性的倒錯
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日本の精神医学界では、昭和時代の初期頃まで一部で変態性欲 (英:Sexual perversion)などと呼ばれていたが、異常性が強調されてしまう言葉であることから、客観性や中立性を表現できる病理学的な専門用語が求められるようになり、英語圏で普及していたパラフィリアを意訳した性的倒錯(せいてきとうさく)という言葉が大正時代頃から次第に普及するようになった。

しかし、「変態」や「異常」という言葉はもちろんのこと、「倒錯」や「逸脱」といった言葉でも一般的には誤解を招きやすく、客観性や中立性に欠ける表現になりかねないとの配慮から、アメリカ精神医学会(APA)や世界保健機関(WHO)などで使用されている、障害であることを積極的に意味する精神障害や、前述したパラフィリアなどの専門用語を積極的に使用する方が望ましいとの意見もある。
精神医学における概念や分類「精神障害#定義」も参照

ここより、精神疾患としての性的倒錯を述べる。この概念は、精神医学または臨床精神医学などにおいて、精神障害の一分類であるパラフィリア障害群として認識されている。以下で示す診断基準などは記述精神医学に則っており、表出する症状に着目しており、その内面性にはあまり比重を置いていない。
一般的な用法との区別

精神医学的に正常な性的嗜好やフェティシズムの定義や分類と重複したり混同する場合が多い。例として、サディズム(加虐性愛)やマゾヒズム(被虐性愛)などの用語は、パラフィリアともなりうるものとして存在するが、同時に正常な性的嗜好や性風俗などの用語としても用いられており、境界線はない。

精神医学的には、正常な性嗜好を逸脱している場合には、性嗜好障害(せいしこうしょうがい)や性嗜好異常(せいしこういじょう)である。
診断基準

国連WHOが定めている精神疾患に関する分類『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD-11)では「パラフィリア症群」は以下の内容で特徴づけられると説明されている[2]。関連して「個人的な機能障害を伴わない社会的逸脱または葛藤だけのものは精神疾患に含めない」という方針がある[2]

持続的かつ強烈な非典型的性的興奮パターンを有する。

そのパターンは、同意能力のないあるいは同意を拒む者を対象とする。

もしくは、そのパターンは、自身に著しい苦痛をあたえる。ただし、それはその興奮パターン自体によるものであり、単にその興奮パターンが他者から拒絶されること、または他者から拒絶されるのを恐れることによる二次的なものではない。

もしくは、そのパターンは、たとえ相手の同意があったとしても自身か相手に傷害・死亡に至る重大なリスクを生じさせる。

アメリカ精神医学会(APA)による『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版改定版(DSM-IV-TR)では、「性嗜好異常(Paraphilia)」である。性嗜好異常の項目では、すべての性嗜好異常に共通する第一段階における診断規準が記述されている。精神疾患であると診断する為の条件として、少なくとも以下の2点を同時に満たすことが必要と定義されている。なお2013年に出版されたDSM-5の日本語版では、「パラフィリア障害群」という用語を採用している。(1)当人が自分の性的嗜好によって、心的な葛藤や苦痛を持ち、健康な生活を送ることが困難であること。(2)当人の人生における困難に加えて、その周囲の人々、交際相手や、所属する地域社会などにおいて、他の人々の健全な生活に対し問題を引き起こし、社会的に受け入れがたい行動等を抑制できないこと。

従って、これらを同時に満たしていない場合は、精神疾患としての性的倒錯とは診断されない。

例として、当人が自身の性的嗜好に葛藤や苦痛を持たず、日常生活に支障がなければ、(1)の条件を満たしていないのでパラフィリアとは診断されない。また、当人が葛藤や苦痛を持っていても、第三者や社会秩序にとって脅威や問題がない場合は、(2)の条件を満たしていないのでパラフィリアとは診断されない。

さらに、当人が何らかの性的嗜好を持っていたとしても葛藤や苦痛がなく、第三者や社会秩序にとっても具体的な問題が生じていない場合は(1)と(2)の両方を満たしていないので、精神医学的にも社会的にも許容範囲の性的嗜好とみなされ、つまり医学的には正常な性嗜好である。
分類

以下、各国の医療機関で準拠することの多い世界保健機関(WHO)やアメリカ精神医学会(APA)が定義した、精神疾患としてのパラフィリアの分類を挙げる。各症例については後述「パラフィリアの類型」を参照のこと。

なお、非常に稀な症例や少数の報告例しかない場合は、何れの医療機関も総合的な「性的倒錯」や単に「その他」などの分類に含めて割愛されることが多い。ただし、症例や報告例の数の多い少ないが、病理的な意味や重篤さの程度を示す指標にはならないので注意が必要である。
世界保健機関

国連の世界保健機関(WHO)が定める『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』(ICD)の第11版では、以下がパラフィリア症群の分類として定義されている[2]。以前は「性嗜好障害」という項目があった。しかし、2019年の「ICD-11」からは「性嗜好障害」という言葉を使わずに「パラフィリア症群」という言葉を用い、「フェティシズム」の用語はカテゴリから消えた[2]


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