民主制度を破壊しようとする自由の敵には無制限の自由は認めないという理念に基づいた民主制であり、共産主義(コミュニズム、マルクスレーニン主義)やファシズムなど自由民主制を否定する言動への自由・権利までは認めない[1][2]。防衛的民主制国家の例として、(西)ドイツ(1990年10月2日に東ドイツを吸収し、ドイツ連邦共和国)は1956年憲法違反としてドイツ共産党を解散させている[1][2]
概要

民主主義とは国民の意思決定によって国政を運営する政治体制である。そしてその体制を維持するためには国民に思想の自由言論の自由表現の自由を保障することが不可欠である。

しかし国民が自ら自由を放擲し、民主主義的手続きに基づいて、民主主義を廃止する意思決定(自由からの逃走)を行った場合はどうなるのか。この場合「民主主義体制の自殺」ということになり、独裁などが成立するおそれがある。そこで「民主主義体制を覆す自由を制限し、国民に民主主義体制の維持を誓約させる」という安全策を採ることが考えられる。このように民主主義に沿った手続きで民主主義体制を覆そうというものから民主主義体制を守るという考えが「戦う民主主義」である。これは、寛容を是とする伝統的なリベラリズムにおいて、「人はすべての場合に寛容であるべきというわけではなく、不寛容な者には不寛容であるべき」であり「不寛容なものに対しては寛容に変わることを要求する」とする考えが認められていることとも対応する[3]

しかし「民主主義」をどう解釈するかは一義的に決められるものではなく、場合によっては権力者(多数派政党など)によって濫用され、表現の自由が侵されるおそれがあり、また仮に国民が非民主的価値を受け入れた場合、国民の決定を否定するならそれこそ「民主主義体制の自殺」ではないのかという立場や、特定の価値に優劣をつかないという価値相対的な立場からも反対がされ、採用している国は多くない。

なお、世界人権宣言第29条の2は「自己の権利及び自由を行使するに当たって、民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱらの目的とする法の制限に服する」こと、第30条は「この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊することを目的とする活動や行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。」と明記している。また市民的及び政治的権利に関する国際規約第5条も「この規約のいかなる規定も、国、集団又は個人が、この規約において認められる権利及び自由を破壊(中略)することを目的とする活動に従事し又はそのようなことを目的とする行為を行う権利を有することを意味するものと解することはできない。」と定めている。わかりやすく表現すると「他人の自由や権利を否定しまた破壊する権利は誰にもなく、そのような自由も認められない」ということである。
旧枢軸国の例
ドイツ「ナチ党の権力掌握」および「ドイツ連邦共和国基本法」も参照ベルリンのヤーコプ・カイザー・ハウスにあるドイツ連邦共和国基本法第1章「基本権」の条文の銘板。画面手前2枚目の石碑には「戦う民主主義」の理念が現れた基本法第18条の条文が刻まれている。

ドイツは「戦う民主主義」を標榜している国の代表的な例とされる。ヴァイマル共和政時代末期のナチ党権力を握ると、ヴァイマル憲法第48条(大統領緊急令規定)に基づいて発した「民族と国家の保護のための大統領令」(1933年2月29日発令)によって、同憲法の基本的人権保護規定を無効化し、各種工作の結果、憲法の上位に立つ全権委任法を制定させ、ヴァイマル憲法を死文化、独裁体制を確立した[4]

この過程は、ヴァイマル憲法のシステムを悪用したものであり[5]第二次世界大戦後に問題になった。敗戦後の1949年、西側連合国占領地域において設立されたドイツ連邦共和国(西ドイツ)では、こうした事態を防ぐために「戦う民主主義」の概念が生まれた。

この概念を生み出したのは、ナチス時代に非アーリア人として弾圧されてアメリカ合衆国亡命し、戦後は基本法制定に参加した憲法学者のカール・レーヴェンシュタイン(英語版)である[6]

現行の事実上の憲法であるドイツ連邦共和国基本法(ボン基本法)自体には、概念は明文化されていないが[6]、1956年の連邦憲法裁判所判決[注釈 1]が示すとおり、基本法制定者の思考の基盤となっている[6]

人間の尊厳の不可侵(基本法第1条)と、民主主義体制(基本法第20条)を明記した憲法を擁護する義務を、政治家を含めた全国民に課す(憲法への忠誠。基本法5条3項ほか)。

憲法秩序に反する団体は、禁止される(基本法9条2項)[6]


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