急性灰白髄炎はポリオウイルスとして知られるエンテロウイルス属のウイルスの感染によって生じる。この属のRNAウイルスは消化器系で増殖し[9]、特に咽頭や小腸を感染巣とする。初期徴候、症状までの潜伏期は3日から35日までの幅をとるが、一般的には6日から20日の間となる[2]。ポリオウイルスはヒトのみに感染し、疾患を引き起こす病原体である[10]。構造は極めて単純で、一本鎖の (+) 鎖RNAゲノムとそれを包むタンパク質の殻、カプシドのみによって構成される[10]。カプシドはポリオウイルスの遺伝物質を保護するだけでなく、ポリオウイルスを特定の細胞に感染させることもできる。これまでに3つの血清型が同定されてきた。それぞれ1型、2型、3型と命名され、それぞれわずかにカプシドタンパク質に違いがある[11]。3つの血清型全てが極めて病原性が高く、同一の症状を引き起こす[10]。1型は最も感染頻度が高い型で、麻痺との関連性が最も強い[12]。
症状が出るかどうか[13]、自然感染かポリオワクチンによる予防接種かどうかを問わず、ポリオウイルスの曝露を受けたヒトは免疫を獲得する。免疫を持つヒトの体内には扁桃や消化器系にポリオウイルスに対するIgAが存在し、ウイルスの増殖を防ぐ。また、ポリオウイルスに対するIgGやIgMはウイルスが中枢神経系の運動ニューロンに進入するのを防ぐ[14]。ある血清型に対する自然感染ないしワクチンは他の血清型に対する免疫を誘導しないため、完全な防御には各血清型の曝露を必要とする[14]。
稀にポリオウイルス以外のエンテロウイルスが感染することでポリオウイルス様の症状を引き起こすこともある[15][16]。 急性灰白髄炎は糞口経路(腸管が感染源)ないし口口経路(口腔咽頭が感染源)によって感染し、いずれの経路も感染性が高い[14]。流行地域ではほぼ全てのヒトに野生型ポリオウイルスが感染する[17]。温帯気候においては季節性に流行し、夏から秋にかけて新規感染が増加する[14]。一方、熱帯地域ではこの流行の季節性はほとんど不明瞭となる[17]。潜伏期(incubation period)として知られる曝露から初期症状までの期間は、通常6日から20日で、最短で3日、最長では35日間となる[18]。ウイルス粒子は初期感染の後、数週間にわたって糞便中に排泄される[18]。ポリオは基本的には汚染された食べ物や水の摂取による糞口経路で伝播する。一方で偶発的に口口経路によって伝播することもあり[12]、特に公衆衛生が整備された衛生的な地域によって観察される[14]。ポリオの感染性は発症の前後7から10日の間に最も高くなるが、唾液や糞便中にウイルスが存在している限り感染の可能性がある[12]。 ポリオの感染や重篤化の危険性を高くする因子として、免疫不全[19]、栄養失調[20]、麻痺発症直後の物理的運動[21]、ワクチンや治療薬の接種による筋骨格系の損傷[22]、妊娠[23]がある。@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}妊娠時にウイルスは血液胎盤関門を通過できるが[要出典]、胎児は母体の感染にも[要出典]ポリオワクチン接種にも影響を受けないようである[24]。母体の抗体もまた胎盤を通過し、新生児を生後2?3ヶ月に渡りポリオ感染から保護する受動免疫を与える[25]。 ポリオウイルスは口から体内に侵入し、最初に咽頭か小腸粘膜
感染経路
病態生理ポリオにより閉塞した腰部前脊髄動脈
ウイルス血症として知られる血流へのウイルスの拡散により、ポリオウイルスは全身へ拡散する。ポリオウイルスは血中およびリンパ液中で長期間生存、増殖可能で、17週間にわたり循環することがある[28]。少数の症例においてはウイルスが褐色脂肪、細網内皮系、筋などの他の組織でも増殖する[29]。この持続的なウイルスの増殖は重度のウイルス血症を招き、軽微な感冒様症状の発展につながる。稀にこれがさらに進行し、ウイルスが中枢神経系へ侵入、局所的な炎症反応を誘起する。中枢神経系にウイルスが侵入してもなお、多くの症例では脳を包む層状の組織、髄膜に炎症が限局し、これは非麻痺型無菌性髄膜炎と呼ばれる[5]。CNSへの感染がウイルスに与える利点は無いと考えられており、CNSへの感染は通常の消化器感染から事故的に生じるようである[30]。