性的指向の定義については一定していない部分もある。とくに性的指向に「恋愛感情」を含めることの是非については、性的少数者の当事者や支援者の間では意見が分かれている。
LGBT法連合会は「人の恋愛感情や性的な関心がいずれの性別に向かうかの指向」とし、具体例として「同性愛」「異性愛」「両性愛」を挙げている[13]。また、一般社団法人LGBT理解増進会も性的指向を「恋愛の対象」「好きになる性別」と定義しており、具体例として「同性愛」「両性愛」「全性愛」「無性愛」「非性愛」を挙げている[14]。一方、当事者活動家などからなるヨーロッパ最大級のLGBT権利団体のひとつであるストーンウォールでは、「sexual orientation(性的指向)」を「romantic orientation(恋愛的指向)」と分けて扱っており、「orientation」という単語を性的指向と恋愛的指向を包括的にカバーする用語として用いている[15]。性的指向に恋愛的な感情を含めずに恋愛的指向として分ける考え方は主にアセクシュアルやアロマンティックのコミュニティで広く受け入れられている[16]。
性的指向は性同一性(性自認)とは異なる概念である[17]。性同一性がなんであれ、どんな性別の人に惹かれるかは個人で違ってくる[17]。
以前は「性的嗜好(sexual preference)」という用語も使われたが、この用語はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの人々に自発的選択の帰結であるという印象を与えるため、1991年にアメリカ心理学会が「sexual orientation」の用語を使用することを推奨するという指針を表明したことにより、性的指向という用語が成立したという経緯がある[18][19][20][21][22][23]。よってそれ以降、心理学、精神医学などの学術的分野では「sexual orientation」の用語が用いられるようになった。アメリカ心理学会のスタイルガイドは、「sexual preference(性的嗜好)」や「sexual identity(セクシュアル・アイデンティティ)」ではなく、「sexual orientation(性的指向)」が適切であると説明されている[24]。また、「sexuality(セクシュアリティ)」よりも性的指向という言葉で表現するほうが一般的に好まれる[25]。「性的嗜好」も参照
性的指向は、それ自体を自分の意思で選択することはできず、途中で変えることを選ぶこともできない[26]。「転向療法」も参照 主な性的指向の種類を挙げる。 行動科学においては、男性や男らしさに対して性的魅力を感じる男性愛(アンドロフィリア)や、女性や女らしさに対して性的魅力を感じる女性愛(ガイネフィリア)なども性別二元制に替わる性的指向を指す表現として使用される[27]。
種類
異性愛(いせいあい)とは、自身の性別とは異なる性別の者へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ヘテロセクシュアル。
同性愛(どうせいあい)とは、自身の性別と同じ性別の者へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ホモセクシュアル、レズビアン、ゲイ。
男性愛(だんせいあい)とは、男性へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。アンドロフィリア。
女性愛(じょせいあい)とは、女性へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ガイネフィリア。
両性愛(りょうせいあい)とは、2つの性の両方へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。バイセクシュアル。
多性愛(たせいあい)とは、3つ以上の性の者へ恋愛感情や性的願望を抱くこと。ポリセクシュアル。
全性愛(ぜんせいあい)とは、あらゆる人々に恋愛感情や性的願望を抱くこと。パンセクシュアル。
無性愛(むせいあい)とは、あらゆる人々に恋愛感情や性的願望を抱かないこと。アセクシュアル。
歴史詳細は「LGBTの歴史(英語版
ほとんどの歴史家は、世界のあらゆる文化において、同性愛や同性同士の性行為が大昔から存在していたと同意している[28]。「同性愛の歴史(英語版)」も参照
人間の性行動を理解するための科学的な初期の取り組みは、カール・ウェストファール(英語版)、リヒャルト・フォン・クラフト=エビング、ハヴロック・エリスなどの研究者によって1800年代後半にもたらされた[28]。1940年代のアルフレッド・キンゼイが発表したキンゼイ報告は性的指向をスペクトルで評価し、整理を試みるものとなった[28]。
1973年、アメリカ精神医学会が診断マニュアルから同性愛を「病気」の分類から削除した[28]。「DSMにおける同性愛(英語版)」も参照
1970年代からセクシュアル・マイノリティとされる性的指向を持つ当事者は平等を求めて組織化し、各地で権利運動を展開した[28]。これは後に世界的なLGBTの権利運動として拡大した[28]。現在、LGBTの権利は国際人権として位置づけられている[29]。基本的人権の蹂躙などの問題は、国際人権法に基いて改善が目指されており、国際連合や国際機関の諸文書において議論されることが一般的となっている[30]。アパルトヘイト廃止後の1996年に採択された南アフリカ共和国憲法は、その第2章第9項の法の下の平等に関して人種、性別、言語、文化、障害、年齢に加え、性的指向による差別禁止を明記した。2004年にEU首脳会議で採択された欧州憲法の「第二部連合基本権憲章,第三編平等 第II-81 (II-21)条 無差別」では、国民的少数者、障害、年齢と共に性的指向による差別の禁止が明記された[31]。ただし、フランスとオランダは批准を拒否したため欧州憲法は未発効となり、2007年に大幅に修正された改革条約(リスボン条約)が署名された(発効は2009年)[32]。「国・地域別のLGBTの権利」および「国際連合におけるLGBTの権利」も参照
メカニズム
自覚詳細は「性的指向の人口構成(英語版)」を参照
子どもたちは思春期に入ると自分の性的指向を認識することが多い[26]。ただし、自分の性的指向を認識し、それを受け入れるには、時間がかかることがある[26]。マイノリティな性的指向を持つ場合、それをカミングアウトして明かすことは、多くの嫌がらせに直面するリスクがあるかもしれないため、自分の性的指向を秘密にしてしまうこともある[26][33]。アメリカの調査では、ゲイおよびバイセクシュアルの大学生の48%は高校時代に自分のその性的指向を把握していたと答えている[33]。一方で、中学生の時点で把握していたと答えたのは男性で20%、女性で6%、小学生の時点で把握していたと答えたのは男性で17%、女性で11%という結果になっている[33]。