1960年代には上述したズベクによる『感覚遮断-十五年間の研究』のほか、いくつかのレビュー論文も日本あるいは国外に見られるが、1970年代は研究の停滞期となった[20]。1972年には東京にて第20回国際心理学会議の「感覚遮断に関するシンポジウム」が開催されたが、研究の活性化が話題ともなった[20]。
日本では次第に神秘主義の観点からも考察された。1965年にはインド哲学書ウパニシャッドや新プラトン主義のプロティノスにおける神秘体験と現象的にはまったく一致していると述べている研究も存在する[10]。1976年には、原始宗教における深い闇と静寂、禅師やキリスト教の聖者におけるような、神秘家の砂漠や洞窟での修行とから類似性を指摘している[11]。また1970年代の、東北大学における感覚遮断研究では、感覚遮断の体験と、修験道の修行中の変性意識状態との関連を指摘している[12]。
カナダのブリティッシュコロンビア大学のピーター・スードフェルド(英語版)は肥満や、喫煙習慣、恐怖症の治療など治療的に応用し、その研究成果をまとめ1980年に著作[15]を出版する[13]。彼は自身が怯えてしまったチャンバー方式の研究ではなく、リリーによるタンクの方式に着目するようになり、客観的な実験が行われるよう対照群を用意して研究してきた[21]。スードフェルドが述べるには、初期の研究は、刺激を制限するそのものではなくて、他の手順によって被験者を不安にさせて否定的な影響を与えてしまっていた、ということである[22]。
その後、心理療法としての研究が行われている[14]。
1990年代には、ジョン・リリーの考案したアイソレーション・タンクを用いた、日本での心理療法の研究では、他の瞑想療法などでも見られるような自己イメージの統合、親しい人と嫌いな人の主観的距離が縮まる、全体的な印象として自己・他者の関係におけるポジティブな変化が見られたとしている[23]。 多くの研究を平均して、およそ40%が、広い意味で何かを見たことを報告するが、実験手法にもよりジョン・リリーのような水槽方式では頻度が上がるとされる[6]。 その原因としてソロモンとロッシは1965年に2つの仮説を説明した[24]。 しかし、後に病理的な幻覚とは全く異なり、健康な反応であるとされた[9]。歴史節に示したように、神秘主義や宗教的修行時の体験との関連も指摘されてきた。 また1990年代には脳機能イメージングが登場し、特にfMRIの登場によって研究が進展している[5]。ババク・ボルージュルディによる研究は、視覚が遮断されると数分のうちに視覚野が興奮することを報告し、またヴォルフ・ジンガーらの研究は、視覚芸術家に対して行い、幻覚の出現と同時に、後頭葉と下部側頭葉の視覚系が活性化し、前頭前皮質の反応をfMRIが示したことによって、心象と幻覚は根本的に異なることが結論された[5]。 マギル大学での実験では、脳波が遅いアルファ波に傾いてくることが報告され、別の実験ではさらに遅いシータ波やデルタ波が出現すると報告された[6]。座禅やヨガの際に生じる脳波と類似していることから注目された[6]。 感覚遮断はリラクゼーションや瞑想の手助けとなり、心理療法としても用いられている。
幻覚の出現
覚醒水準が低下し、夢などと、覚醒時の体験を混同している。
遮断の際の原始的な恐怖感が投影され、幻覚として体験される。
生理学的影響
心理療法としての利用「アイソレーション・タンク」も参照
脚注^ a b 小田晋 1976, pp. 196?197.
^ a b c d e f g 大熊輝雄 1962, pp. 687?688.
^ 環境刺激制限の心理学―研究小史 1986, p. 21.