懐中時計
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懐中時計の歴史の中では自動巻き式(振動を加える事により内蔵された錘が回転しぜんまいが自然と巻き上げられる)も発明されているが、懐中時計を振りながら持ち歩くことは基本的にないため、機構としては存在意義があまりなく、ごく短い期間もてはやされた珍品に終わった。現在でも自動巻きの懐中時計が存在しないわけではないが、ごく少数の製品に限られる。現在生産されている自動巻き懐中時計が存在する理由は、多機能型のムーブメントを腕時計用のものから流用しているために自動巻き機能も備わっている(多機能一体型のムーブメントから自動巻機構だけを除くことはできない)、というのが基本的な理由である。
クォーツ式
ボタン電池により動作させる。電池は数年に一度交換する必要があるが、最近は約10年寿命のリチウム電池内蔵品もある。クォーツ式(電池作動式)の利点として、電波時計の機構を組み込むことができる、ということがある。2010年代の現在、製造されているものは少ないが、電波時計対応のアナログ式懐中時計も販売されている。

機械式は現代では趣味・コレクション的要素が強い。機械式のムーブメントならではの「コチコチ」という作動音や、文字盤や裏蓋を透明の素材にすることで作動機構を直に眺めることができるスケルトン式を好み(クォーツ式をスケルトンにできないわけではないが、ムーブメントの動作を眺める、という点では面白みには欠ける)、あえて機械式を利用する愛好者も多い。
懐中時計の現状

戦後、一般的には利便性のより高い腕時計に携帯時計市場をほぼ独占されてはいるものの、その一方で現在でも世界中で製造されており、時計生産大国であるスイスでは、小さな工房での手作り懐中時計産業も健在である。バーゼル地方で開かれる世界的な時計市、バーゼル・フェアには、今なお世界の懐中時計商が集っている。

外装の材質は真鍮ステンレスなどの金属製のものが多いが、製や製といった貴金属を使用したものやまた蓋や裏蓋に彫刻がされているなど装飾品としての価値があるものもある。

懐中時計はその歴史が古いため、おおむね戦前アンティーク品や古くからの有名時計ブランドの高級品、その他ムーブメントや彫刻を楽しむ等々、懐中時計のコレクション(蒐集・鑑賞)を趣味としている者も世界中に数多く居る。

また「ポケットウォッチスタンド」という懐中時計を置時計として使用するための専用スタンドも100年以上前から存在し、高級な懐中時計は置時計として使用することも古くから行われてきた。イギリスの老舗・ラポートは100年以上前から高級ポケットウォッチスタンドを販売している。腕時計の時計部分を取り外して、懐中時計のように扱う事ができるようになる時計ホルダーといった製品もある。

今日では腕時計に加えて、携帯電話・スマホ画面の時計表示にて代用する人も増えたことから、懐中時計を日常の携帯時計として使用している人口は少ない。しかし、バンドかぶれなど金属アレルギー体質や皮膚病のため腕時計どころか装身具さえ着けられない人、閉所恐怖症による締め付け感に悩む人、携帯機器を所持しない人、各種の業界関係者(下記参照)、懐古主義(アナクロニズム)の人、鉄道マニア等の中にはあえて懐中時計を日常で愛用している人も存在し、将棋棋士の渡辺明も和服と合うということで愛用している[2]

携帯電話やスマートホンを電話機能つき懐中時計と捉えれば、腕時計から懐中時計への逆行ともいえる。ただし、スマートホンやパソコンなどの電子機器は数分操作しないと時刻表示どころか画面表示そのものが消えるのが通常である。時刻を常時表示するように設定可能なスマートホンもあるが、電池寿命が短くなる旨の警告がなされる[3]。また、電子機器に常時表示される時計には秒の表示がないのが通常である。パソコンの時計に秒が通常表示されないのは、一秒ごとに処理を強いられる「秒の表示」が意外と重い処理であり、それに見合うだけの価値がないと判断された結果である[4]。そのため、時刻を素早く確認するには電子機器より懐中時計が適している。
主な用途鉄道時計の例。運転台パネル中央、メーター類と並び、両脇に照明の黄緑色LEDランプが配されている窪みの台に置かれている(時計自体に夜光はない)(JR西日本521系電車ナースウォッチ

現在、懐中時計の需要が最も高いのは鉄道で、視認性の高さや耐磁加工を施しやすい特性から、鉄道時計として職員が使用する。機関車電車等の運転台には多くの場合、計器板の中央、あるいは窓脇の時刻表立て付近に懐中時計に合わせたサイズの窪みが作りつけられており、運転士はここに自分が貸与された懐中時計を置いて、計時しながら列車を運転する。

かつては懐中時計を鉄道事業者が購入し、運転士や車掌ら鉄道職員に貸与することが世界各地の鉄道で行われ、鉄道員たちは駅や詰所に設置された標準時間を示す掛時計を定期的に確認して、懐中時計の時刻合わせを行った。ダイヤグラムに沿った定時運行(駅への停車を完了し乗降処理をし発車するまでが秒単位で決められている)[5]を励行し、安全を確保する見地からも鉄道時計の精度は重要で、特に19世紀末から20世紀前半、鉄道会社に制式品として採用されることは、時計メーカーにとって技術水準を示すステータスであり、古い時代のアメリカやスイス等のメーカーも、採用された鉄道会社を広告に列記して誇った。

日本の鉄道では明治時代以来、ウォルサムなどの輸入懐中時計を職員に貸与していたが、1929年に精工舎(セイコー)製「セイコー19型鉄道懐中時計」が、当時国産品採用を推進していた鉄道省から、国産懐中時計としては初めて制式採用された。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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