憲法
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ウォルター・バジョットのThe English Constitution(1867年)は日本語では『英国の国家構造』と翻訳されている[10]。特に歴史学者は「国制」を用いており、Verfassungsgeschichteやconstitutional historyは「国制史」という場合が多い[10]。詳細は「コンスティチューション (法学)」を参照

ヘルマン・ヘラー(Hermann Heller)は『国家学』でVerfassungを、1.事実上のもの(国家の政治的存在状態の構造)、2.規範づけられたもの(法的規範もしくは習俗・道徳・宗教によって規律されるもの)、3.成文化されたもの(文書の形式で記録されたもの)の3つに大別している[5][11]。2の意味には法的規範によって規律されるもののほか習俗・道徳・宗教によって規律されるものも含まれる[12]

カール・シュミット(Carl Schmitt)は『憲法学』(Verfassungslehre)で、実定的意味のVerfassungと、法的概念としてのVerfassungsgesetz(憲法律)の区別を強調した[13]。また、カール・シュミットは絶対的意味の憲法という概念を認めた[13]。この絶対的意味の憲法は具体的存在面と根本法的規律面にこれを大別され、前者はさらに1.特定の国家の政治的統一及び社会的秩序の具体的な総体的状態、2.政治的及び社会的秩序の特別の様式(支配の形体または国家形体)、3.政治的統一の動態的な生成の原理の3つに分類されるとした[14]
憲法に基づく統治権の信託と抵抗権

イギリスの哲学者ジョン・ロック1689年に著した「統治二論」(市民政府論)において、統治の構造を自然法論の伝統と社会契約の理論により説明している[15][16][17]

そこでは、立法権行政権などの統治権が、統治者の武力や外圧によってもたらされるのではなく、生命と財産の保障を望む被治者からの「信託」によって成立すると説いている。遡ること47年前の1642年トマス・ホッブズが「市民論」で持ち出した自然状態での「万人の万人に対する闘争」を避けるために、必然的にコモンウェルス(commonwealth)への移行が要請されることとなる。コモンウェルスの主権としては、立法権・行政権と連合権(外交権)の三権分立が挙げられ、立法権こそが基軸であるとしている。

またロックは、当時主流であった国王が立法権と執行権の両方を握る「絶対王政」を否定して、

議会が立法に携わる必要があり、議員は議会の制定した法に自ら服さなければならない

統治権者は同意なしに被治者の財産を奪えず、議会が課税同意権を基礎づける

といった点を論じているが、他方で行政権を行使する国王は、立法権への拒否権を持ち、刑罰法の執行の緩和・停止の権力を与えられるものと説いている。そのうえで行政権と立法権の双方向のチェックを期待しつつ、人民(people)による「信託」という人民主権の概念を行政府も立法府も侵害した場合に対して、ホッブズが唱えていた「抵抗権」を発展させた「革命権」を提起した。もっとも、統治権の変更を求めるような革命権の行使には相当の条件が必要ともしている。

この後、ロックの論を背景として立憲主義が発展し、「国民の信託に基づいた憲法の制定経緯」「連邦主義」「立法権など三権の分立」「抵抗権に先立つ憲法改正」「統治権者の憲法擁護義務」などを明文化した世界最初の共和政原理に基づいたアメリカ合衆国憲法が1788年に発効されている。「アメリカ合衆国憲法#アメリカ合衆国憲法の思想的背景」も参照
法的意味の憲法の多義性
形式的意味の憲法と実質的意味の憲法

19世紀後半から20世紀にかけゲオルグ・イェリネック(Georg Jellinek)などに代表される法実証主義の公法学者によって、事実的な意味での憲法概念を除く法的意味の憲法は、実質的意味の憲法と形式的意味の憲法に整理されるようになった[18]。実質的な意味の憲法と形式的な意味の憲法の区別はほぼそのまま日本の憲法学に取り入れられた[18]

形式的意味の憲法とは「憲法」という名前で呼ばれている成文の法典を意味し、実質的意味の憲法とは多くの成文法や不文法の内容として存在する国家の基礎法全体を意味する[19]。諸国にほぼ共通する現象として、実質的意味の憲法のすべてが成文化されているわけではなく、下位の法規範(法律や命令)で規定されたり、判例や憲法慣習によって補充されている[20]

実質的意味の憲法には含まれないと考えられる事項が当該国家の特殊な事情や憲法制定者の意向のもとで形式的な意味の憲法に盛り込まれることがある[20]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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