性教育
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また、アメリカのレビューは「圧倒的なエビデンスの重みは、避妊について議論する性教育が性行為を増加させないことを示している」と結論づけている[16][17]。2007年の調査では「包括的プログラムは、性行為の開始を早めたり、性行為の頻度を増加させることはなかった。」「包括的プログラムは、男女ともに、すべての主要な民族グループに対して、性的に未経験の10代と経験済みの10代に対して、様々な環境・コミュニティにおいて効果があった」ことを示した[17]

より包括的な性教育が行われることで、性感染症や妊娠率は低下する[18]。また、性教育の内容によって、子どもたちの意識が異なることもわかっている。オランダの性教育カリキュラムとアメリカの性教育カリキュラムの比較によると、(より包括的な性教育が行われている)ヨーロッパとオランダの10代の若者は、(あまり包括的な性教育が行われていない)アメリカの10代の若者よりも、平均して高い年齢で性交渉を行っている。オランダの10代の若者が積極的かつ同意の上で最初の性体験をしたと報告しているのとは対照的に、性的にアクティブなアメリカの10代の若者の66%は、最初の性体験をもっと待てばよかったと報告している[19]

オランダでは、10代の若者の10人に9人が初めての性体験の際に避妊をしており、これが妊娠率や性感染症の感染率の低下に寄与している[20]。小学校程度から始まるより包括的な性教育は、性の多様性への理解、デートや親密なパートナーからのDVの防止、健全な人間関係の構築、児童性的虐待の防止、社会的・情緒的な学びの向上、メディアリテラシーの向上につながった[21]
性教育の国際指針と包括的性教育「包括的性教育」も参照

インターネットの急速な普及で、子どもたちが性情報に曝されるようになり、各国が性教育の国際指針を取り入れた性教育実践を進めている[22]。1999年に世界性科学会(World Association of Sexology)が性の権利宣言を出し、これ以降、多様な国際機関が性や性教育に関する指針を出している[22]

パン・アメリカン保健機関(英語版)(PAHO)と世界性科学会(WAS)が WHO と共同で、2000年に『セクシュアル・ヘルスの推進・行動のための提言』を作成、行動戦略の一つに「包括的性教育をすべての人々に提供する」ことを挙げた[22]。包括的性教育(comprehensive sexuality education(CSE))は、アメリカではHIVの予防や10代の予期せぬ妊娠・中絶を減らすことを直接的な目的に始まった[22]

2009年には、UNESCO等が「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を出しており、5-8 歳、9-12 歳、12-15 歳、15-18 歳の発達段階ごとに学習目標が設定された[22]。包括的性教育プログラムによる教育を受けた生徒と受けていない生徒の性行動調査の報告も掲載されている[22]。女子栄養大学の橋本紀子は、このガイダンスは、「「禁欲主義教育(純潔教育)」に対抗し、グローバルに性教育を普及させるために、広範な合意を得られる「性の不健康の防止」に重点を置かざるを得ない側面がありました。」と述べている[22]

2010年には、WHOヨーロッパ地域事務所(WHO加盟の欧州とイギリス、中央アジアを含む53カ国をカバー)とドイツ連邦健康啓発センターによって「ヨーロッパにおけるセクシュアリティ教育スタンダード 政策者、教育・健康機関および専門家のための枠組み」が出された。これはより「セクシュアリティの局面を全方位的にとらえ、セクシュアリティを誕生から人間の生涯にわたる「人格と性の成長・発達」として、とらえ、彼らの性教育プログラムを「Holistic Sexuality Education(ホリスティックな性教育) と表現」しており、「これまでより関係性の側面を重視し、人格的な結びつきを強調するもの」となっている[22]

この2つが国連諸機関の言う包括的性教育の普及に大きく貢献し、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、民主党政権の米国、南アフリカ共和国、東アジア、南アジアの国々(中国、台湾、韓国、タイ等)でも取り組まれるようになった[23]。 男女間での性に関する知識やスキルについてだけでなく、ジェンダー性的志向の多様性、人権、幸福を学ぶ概念としての包括的性教育が普及しつつある[1][24]

2009年のUNESCOらのガイダンスは2018年1月に改訂され、ジェンダーの理解や価値、文化などの側面が強化され、欧州のスタンダードに近づいた[22]。8領域の広い射程からセクシュアリティを捉え、性行為や避妊の方法だけでなく、友情や恋愛などに関する人間関係やジェンダー論まで、包括的な内容となっている[22][25]。国際セクシュアリティ教育ガイダンスにおける8つのキーコンセプト:
人間関係

価値観、人権、文化、セクシュアリティ

ジェンダーの理解

暴力と安全確保

健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル

人間のからだと発達

セクシュアリティと性的行動

性と生殖に関する健康
? 『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』[9]

国連人口基金(UNFPA)は2014年に「包括的性教育運用のためのガイダンス- 人権とジェンダーに焦点をあてて」を出しており[23]、包括的性教育を推奨している。UNFPAによると、包括的性教育とは次の通りである[26]。包括的性教育は、若者の発達に合わせて、年齢に応じた情報を提供しながら、数年間にわたり行われる。人間の発達、解剖学、妊娠に関する科学的に正確な、カリキュラムに基づいた情報が含まれる。また、避妊やHIVを含む性感染症に関する情報も含まれる。さらに、情報を与えるに留まらず、自信やコミュニケーション能力の向上も促す。カリキュラムは、文化的規範、家族生活、対人関係など、セクシュアリティと生殖を取り巻く社会的問題にも取り組むべきである。

人権問題、ジェンダーの平等、ジェンダーの役割は、こうした議論のあらゆる側面に組み込まれるべきであり、これには、人権の保護、充実、エンパワーメント、ジェンダー差別の影響、平等とジェンダーに対する配慮の重要性、ジェンダー役割の根底にある考え方が含まれるとしている。性的虐待、ジェンダーに基づく暴力、有害な慣習も議論されるべきである。これらにより、若者たちは自分自身の行動に責任を持ち、他者の権利を尊重するために必要なライフスキルを学ぶことになるという[14]

包括的性教育は、「若者が自分のセクシュアリティと健康について、十分な情報を得た上で決定できるようにするものである。これらのプログラムは、ライフスキルを身につけ、責任ある行動を促すものであり、人権の原則に基づいているため、人権、ジェンダー平等、若者のエンパワーメントの推進に役立つ。」[14]
性教育プログラムの検証

オーストラリアやイギリス、アメリカの一部の学校では、10代の妊娠を防ぐ目的で、子育ての実際を教えるために、生徒がリアルな赤ちゃんロボットを預かり、ミルク、おむつなどの世話するプログラムが行われているが、それが実際に期待通りの効果を上げたかについての研究はほとんどなく、10代の妊娠の減少という目的に効果があるという証拠はほとんどない[27][28]。ランセット誌に掲載された2016年のオーストラリアでの研究では、プログラムに参加した女子の10代での妊娠率は17%、参加しなかった女子は11%で、わずかではあるが統計的に有意な差が見られ、目的とは逆の結果が示された[27][29]。サリー・ブリンクマン准教授は、「10代の若者は脆弱な集団であり、彼らを対象とした介入ベースのプログラム、特に人生に影響する可能性のある10代の妊娠のようなものに対処するプログラムは、常に確実な証拠に裏付けられるべきである」「私たちの研究が示したのは、たとえ非常に善意に満ちたプログラムであっても、予期せぬ結果をもたらす可能性があるということだったと思う。だからこそ、研究は非常に重要なのだ。オーストラリアは10代の妊娠率がOECD加盟国21カ国の中で6番目に高く、この問題の一因となるプログラムに資金を提供すべきではない。」と述べ、赤ちゃんロボットを世話するプログラムは生徒たちにとって魅力的でやりがいを感じていると思われ、赤ちゃんロボットを返却する際に非常に動揺し、中にはカウンセラーが必要になる女子もいたと指摘している[27]。こうした研究結果にもかかわらず、このプログラムを引き続き行っている学校もあり、赤ちゃんロボット RealCare Baby の製造元によると、2019年時点でアメリカの学区の3分の2で使用されている[28]

イギリスでは、10代の妊娠、薬物使用等の減少のための青少年育成プログラムの有効性を評価するため、専門家によって10代の妊娠、薬物乱用、学校からのドロップアウトのリスクがある、または脆弱であるとみなされた13-15歳の若者を対象に、54の青少年サービス施設で、介入性・薬物教育を含む集中的で多要素の青少年育成プログラム(Young People's Development Programme:YPDP)と標準的な青少年教育との前向き比較研究が行われた[30]。主なアウトカム指標は18ヵ月後時点での、妊娠、週1回の大麻使用、月1回の飲酒などで、結果は、介入群の女子は比較群の女子よりも妊娠を報告することが多く(16%対6%)、介入群の女子はまた、早期の異性間の性体験(58%対33%)および10代で親になるという予測(34%対24%)をより多く報告しており、介入が異性経験の遅延や妊娠、飲酒、大麻使用の減少に効果的であるという証拠は認められなかった[30]。悪影響が示唆された結果もあった[30]。方法論的な限界によって結果の一部は説明できるかもしれないが、それらしい原因としては、参加者がよりリスクの高い仲間と出会い、問題児というレッテルを貼られたと感じたことが考えられる[30]。プログラム内の性教育は比較的小規模で施設により実施内容にはばらつきがあり、また、性教育から生じる害のエビデンスは少なく、性的な行動に関する結果がプログラム内の性教育に起因する可能性は低い[30]。この実証プログラムは 2004 年から 2007 年まで実施された[31]
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