成層圏
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しかし彼は太陽放射を受けて温度が上がったのではないかと測定結果を疑ったため、科学アカデミーへの報告では高度13 kmで-71℃に気温を下げる補正を行った[2]

彼は1899年1月8日の夜間の観測でも上層で等温層を観測した。彼は測定器カバーからの放射を疑い、温度計をカバーの外に移した。それでも結果は変わらずやはり等温層を観測した[3]。彼は同時に複数個の気球を上げて、確認のための比較観測を行ったりもした[4]

テスラン・ド・ボールの紙製の気球は安価で観測頻度を稼ぐことができた。それにまだゴム製の気球がない時代に、彼の軽い紙製の気球は比較的高い高度まで容易に達することができた。彼が1902年までにパリで行った観測では、236個が高度11 km以上に達し、そのうち74個が高度14 km以上に達した。彼は数多くの観測と注意深い確認により、等温層を観測の誤りや一時的な現象ではなく、実在する定常的な現象であると考えた[5]。彼は1902年4月28日のパリの科学アカデミーの会合で、この等温層の発見を2ページの文書で報告した(フランス中央気象台長官マスカールが代読したことになっている)[6]

一方、ドイツの気象学者リヒャルト・アスマンは1900年ころにはドイツのゴム会社と共同で薄くて軽くよく伸びるゴム製気球を開発した。しかし、ゴムの性能のためか当初は高度15?16 kmで破裂して、それ以上の高度にはなかなか上がれなかった。それでも定積気球よりは高度10 km以上まで安定して観測できた。後年には改良されて高度30 km程度まで上昇できるようになった。

アスマンは1901年の4月から11月まで、ベルリンでゴム製の探測気球を用いて6回の高層気象観測を行い、それらは高度12?17 kmまで達した。そして1902年5月1日のベルリンの科学アカデミーの会合において、高度10 km以上で気温減率が急速にゆっくりとなって等温層に達するかむしろ昇温が起こっており、高度10 kmから12 kmより高い高度で暖かい大気の流れがあることは疑いようがないことを示した[7]。また、その際には彼はテスラン・ド・ボールがパリで200回以上の観測を行っていることを示し、アスマンはテスラン・ド・ボールの観測も同じような結果を示していることを付け加えた[7]

テスラン・ド・ボールとアスマンの発表によって、上空で気温の下降が止まることが研究者たちに明確に意識され始めた。テスラン・ド・ボールとそれを支持するアスマンの結果は、各国の科学者が集まった1902年5月20日のベルリンでの第3回「科学航空国際委員会(the International Committee for Scientific Aeronautics)」の会合で発表された[8]。その後、この説は各国で広まった。

テスラン・ド・ボールの報告がアスマンの発表よりわずかに早かったことと、アスマンがテスラン・ド・ボールの結果を自分の結果の支持に使ったことから、成層圏の発見をテスラン・ド・ボールの功績に帰している著作物が多いようである。しかし、テスラン・ド・ボールのわずか2ページの文書による報告より、実際の観測データを示したアスマンの論文[7]の方が説得力があるように思える[誰?]。ただ、テスラン・ド・ボールとアスマンの二人の功績と記しているもの少なくなく[3]、国の威信をかけた思惑もあってか成層圏の発見者に関する記述は統一されていない[9]。なお、6月8日を「成層圏発見の日」としているウェブサイトがあるが、その根拠は不明である。

成層圏の発見は、地球が球状の層状構造を持っているという考え方の発端になった。それによって大気だけでなく、海洋のエクマン層や陸域のモホロビチッチの不連続面の発見など地球科学の発展にも影響を及ぼしたと考えられている[10]
脚注[脚注の使い方]^ a b c 超高層大気 理科年表オフィシャルサイト
^ Ohring, George (1964-01-01). “a most surprising discovery”. Bulletin of the American Meteorological Society 45 (1): 12-14. doi:10.1175/1520-0477-45.1.12. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISSN 0003-0007. https://doi.org/10.1175/1520-0477-45.1.12. 
^ a b Klaus, Hoinka (1997). “The tropopause: discovery, definition and demarcation”. Meteorologische Zeitschrift 8: 43-46. 
^ “Teisserenc De Bort, Leon Philippe 。Encyclopedia.com”. www.encyclopedia.com. 2020年9月20日閲覧。
^ “気象学と気象予報の発達史: 高層気象観測の始まりと成層圏の発見(8) テスラン・ド・ボールによる発見”. 気象学と気象予報の発達史 (2019年3月2日). 2020年9月20日閲覧。
^ “気象学と気象予報の発達史: 高層気象観測の始まりと成層圏の発見(8) テスラン・ド・ボールによる発見”. 気象学と気象予報の発達史 (2019年3月2日). 2020年9月20日閲覧。
^ a b c Assmann, Richart (1902-06-30). “Uber die Existenz eines warmeren Luftstromes in der Hohe von 10 bis 15 km”. Sitzber. Konigl. Preuss. Akad. Wiss, Berlin 24 (29). 
^ ROTCH, A. L. (1902-08-22). “THE INTERNATIONAL AERONAUTICAL CONGRESS”. Science 16 (399): 296-301. doi:10.1126/science.16.399.296. ISSN 0036-8075. https://doi.org/10.1126/science.16.399.296. 
^ “気象学と気象予報の発達史: 高層気象観測の始まりと成層圏の発見(10) 成層圏存在の認知”. 気象学と気象予報の発達史 (2019年3月6日). 2020年9月20日閲覧。
^ “気象学と気象予報の発達史: 高層気象観測の始まりと成層圏の発見(12)成層圏発見の意義”. 気象学と気象予報の発達史 (2019年3月11日). 2020年10月18日閲覧。

関連項目

オゾン層

成層圏突然昇温(SSW)

成層圏準2年周期振動(QBO)

ブリューワー・ドブソン循環 - 成層圏の大気循環。

極渦 - 両極上空の成層圏にできる大低気圧。

真珠母雲(極成層圏雲) - 高度20〜30km付近の成層圏にできる雲。

成層圏プラットフォーム

高高度気球

スペースバルーン


超音速機 - 成層圏を飛行することが多い。










大気循環と大気変動・大気海洋相互作用
対流圏

循環

極循環

極東風


フェレル循環

偏西風


ハドレー循環

貿易風


ウォーカー循環

気圧帯

極高圧帯

亜寒帯低圧帯

亜熱帯高圧帯

熱帯収束帯

局地循環

季節風循環

海陸風循環

山谷風循環

気圧変動・
遠隔相関

エルニーニョ・南方振動

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MJO

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