日本の鉄道では明治時代以来、ウォルサムなどの輸入懐中時計を職員に貸与していたが、1929年に精工舎(セイコー)製「セイコー19型鉄道懐中時計」が、当時国産品採用を推進していた鉄道省から、国産懐中時計としては初めて制式採用された。「19セイコー」と通称される本品は、途中1978年にクオーツ式に移行しながらも21世紀現在まで日本国有鉄道・JRグループを通じ標準採用されている。なお戦後はシチズン時計製の同級懐中時計を用いる私鉄も現れている。ただし21世紀には腕時計の普及もあって、腕時計を携帯し鉄道時計は持たない運転士や、据え置き型時計を運転台に置く運転士も多い。路線バス乗務員も同様。
病院では、看護師が脈の測定などの際に時間を見るナースウォッチとして使われる。腕時計は腕が何かに引っかかったり手洗い時に手首まで完全に洗浄できず、バンド部分の下などが感染源になり得るため着用は避けてナースウォッチを付属のピンやクリップで白衣の胸ポケットや防護衣に留めて使用する。時計を持ち上げて見る際に見やすいように、普通の懐中時計と違って6時の部分にチェーンが取り付けられている(上下が逆になっている)。また、文字盤には簡易脈拍計の目盛が刻まれているものも多い。これは15拍(あるいは30拍)の時間から1分間の脈拍数に変換する計算尺である。ストップウォッチ式になっているものもある。同様に、D-MAT要員が出動する際は、秒針付きの腕時計が必携になっている。
料理人の場合、腕時計では調理中に手首に水が掛かることが多いため懐中時計を用いることが多い。学芸員やアーキビストも腕時計が資料を破損する恐れがあるため、懐中時計の使用者が多い。サウンドクリエーターの中でも、近年は殆ど見られず少数ではあるがPA卓に置いて用いる人がある(ストップウォッチと六十進計算可能な電卓が組み込まれた「セイコー・サウンドプロデューサー」は有名)。
芥川龍之介賞と直木三十五賞受賞者には、1935年の第1回から正賞として懐中時計が贈られてきた。時計の入手が困難になった戦時中は、壺や花瓶などが代わりに用いられた。メーカーは時代によってロンジン、オメガ、セイコーなどと変わり、現在は裏蓋に受賞者名が入った銀座和光の懐中時計になっている(文藝春秋特別編集『芥川賞・直木賞150回全記録』文春ムック)。 一般的な男性の携行(着用)方法としては三つ揃えのスーツの場合、ベストのポケットに時計を納めボタンホールに鎖(ウオッチチェーン、フォブチェーン)を留めて用いる。鎖の種類、またかけ方は何通りもある。ベストを着用しない場合は、トラウザーズ(ズボン)のフォブポケット(懐中時計用ポケット)に入れる。この場合、短いフォブチェーンを付けどこにも留めず垂らすのが正式である(使う時はチェーンで引き出し、顔の前に時計を下げて読み取る)。またジャケット(上着)の襟のフラワーホール(ラペルホール)に鎖を止め、ジャケットの胸ポケットに収める場合もある。この場合も専用のラペルウォッチチェーンを用いる。 鎖が二つに分かれていて「小鎖」が付属している物があるが、これは鍵で時間を調整する「鍵巻式」懐中時計の鍵を取り付けるための鎖だった。現在はウォッチフォブというペンダントのような装身具を取り付ける用途に使われている。 和装の場合、金属の鎖もしくは絹製の組紐をつけ帯に挟むのが普通である。
着用方法
ピン・バー
一文字の棒になっており、釦穴に掛け、ポケットに収納するタイプ。
ボタン
ボタンが着いており、釦穴に掛けてポケットに収納するタイプ。ピン・バーと用途が似ている。
クリップ
ベルトに掛けズボンのポケットに収納するタイプ。骨董品は薄いベルトに掛けるように出来ているのでクリップを厚くする必要がある。ズボンのポケットにしまうには15cm程度の長さが必要。
引き輪
ベルトループやジャケットの内ポケットの釦穴、ボタンの裏側、力ボタン(ボタンの裏側のボタン)に取り付け、胸ポケットや内側のポケットに収納するタイプ。鎖自身に引き輪を通す事で長さ調整が出来る。
ベストからバーの端が見えている状態(1864年のエイブラハム・リンカーン)。
ベストの穴にチェーンを通している状態(1904年の自由党庶民院議員ウィンストン・チャーチル)。
ベストの穴にチェーンを通している状態。比較的高めの位置に通している(1943年5月、Vサインを掲げるイギリス首相ウィンストン・チャーチル)。
ベストのボタン穴にチェーンを通していない状態(1924年、成婚直後の皇太子裕仁親王=左=と同妃良子女王)。
ベストのボタン穴に複数のチェーンを通している状態(箱館戦争時の土方歳三)。
ベストのボタン穴に通して下に垂らすシングルアルバートチェーン(洋装の岩倉具視)。
アルバート公。「プリンス・アルバート・コート」とも呼ばれるフロックコートを着たアルバート公が、アルバート・チェーンと呼ばれる時計鎖を用いている。
主なブランド
インターナショナル・ウォッチ・カンパニー(IWC)
アエロ
イリノイ
ウォルサム
エポス
エルジン
オメガ
オリエント時計
オレオール
シチズン
セイコー
ティソ
ティモール
ベンソン
ラポート
ロンジン
モンディーン(モンデイン)
脚注[脚注の使い方]
出典^ “懐中時計とは”. 正美堂時計店. 2021年8月10日閲覧。
^ 将棋の渡辺くん一巻より
^ https://arrowslife.fcnt.com/magazine/20210517.html
^ https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/yajiuma/1403848.html
^ 東京メトロ駅の謎の標示「無」「0:25」何を伝えてる? 本領発揮の「裏の顔」があった(2/3)乗りものニュース2021年1月4日
関連項目
時計
腕時計
商館時計
有楽町センタービル(マリオン) - 懐中時計型のからくり時計「マリオンクロック」がある商業施設
典拠管理データベース: 国立図書館
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